257:ダンジョンクローラー(シガミー御一行様)、ダンジョンクロウラー
姫さんの不意打ちをくらったせいか、おかしな魔物が四つ足をついてうなり始めた。
その声は、「ギャッギュギャギュギュギュギュギャギュギュギュギュギュギュギュギュ――!!!」
うるせぇ。あと念話じゃねぇ。
「ちょっと聞きてぇんだが、おれぁ今さっき、あの魔物たしかに斬ったよな?」
間がねぇ攻撃にさらされて、焦ったあまりの勘違い。
てぇなことも、ねえとはいえねぇ。間近でみてた彼女の話を聞く。
「そうですわっ! 敵から目をはなしたうえ、剣を抜ききらずに、すぐ納めたりして――どういうおつもりでしたのっ!?」
うしろから頭をガシリと、つかまれた。
「(小太刀を抜いてない――だとぉ!?)」
迅雷――おれぁ斬ったよな?
「――はイ、たシかにミノタウロースの胴ヲ、横なギに両断してイます――」
五百乃大角――というわけだけど、何かわかるか?
ふぉん♪
『イオノ>ちょっとまって、今ログを確認するわ。
けど頁が多いからミノタウさんは、
エネミーなのに高負荷演算使ってるかも』
わからんが、わからんときになんかを見かえして、くわしい事実がわかるとは便利な世の中だぜ。
ただ、はやくしてくれ。魔物がいつまでも大人しくしてくれてるわけはねぇからな。
「シガミー? もう一度あんなマネしたら、名代に言いつけますわよ?」
ギリギリギリリ――痛ぇ。
そしてそんな告げ口されたら――
「えぇー? そのお命ぃー、いーらぁーなぁーいぃーのぉー?」とかいって、ひがな一日試し斬りにでも付き合わされそうで――怖ぇ。
「どうもなんか魔物にされて、手が止まったみてぇだ。姫さんもみんなも気をつけてくれ!」
どう気を付けりゃ良いのかは、まだわからねぇけどな。
ヴォォォン♪
お、大きめの画面が出たぞ。
なんかの確認が終わったらしぃ――ってこりゃあ、なんだぜ?
『イオノファラーさんご垂涎、超いつかは食べたい料理ランキング第一位!
<おすすめ>ミノタウロースのヒレ肉を使った、史上最美味ビーフストロガノフ』
魔物を使った霊刺秘……飯の作り方じゃねぇかよ!
あとメシの名前がなげぇ。きっとスゲー手間がかかるやつだぜ、まったく!
「それとな、こんな時に悪ぃんだけどアイツさ、角を先に壊さねぇといけなくなっちまった」
「――ワケは話せませンが――」
迅雷の音声通話は耳栓を通じて都度、必要なあいてに伝えられてる。
「――うふぷぷぷ――っ、ノタウロースなのにロース肉が採れなくて残念だけどさっ、史上最美味のフィレ肉だって――――グフヒヒ、ウケケケケケケケッ♪――」
やい、いーから手を動かせ。
ミノタウのなんだかを、とっとと調べてくれ。
「ふぅ、わかりましたわ。イオノファラーさまの要請と有れば致し方有りませんもの」
「(んぁ? 五百乃大角の声は、みんなにも聞こえてんのか?)」
「――どうやラ、そのようでデす――」
「――コレわぁー、あなた方だけには任せておけませんねぇー♪ なんたってあたくしさまのおいしいごはん――超レア食材のぉー、フィレ肉がかかって・い・ま・す・か・るぁー♪」
「「「「イオノファラーさまの声だ」」」」
もう本当に食い意地を隠す気が、ねぇらしいぞ。
「――美の女神とハ?――」
言ってやるな。ソレにちょうど聞かなきゃならねぇことが出来た。
へそを曲げられても困る。
「(おい五百乃大角、ひとまず攻略本をみてくれゃ。対価はこの『ミノタウ肉の美味いなんとか』をキッチリ作ってやるから」
迅雷が知ってることとは別に、わかることもあるかも知れねぇからな。
ふぉん♪
『イオノ>えーと、ダンジョンクロウラーの一種で、
あまりの厳格さに最低実行環境に制限が付いてるみたい。
くわしい内容は迅雷に聞いて』
ことうまい飯がかかったときの、美の女神さまの気合いは揺らがない。
丸投げしてるわけじゃないから、迅雷に聞けば何かわかるのは確かだ。
「(わからん、どんなだ?)」
『ヒント>ダンジョンクロウラー/永久パターンや上級プレイヤーによる、
無限プレイを禁則するための破壊不能オブジェクト』
「(わからん、どんなだ?)」
「――かツて原始的ナ世界維持に使用さレた、世界ヲ正ス物の総称でス――」
世界を正すだぁ?
わからんし、魔物だろーが。
ふぉん♪
『>ダンジョン専用の、変異種のような存在とお考え下さい』
変異種だぁ?
ガムラン町にも注意の張り紙が、べたべた貼ってある超危険な魔物の総称。
ふぉん♪
『変な魔物にピンときたらソレは――
変異種【バリアント】かも知れません!
お近くのギルド会館までご連絡を。』
邪魔だ、消せ。
張り紙を表示しなくて良い。
けど――変異種か!
草原に居る角ウサギが変異したら、聖剣切りの閃光でさえ手こずる化けウサギになったからな。
わかったぜ、どうりで強ぇワケだ!
ふぉん♪
『>ミノタウロースの間隙がない攻撃の原因も、判明しました』
ソレはでかした、聞かせろ。
ふぉん♪
『>ミノタウロースが生物単体で演算単位を使用したため、
F.A.T.Sが高負荷に耐えられなくなった事が原因です』
わからん。
超わからんけど……演算単位ってのは神々がつかう――頓知を底上げするヤツで。
迅雷とか酢蛸とかを作るのに使われてるヤツだ。
本式のは五百乃大角でさえ、もう使えねぇのに――あのおかしな魔物が使ってきてる?
ふぉん♪
『イオノ>やっと、わかったわよ。
ミノタウロースの処理落ちだった』
ほほう、やっと調べが付いたらしいが、順当にわからん。
ふぉん♪
『>了解しました、イオノファラー』
オマエらだけで、納得すんな!
「――斬られたハずのミノタウロースが復活しタ理由ガ、判明しまシた――」
ソレはでかした、聞かせろ。
ふぉん♪
『>基本的には、FATSとの接続が遮断されたことに起因します』
また、神々の船か。
ふぉん♪
『>はい。その機能を〝世界の理〟が肩代わりするにあたり、
手順を間引いて辻褄を合わせたため、起きた現象でした』
のそり。
画面の奥、透かして見えてる短ぇ魔物が立ちあがった。
長々と説明きいてる時間は、ねぇーぞ。
ふぉん♪
『ヒント>ロールバックネットコード/通信ラグを軽減させる間断予測ライブラリ』
ダンジョンクロウラー/永久パターンや百円で粘る上級プレイヤーを殺すための強敵。倒せない敵のこと。




