２５５：ダンジョンクローラー（シガミー御一行様）、強敵があらわれた
「シガミーちゃん、そろそろ遊んでばかりも居られなくない？」
そういってフッカが、自分の冒険者カードの――
ギルドの文様が入ってる側を、見せてきた。
文様の下にある空いた余白の左端。
『〇〇○／△△／××
現在時刻 ０４：５３』
たしかに、そろそろ夜が明ける。
そうすると、フッカの一式防具の恩恵――
〝打たれ弱い魔術師を狙ってくる魔物に、いくら囓られても平気〟作戦が使えなくなる。
「じゃあ、先を急ぐか。そろそろ出口の階段も見つかるだろーし」
三匹のおもちが歩くことで、見る間に書きあがった地図。
「そうだね」「そうですわね」
おもちで遊ぶのにも飽きたのか火縄――じゃなくて〝もちコン〟を一斉に構える子供と冒険者代表。
カチカチカチカチ――カッキン♪
連射される引き金。
ふっすふすふす、ふすふふすふふっ――――。
ふたたび迷宮へ駆けこんでいく、三匹の鉄餅①～③。
「おおーー、速ぇ速ぇ♪」
「お手柄ですわね、レイダ♪」
「えへへっへへへっ♪」
ヴォォン♪
『□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□
□□□□□ □□□□□
□□□□ ② □□□□
□□□□□ □□□□□
□□□□□ □□□□□』
おれが操る『②』が、四辻で止まった。
「――引キ金ヲ引きつづけレば、まダ歩いてイない順路ヲ探シて端かラ順に回りマす――」
「じゃあ、ソレで」
「わたしも、ソレで」
「わたくしも、ソレで」
「「「おおー」」」
①②③たちが、行ったり来たりし始めた。
その動きに迷いはなく、あっという間に①が通路の端に行き着いた。
ほどなくして③も、端に到達。
ヴォォン♪
『火龍の寝床Ｂ１Ｆ踏破度――９８％』
地図ののこりは――２％。
②が行き着く先に、階段がある。
「――シガミー、おもち②ノ反応消失シました――」
①と③はちゃんと動いてる。
通れる道がなくなったから、コッチに戻ってきてる。
②が居なくなったらしい。
落とし穴にでも落ちたか？
ヴゥン――――ぽこふすん♪
新しい鉄餅②をだしてると、通路入り口に――のそり。
「なんだ②、ちゃんと戻――――!?」
ソコに居たのは――ズングリとした寸足らず。
短めの毛皮は、血濡れてるのかと思ったほど赤黒く。
目は赤く大きな口からは、涎が垂れていた。
「なんだ――魔物か!?」
形は小せぇが、普通じゃねぇぞ。
ヴッ――ジャリィン♪
錫杖を取りだす。
鉄餅だって、そこそこヤルのに……あんなちっさいのに負けたのか。
おもち用魂徒労裏……もち魂をテーブルに放りだして、出した錫杖をかまえ――――
「動いてはいけません、シガミー!!!」
なんていう、リオの必死な声。
「なんでこんな低階層に!?」
腰を落とす黒騎士。
「え？ まさか――――ミノタウロース!?」
尻餅をつく、フッカ嬢。
腰を抜かしたのかも知れない。
「ぎゃぁぁぁぁっ――んむぐ!?」
暴れ出した子供を抱きかかえ、口をふさぐ給仕服。
「むぅ――――（こいつぁ、強敵なのか？）」
「――そのヨうです――」
ヒュヒュヒュヒュヒュ――ヒュン、ゴガン！
ジャリィィン――――相手にとって不足はねぇ♪
「かかってこいやぁ！」
「（おうがり、ばさがる。かちのは、よてなう）」
何か言ったか――姫さん居るから念話は使うなよ。
ふぉん♪
『＞私ではありません。体感時間への外部からの干渉を検出』
息をしたら、恐ろしくでけぇ角が目のまえにあった。
姫さんとかルコルの〝先制攻撃スキル〟より速ぇ。
ニゲルの〝勇者の歩み〟と同じような――
だけど、それだけじゃねぇ――こいつ!?
「（念話つかって――きやがる！）」
突き上げられる大角！
ギャリリリリィィィィンッ――散る火花！
錫杖ごと弾かれたおれは、「（金剛力だ！）」
『▲▲▲』
ブブブブッキャチャカチャキャチャ――ぱしゃん！
細腕が、おれに巻きつく。
錫杖をぶん回して、空中を横に避けたはずなのに。
ギャリィィィンッ――まただ！
着地の瞬間がなくて、コッチが息を継ぐと――勢いよく、ぶち当たってくる！
テーブルの上の猫耳頭を、錫杖の鉄輪で引っかけた。
「リオ、たのむ！」
迅雷無しでも強化服がありゃ、そうそう怪我することはねぇ。
給仕服の方に猫耳頭をぶん投げて――――ギャリギャリィィンッ！
四方八方から飛んでくる角を、死に物狂いで受けつづける。
まさか通路側から正面突破されるとは、思いも寄らなかったからしかたがねぇけど――いまの位置取りはマズい。
どうする、地上への通路をふさいでる大盾をどかすか!?
ふぉん♪
『ミノタウロース／
二足歩行。巨大な角に小さな蹄。
手が付けられないほどの乱暴者。
すじ張ってて食べるところがないが、
一匹につき５００グラムだけ採れるヒレ肉は、
値が付けられないほどの珍味。
ただし二本ある角を破壊した後、とどめを刺さないと固くなる。
ミノタウロースのヒレ肉、
それは見ただけでも、一生自慢できるほどに希少。』
なげぇ――やべぇな。
よりにもよって〝食ったらうまい〟のか、こいつわぁ。
「――はイ。強制介入さレる前に――」
引導を渡してやる！
「姫さん、あいつなんかやべぇ！ 今すぐぶった切ってくれっ!!!」
「きゅ、急に、そんなこと仰っても――!!」
どうした!? いつもなら止める間もなく切り込んでるだろうが。
ギャリィィィィィィンッ――――いまおれをかすめていった大角が。
おれが息を継ぐと――――
「（るについ、らけあく、ふこさぬ、ねごわま）」
念話とともに、別の場所からあらわれる。
息を〝吸って吐く〟と、別な方角からあらわれる。
なら――息を吸って、いま飛びかかられた方角へ避けりゃ――――ドゴォォォン♪
はじめて避けられた。
けど空を切る突進が、まるで火縄の音で。
まともに食らうと、蘇生薬の出番だ。
ドゴォォォォンっ――ギャリィィィィィイィィィイィ
ィンッ！
避けないと体が貫かれる気配。
姫さんの聖剣切りで、慣れてたつもりだったけど。
溜めもなしにぶち当たってくる獣の体が、ソコに居るのとでは大違いだった。
必死によけつづけていると、目の端に――仄暗い光が、ぽつぽつぽつぽつと。
「ふざけてないで、いますぐ切ってくれっ！」
ぼごうゎ、ぼごうわぁっ――ギャリギャリギャリィィィン！
その狐火（小）じゃ、はやさも距離もぜんぜん足んねぇ！
はやくしねぇと、余計なヤツが来ちまう。
おれの小太刀でも、ニゲルばりのコイツは切れねぇ。
なんせ間も間合いもなくて、捉えられない。
「馬鹿野郎めっ、死ぬぞ――おれがぁ！」
「んなっ、バカとは何ですの、バカとは！」
ここん、こここん、こここここぉぉぉん♪
言い返しながらも、必死に狐火を放ってる。
ぼごぼごぼごぼごぼごごぅわぁぁ――♪
狐耳の視線の先、大きく揺らめく青い炎。
次々とあらわれては消えていく。
ほんと何やってんだ、今こそ伝家の宝刀の使いどきだぜ！
――――ギャッリィィィィィィィィィンッ――ォォン！
大角はすでに、目で追えない！
火縄の速さで飛んでくる魔物。
おれが金剛力を使ってなかったら、やばかった。
姫さんの月光をたたえた月影の瞳を――盗み見た。
「あれ？ まさか、ひょっとして――？」
瞳の中に有るはずの物が――見えない。
〝魔法の神髄〟を媒介にするための、文字どおりの〝空を切る〟――彫り物。
「そーですわよ、わるかったですわねっ！ わたくしいま、聖剣切りが使えませんのよっ！」
涙目のガムラン代表が、腰の剣に手を掛けた。
