250:ダンジョンクローラー(シガミー御一行様)、お宝はっけん?
「宿廊る?」
ふぉん♪
『ヒント>スクロール/紐で巻かれた書物。
巻物、ひいては魔法やスキルを覚えられるアイテムのこと』
風に吹かれてコロコロと、ひと束が足下に転がってきた。
「さすがは危険な穴蔵だぜ。とんでもねぇお宝があんなに、たくさん――しめしめうっひっひ♪」
おれは悪っるい顔で、品定する。
ぽふぉん♪
『マジック・スクロール?/
詳細不明』
上級鑑定でも見抜けねぇほどの――お宝かっ!?
つかみあげた〝宿廊る〟は日の本の巻物とは違って、ゆるく巻かれてて長さはそんなになかった。
ココはひとまず、袋に詰められるだけ詰めておくか。
うしろ手で、背中に突っ込――――
「いけませんっ!」
駆け寄ってきたリオレイニアに、頭を叩かれた!
まるで痛くねぇけど――「な、なにしやがっ……っているのでごぜぇますわぜ!?」
仮面越しでもわかる。彼女はとても怒っている。
「シガミー! コォン♪」
ぼっぼぅわぁ――♪
灼熱の溶岩が流れる亀裂の底。
煮えたぎる熱が、三本道付近を赤く染めている。
その中にあっても、仄暗い蒼さを失わない――命を喰らう灯火。
「ギュギ!? ギギギギギイギギッギッ――!」
お宝が狐火に炙られ――紐がほどけた!
「あっ――こいつ! さっきの武佐左妣じゃねーかっ!」
長いしっぽが紐で、ひだ羽根が巻いた紙にしか見えなかったぞ!?
ぽぽきゅ――ぽきゅどごぉん♪
二号の一撃が、地を穿つ。
「まったく、危ないところだったわ――ニャン♪ コレだからシガミーは――ミャ♪」
ぐ、さっき怒られた、はらいせか。
「なんだとうっ――けど助かった、恩にきる」
一瞬ムカついたけど、ソレはソレでコレはコレだ。
助けてもらったことに違いはないから、礼を言っておく。
状態異常無効スキルがあるから、刺されても毒を喰らうことはなかったけどな。
ヴッ――すぽん♪
レイダが手のひらを押しつけ、死骸を収納した。
「それにしても――昆布巻きみてぇな形しやがって!」
寸足らずの巻物……密書みてぇにもみえる。
コイツはゴーブリン石みたいに、ムササビ石にならないヤツで。
柔らかい革には、そこそこの根が付くらしい。
けど――「コイツらに、毒はねぇはず」。
ふぉん♪
『ヒント>カーペット・タイガー/
四つ足。空を飛ぶ、注意が必要。
柔らかい革が採れる』
荷物の中から〝薬草〟と〝毒草〟を取りだして、何度かスキルを使う。
こぽぽっ――良し完成。
出来た小瓶をフッカに手渡す。
ふぉん♪
『ヒント>スクロール・タイガー/
四つ足。丸くなる様はレアアイテムに酷似、
しっぽの毒にも注意が必要。
強靱な紐が採れる』
いまさら遅ぇぞ――迅雷。
「――演算単位ヲ使用しない〝類推にヨるヒント表示〟なノで、遅延ヤ誤り検出の誤りが発生する場合がありマす――」
いくら強くしても所詮、耳栓は耳栓か。
「――私が表示ヲ担当しましょウか? さラに表示が遅れマすが――」
いや、迅雷は強化服に専念してくれ。
案内表示もこのままで良い。ないよりは良いし――
「にっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぃ――――!?」
フッカさんが苦悩に満ちた。相当にがいらしい。
けど、どんなに些細な毒でも、残しておくと後が厄介だ。
「我慢してくれ――じゃあ、甘いのでも喰っとけ」
テーブル一式と茶道具と、茶請けにはガムラン印の〝おにぎり饅頭〟を出してやった。
「えぇー、ここで休憩? こんな熱い所で!?」
まだ顔色が悪いフッカさんが、文句を言う。
亀裂のしたから、グラグラと茹だる熱気。
たしかに熱い。
短い魔法杖を一回転させる、リオレイニア。
ひゅわわわわぉぉ。
一陣の風が辺りを冷やす。さすがは生活魔法おばけだ。
「おんせいにゅうりょく――ニャ、はっちおぉーぷん――ミャ♪」
とつぜん二号の頭が、うしろに開く。
「ま、魔物――!?」
「きゃぁぁぁぁっレイダちゃん、いま助けてあげるからねっ!?」
まだ例の〝シシガニャンが魔物に見える洗礼〟を、受けていなかったエクレアとフッカが大剣と魔法杖を――
〝魔物に喰われてるっていう洗礼〟は、間近でみなけりゃ起こらねぇからな。
「レイダ、私はシばらくシシガニャンかラ離れマす。モし暑かっタら体ノ方も、脱いでくだサい」
「はぁーい♪」
入れてもらった茶をすする子供。
自分で冷てぇ魔法をかけて、冷やしてる。
その様をみた黒騎士と魔術師が――気づいた。
「「ひょっとして……魔物じゃないっ!?」」
ふう、これで一段落か。
「シガミー、オ待たせいたしマした」
「おう、それで分かれた通路の先は、どうなってるんだ?」
ヴユュュュヴパァァァッ――。
飛んできた迅雷が、おれのうしろ頭に張りつくと、全部の表示が一斉にあらわれては消えていく。
必要ない表示が全部消えて、元に戻った。
「ん? 通路の向こうが、みえねぇぞ?」
「はイ、活力がこモった熱気にヨって、結界のよウな空間が存在していマす」
通路を向いて考えを巡らせていると――コロコロコロロロッ。
また野衾の昆布締めが、熱風で転がってきた。
「面倒だな……うらっ!」
面倒だったから蹴飛ばして、亀裂に放りこむ。
落ちる途中で熱風に煽られ、「ギギッギィィィッ」と燃えてなくなった。
ふふふ、ざまぁみろ。
「あー、ダメダメ。だめよ、シガミーちゃん! ……もぐもぐ」
フッカが饅頭をかじりながら、やってきた。
「別に良いだろう一匹や二匹。あんなにいっぱい居るんだから」
「ちがうの、あの中に万が一本物の〝スクロール〟があったらと思うと、魔術師としてはとても――見過ごせないのよっ!」
「フッカさん、たしかにアレだけのスクロール・タイガーが群生することは滅多にありません。お気持ちはわかります、私も魔術師ですから……ずずず」
リオが紅茶をすすりながら、やってきた。
みんな行儀が悪ぃな、せっっかく椅子も人数分出してやったのに。
「そーねー。これだけ群生してるってことは、本物のスクロールか、少なくとも〝似た形の物が、このダンジョンにはある〟って証拠だものねー……コッチのしょっぱいのは飽きませんわね……もぐもぐ」
黄緑色の饅頭が、気に入ったみたいだな。
そして、やっぱり行儀がわるい。
「――でスが先ヲ急がナいと、クエスト期限に間ニあいマせん。ガムラン町へノ移動に1日半かかるノで、今日明日中にハ火龍ヲ見つケて倒さなけレば――」
「んにゅーっ!」
地団駄を踏み、うなるフッカ。
「その〝マジ苦・宿廊る〟てぇのは――そんなに貴重なのか?」
魔術師が使うもんだ。そこそこの価値が、あるんだとは思うが。
「私が見たのは、たった一度だけですわよ」
相当な金持ちの姫さんが、今までに見たのが一度だけ。
「そうですね、私も〝魔王の居城でみた〟一度きりです」
心なしか青ざめている気がする、リオの言葉。
「わたしもです」
ソレにつづくエクレアの顔色まで、青ざめてる……気がする。
どうも、〝聖剣切りの閃光〟パーティーが、魔王の根城に押しこんだときに見たってことらしいが。
「わたしわぁー、ないよー!」
と子供。
「わたしも、見たことはありません」
と魔術師。
「そんなスゴイお宝なら、無下にもできねぇなぁ」
おれぁ猪蟹屋の店主だから、責任がある。
ふえた店員たち――ルコル少年やニゲル青年や、ネコアタマ青年の生活。
もちろんレイダやリオだけじゃなくて、おれ自身の生活も――出来ることなら良くしたい。
「シガミー、〝難燃剤〟ヲ開発してくだサい」
ふぉん♪
『>いまが猪蟹屋の、かき入れどきと判断しました。
大急ぎでお願いします』




