25:見習い冒険者(幼女)、ムシュル貝のドラゴーラ焼き
「(やい、迅雷!)」
「(なんでしょうか、シガミー)」
えさは、女将が持たせてくれた弁当。
あまい野菜のひと粒を、ちぎって針に付ける。
「イカサマ……してねえだろうな?」
「ふふーん、してないよう。じーっとしてるのは得意かもだけど♪」
いけねえ。ふたりしてじっとしてると、迅雷との密談と、声に出す話がまざっちまうぜ。
「おれぁ、じっとしてんのは苦手なんだよ」
釣り竿を放り投げた。
「根術の練習とかで、そーいうの、ありそうだけど?」
「だぁから、嫌ぇになったんだよ!」
根を構えたまま、三日三晩微動だにしねえ修行がある。
小あなの空いた板に、根をとおし、ちょっとでも触れれば鳥威しがガラガラ鳴ってやりなおし。
「なるほどね。あ、またつれた♪」
女将のくれた弁当の野菜じゃねえ方、子供の手にはおおきすぎる大きな結び。
それより一回り大きな、ひっくり返った独楽のかたち。
ムシュル貝……無酒流貝(?)は巻き貝で、いがいと動きがはやかった。
スススス。音もなく、じわりとした歩き。
網ぶくろから逃げだした貝のひとつが、結構とおくまで行ってる。
追いかけて、ひょいと持ち上げる。
「じゃあ、おれは別のことをやらぁ」
捕まえた貝を袋に入れて、袋の口をきつくしばる。
「何をスるのでスか?」
迅雷がよってきた。
「ここまでの横穴をひろくして、レイダのしりが――はさまらねえようにすんだよ」
ヒュンッ――――ゴガッ!
ムシュル貝が石壁に突きささった。
「(おい、この貝殻、武器になりそうだぜ?)」
「(はい。この地域の標準的な岩石の組成よりも硬度が高いので、削岩道具としても利用できます)」
「(――かたくて、ツルハシ代わりに使えるって事であってるか?)」
「(はい、シガミー)」
コイツの言葉は口調は違うが、どうも女神と同じ道理らしい。
はじめは何を言ってるのかわからず、まるで手に負えなかったが。
ようやく、なんとなくだが、こいつらの話す道理が――
理に適っていることだけは、わかってきた。
壁から貝を引っこ抜いて、袋に入れる。
そうか、おれたちみたいな子供の手に合う道具が、あってもいいな。
それに石壁を削れるなら――
「(この壁にきざみを入れて、ハシゴ代わりにのぼれそうな――)」
「(いいえ、縦穴の上部に、十字の鉄棒がはめられていて、よじ登っても外には出られません)」
だめか。じゃあ、やっぱり横穴をひろげるしかねえな――。
「(そうですね。帰り道でまた、つっかえてしまいますので――)」
ふとレイダを見たら、袋から貝を取り出そうとしてた。
あぶねえ、たまたま迅雷と内緒話してなかったら、不意打ちを食らってたかもしれん。
おれたちは大いそぎで横穴に飛びこんだ。
§
「こりゃあ、たまげたね!」
つみあがった袋をみた女将が、しりもちをついた。
「……水路の先って……どのあたりだい?」
わけえのが、にやけた顔で聞いてくる。
「そりゃあ、ないしょだぜ」
ひろくした横穴は、簡単に見つからねえように、入り口をふさいでおいた。
「どれも、まるまる太った一級品だよ!」
検分のすんだ網ぶくろを、女将がかかえてみせた。
「これ全部、買わせてもらうよ! ニゲル、倉庫に運んどくれ!」
ニゲルが、両手に袋をかかえて、店の奥に運びこんでいく。
レイダとかおを見あわせた。
大根とあわせて、そこそこの金額になるはずだ。
§
「はい、おまち。あついから気をつけとくれよ♪」
ジュジュジュゥゥゥゥッ!
すり下ろした紫色の野菜が、焼いた貝にたっぷりと、のせられている。
おれたちは、くだもの水がはいった木の杯を、コツンとうちあわせた。
「じゃ、さっそく――ぱくり♪」
「私も――ぱくり♪」
「――――――――うめえっ!」
「――――――――おいしいっ!」
がつがつがつがつ、もぐもぐもぐもぐ、ごくごくごくごく――くだもの水おかわり!
へーい。わかくねえ方の店員が水さしから、注いでくれる。
コッチの店員は金勘定の仕方を教えてくれたっけ。
おれぁ木の棒を使った算術はわからねえから、頭の中で計算しちまったけどよ。
焼いた貝の香ばしさに引けを取らない紫色のたれ。
酸味と甘みとあとなんだ? ……わからん、うまい!
「おいしい、おいしい、おいしい……もぎゅもぎゅもぎゅ――ごくん!」
コレだけうまけりゃ、顔もほころぶ。
「さすがに、三日分の路銀……もぐもぐ……生活費と同じなのも……ごきゅごきゅ、ぷはぁ――うなづけらぁ♪」
「どうだい、お味は? おかわりいるかい?」
「うめぇ、おかわり!」
「おいしい、わたしも!」
「はいよ――おかわりおまち♪」
おかわりはスグに出てきた。
用意しておいてくれたのだろう。
「あんたたちが、これだけ立派な食材を集めてこれるなら、常駐のE級クエストを、ギルドに発注しても良いかもしれないねえ――」
常駐っていう、ことばの意味はわかる。
〝大根〟と〝ムシュル貝〟を、こんごも定期的に買い取ってくれると言っているのだ。
「大根……マンドラゴーラは偶然見つけただけだけど、ムシュル貝ならいつでもとれるぜ、なっ?」
「水量が増える雨の季節じゃなければ、とれるとおもいます」
「よーし、決まりだ。数日おきに持っておいで。ギルドからも成功報酬がでるから、ちゃんと受注してからくるんだよ」
おれたちはさらに、もう一回おかわりして、腹一杯になった。
「あらぁー? わたしに内緒で、おいしそうなもの食べてるのねえー、シガミィーちゃぁぁん? 私の分わぁ~? あれぇー、私の分わぁー?」
一瞬、狐耳かとおもったが――違う!
仮にも良いとこのお嬢さんが、料理の催促なんぞしねえ!
でた、でやがった!
結び/おむすび、おにぎり。
検分/手に取って詳しく調べること。




