249:ダンジョンクローラー(シガミー御一行様)、火山ダンジョンB1F
ふぉふぉん♪
『コントゥル家専用一式装備 クラフト依頼達成クエスト
〝武器と防具による一式装備〟を作成しよう
残り時間 4日と04:01:58』
ごわぁん♪
さっきのとちがって、こっちは五百乃大角からのクエスト表示。
通路の奥の階段を降りたら、なんでか出た。
成功報酬によるSPの増加はなくなったから、今となっては意味はないんだったか。
「――はイ。神々の船でアる〝フルダイブアバタートランスデューサーシステム〟へノ再接続がかナえば、ふタたびSPノ支給が見込めまスが――」
けどそうなったら五百乃大角は、神々の世界だか常世の国だか未来の日の本だかに帰っちまう。
そんなことになったら、おれはっ――――面倒な女神の飯当番を……御役御免じゃねぇか。
もちろん世界が終わらねぇように、化けて出るたびに飯くらい食わせてやるけど……今みたいにつきっきりで朝昼晩とおやつに加えて夜食まで、用意させられることはなくなる。
いいね、じつにいいね。
「(迅雷、この穴蔵に神々の船を作るなり呼びつけたりするための、手がかりはありそうか?)」
「――残念ながラココは魔物ノ生息域でスので、情報ヲ入手でキる可能性は低いト思わレます――」
うーん、ダメか。
「(じゃあ酢蛸になりそうな、いらない女神像は?)」
「――そちらも魔物が使用できないように、女神像が設置された屋舎やフロアには、魔物よけの結界が敷設されていますので――」
魔物が居る場所に、女神像はないと。
「ギギギギギイギギッギッ――!」
上から落ちてきたのは、しっぽの長い武佐左妣か?
フッカ嬢を囮にするまでもなく――錫杖でひと突き。
慣れてきたのか二号が、すかさず――すぽん♪
迅雷にしまい込む。
一階とちがって辺りが暗い。
リオレイニアがひかりのたまを、パーティーが進む歩調に合わせて飛ばしてくれてるから、近くは見えるけど。
夜営のときは、灯りとりの魔法具か焚き火。
穴蔵のなかでは、ひかりのたまを使うのが普通らしい。
「(暗い夜を明るくする画面を――耳栓越しに、みんなにも使えるようにできるか?)」
「――私が付いてイるレイダと、白仮面のAOSヲ更新拡張済ミのリオレイニア以外にハ、強化シた耳栓ヲ使ってイるシガミーまでシか〝暗視モード〟は使えませン――」
つかえねぇのか。
じゃあ、せめてレイダには明るくして見せてやってくれ。
あと、おれにもよこせ。
ふぉん♪
『暗視モード/ON アクティブトラッカー/ON』
ヴュパァァァァ――――カッ!
リオの〝ひかりのたま〟がつよく輝いたとおもったら、辺りがあかるくなった。 まるで昼間とかわらねぇ、夜出かけるときのいつもの画面だ。
ヴヴュ――ゥン、ザザザッ。
ひかりのたまのまぶしさと、岩陰の暗さが同じくらいになじむ。
「わわわニャッ!? まわりが明るくなった――ニャッ♪」
レイダの声に猫語が混じった。
「――シシガニャンとシガミーノ焦点距離が離れると、視点の補正に演算リソース……大きな頓知が必要になるため、音声処理に遅延が発生します――」
言葉はわかるが、わからん。
ニャーニャーうるさい気もするが、レイダが楽しそうだから良しとする。
ふぉん♪
『>リオレイニアの白仮面<ArtifactObject#53B>
正常に作動しています。神力残量【■■■■■】』
リオの仮面の神力は、満杯だ。
「ねぇ、シガミャーン♪」
「……ブツブツブツ……じゃあ、あまり離れなけりゃ……」
ぽぎゅむ♪
がしりと背中の大荷物をつかまれた。
「な、なな、なんでぇい!?」
ジタバタともがいてから、振りかえると――シシガニャン二号の、眉が吊り上がっていた。
「もぉー、ちゃんと聞いてよっ!」
ここまで近いと小さくしたはずの猫共通語も、ふつうに聞こえてくる。
「わるいわるい、ちょっと考えごとしてたよ……わぜ。どうした?」
「えっとねー、たぶんダメって言われると思うけど――」
なんだその前置き。
「ダメっておれが言いそうなことなら、ダメだな」
「まだ言ってない――ニャ」
背中の荷物にじゃれつく二号。
本当に野良猫みてぇだ
「なんだよ、言ってみろ」
「え、えっとねぇー。こ、この子、私にくれなぁい?」
ぽきゅぽきゅぽきゅむ♪
うるせぇ足音。隠れてすすむような時には、なんとかしねぇと。
「うん、聞くまでもなかった。やっぱりダメだな」
〝この子〟ってのは、シシガニャンのことだ。
「すっごく大事にするからっ!」
「だめだ。言っとくが今回レイダに貸したのだって、仕方なくだからな」
「なんでっ!? 上手に着れてるでしょぉ?」
「――レイダ。残念ナがら、コの強化服ヲ譲渡すルことは適いマせん――」
「迅雷までっ、なんでよ!」
「それ一個しか、予備がねぇからだよ」
「えー、そんなの嘘だもんねっ! お祭りのときに、いっぱい居たじゃない!」
「ありゃぁ使い捨てで、とても使いもんにはならねぇ……らしいよ」
こんな、あちこちから炎が噴き出してる場所では、よけいに。
「そ――それじゃぁ、だめか――ニャァ?」
頬に手を添え小首をかしげても、「ダメなものはダメだ」
「シガミー、フォチャカが毒を喰らいました!」
先行してた〝ひかりのたま〟が、リオの声と一緒に引きかえしてきた。
「毒だぁ!?」
おれは状態異常に陥らねぇから、おれが前に出た方が良さそうだ。
スタタタトォン――!
広い場所に出た。
リオと合流、フッカが指先を押さえている。
「〝解毒薬〟をだすから、ちょっと待ってくれ」
薬草師でも簡単な薬は作れる。
ましてやおれは、このあいだ薬の調合に使えるスキルを沢山取った。
たぶんだけど……この世界に存在するすべての薬を作れる。
荷物を降ろすと――「ふっギャ!」
二号のうめき声。
ぽっきゅごろごろごろろぉっ――――♪
いきおい余って道の先へ転がっていく、薄桜色。
見れば大きな亀裂があり、道が三つに分かれている。
すたたたっトトォォォン――――――ジャリィィン♪
強化服の耳に錫杖の鉄輪を引っかけて、なんとか止めた。
「危ねぇなっ! 気をつけるって約束だっただろ!」
「ご、ごめん――ミャ♪」
そして三本道の上には、無数の――なんだ?
紐で巻かれた……巻物みてぇなのが、バラ撒かれていた。




