244:天狗(シガミー)という名の神さま、五本目肉料理
「さて、こまった」
このまま負けたら、扇子組に何を言われるかわかったもんじゃねぇ。
のこり二本を逃せなくなった。
画面を見あげる。
『肉料理』
熱々に焼かれた厚みのある肉。
あんなに分厚いのを喰ったことは、まだない。
鳥の丸焼きの丸焼きはよく喰うけど、あれはまた別の料理だしな。
迅雷はやっぱり、猪肉をつかうらしい。
なんか下ごしらえを始めやがった。
一難去ってまた一難、もう時間がねぇ。
あとつかえる肉といやぁ――
だいぶ崩れてきた、食材の山を眺める。
「どうするかのぉう?」
頭巾の裾をひげがわりに、撫でていたら――
たまたま目につく丸い鳥。
ふぉん♪
『ヒント>鶉/地球原産。渡り鳥で栄養価がとても高い。
肉質は柔らかく淡泊な味わい。』
ウズラか。
そういやここにあるのは、神域惑星で狩ってきた物ばかりだった。
ポグバードじゃねぇんだったっけなー。
肉料理なぁ。
女将さんのところで葉野菜を巻いたのを、食ったことがあった。
「アンタにも一切れあげちゃおぉー♪」
なんて、あの大食漢が言うもんだから驚いたけど。
「コレさー、そのうち作れるようになってもらうから、味を覚えておいてちょうだいねぇん♪」なんて抜かしてさ。
結局、いつもの食い意地が張った調子で、逆に安心したりしてな。
たしかにうまかった。
けど、審査員席にはそれを作った、Q廷料理人ご本人さまがいる。
とても同じ物をだす勇気はない。
なんかねぇか――――?
すとととととととんっ♪
小気味よく千切りにされる――『ヒント>キャベツ/葉が柔らかく癖のない葉野菜』
付け合わせにでもするのか?
つぎに勝負相手は、持ち手のついた鉄鍋を熱しはじめた。
米を炊くよい香りまでただよってきて、すげぇうまいものを出される予感しかない。
このまま負けるのは避けたい。
丸々太った、とんでもなくでかい鶉をみつめて――解析指南。
「(この鳥をおいしく食べるには、どうすりゃ良いかのぉ?)」
その手順は――
なぁんでぇい。炭をおこして串に刺した鳥を焼くだけだぁとぉ!?
修行中にどーしても腹が空いたときに、たまたま鳥とか鹿とか取れたら――そうして喰ってたぞ。
不味くはねぇが、そこまでうまいもんでもあるめぇよ?
なんだどうした、〝解析指南〟?
やっぱり迅雷が居ねぇと、うまく利かねぇのか?
観客の投票の受付時間が、2分を切った。
そろそろ、いそがねぇと。
炭からつくらねぇと、いけねぇわけだが。
物をつくるスキルなら、ひととおり揃ってる。
本当なら切った木を乾かして、蒸し焼きにして一昼夜おいとく必要がある。
「(基礎化学、分析術)」
食材をつむ土台にしてた丸太を、ほんの1シガミーほど頂戴する。
小太刀で一刀両断。
薪よりも小さいくらいに切り分けた。
すこしの拍手をもらいつつ、超特大の大鍋を――ドゴズゥン♪
「(サバイバルLV3)」
散らばる木切れ全部を、超特大大鍋に敷きつめていく。
野宿するための手間ひまは、スキルが肩代わりしてくれるから、いっしゅんでおわる。
ふぅわぁぁん――♪
迅雷が炊いてる米の香りが、コッチまで来やがる。
くぅぅぅ――♪
ここまでの味見でそこそこ食べてるのに、あれを嗅いじまったら腹ぁ減ってきた。
審査員席とお味見席からも腹の虫が聞こえてくる。くそう、負けていられねぇ。
「(試薬調合、超抽出)」
火にくべて煙をだすかわりに、煙の元を取りだした。
燃えるにおいが立ちこめる。
「(風使い)」
ひゅぅおわぁ――舞台上の連中が吸いこんでもいけねぇから――――ぶわっさぁぁぁぁぁっ!
隠れ蓑をはためかせ、上空を流れる風に渡す。
「キリキリバサラウンハッタ!」
ごうぅわぁ――!!
ばこん――すかさず超特大フタをする。
「(急速熟成、有機化学)」
ぼふん――!!!
フタを開け、「(風使い)」
白煙を空の風に流したら――完成じゃわい。
解析指南スキルに言われるままに、「(高速調理、高速調理、さじ加減、かくはん王、超味覚)」
「キリキリバサラウンハッタ!」
ごうぅわぁ――「有機化学」――炭をおこす。
「(生活の知恵、高速調理、医食同源、高速調理)」
ふぅ――迅雷は、米を茶碗に盛りはじめた。
「(作業量倍化)」
薬草師の基本スキル、〝生産数最大〟の恩恵。
「(生活の知恵、高速調理、医食同源、高速調理)」
串に刺した鳥と葱を、焼けば焼くほど増えていく。
§
「どうぞ、コチラを召しあがりください」
「「カラテェー、コレってまさか!?」」
「はい、イオノハラさま、ニゲルさん。俗に言う〝焼き肉定食〟になります」
削ぎ切りにした猪肉を焼いた奴に、白い米と味噌汁。うまそう。
やべぇぞ、いそいで出さねぇと腹一杯にされちまう。
「我が弟子ながら見事なものじゃわい。だがわしの肉料理もまけてはおらぬぞ?」
もうあとがない。せいぜい虚勢を張りつつ、いそいで配膳する。
「「テェーングさま、コレってまさか!?」」
「そうじゃ、〝とり串焼――」
「「焼き鳥じゃんかぁ――――♪」」
立ちあがり小躍りする、青年と御神体。
たぶんこれも日の本の、懐かしい料理なんだろーなー。
時代がちがうのか、伯爵夫人の心の琴線には触れなかったみたいだけど。
解析指南スキルが、奇跡的に良い仕事をしたおかげで――なんとか一勝取りかえした。
これで二勝三敗。
「ふぅ、さ、さいごの勝負はなんじゃーぃ?」
画面に映し出されたのは――『デザート』
それは……菓子らしいことはわかるものの。
なんじゃろう?
凍ってない菓子――つまり饅頭というわけじゃな。




