24:見習い冒険者(幼女)、ムシュル貝を釣ろう
「おい、まだ着かねえのか?」
子供ですらせまい、この横穴に入ってから、かれこれ小半刻にはなる。
「(シガミー。正確には、まだ5分40秒……暫しかすぎていません)」
レイダの魔法、『灯り』に照らされる周囲はうすぐらい。
「もう少しだってば、はぁひぃ。せ、せまい」
「しりがつかえてんじゃねーのか? 押してやる」
「ちょっと、押さないでよ、引っかかっちゃうでしょ!」
「いていて、蹴るな、痛えだろうが!」
「むぎゅっ?」
へんな声をだしたレイダが、ピタリととまった。
「どうした? やっぱり、しりがつかえたのか!?」
「しょーがないでしょ、はさまっちゃったんだから!」
また、蹴り足がとんできたから、うしろににげる。
――ガッガガリリリッ!
蹴りがとどかないとみるや、即座に魔法杖を突き込んできやがる!
レイダは礼儀ただしいのに、ときどき気がつよい。
あのギルド長の娘らしいっちゃらしいが――こんな狭いところで、子供みてえなマネをするんじゃねえ。
ここは、水路をすすんだ先にあった横穴。
城壁に穴があいてて大丈夫なのかと思ったが――
町の外から水路を引きこむために、二重三重に頑丈になってるせいで、逆にできたスキマらしい。
とにかく、はいつくばって進まなきゃならねえから、なかなか思うようにいかねえ。
「おい、迅雷、ど-にかしろ!」
こういうときこそ、便利棒の出番だ。
「コこまでピッタリとはさまッてなケれば、私の機械腕……工具で石を切断するこトも、できたノですが――」
「わるかったわね、お尻がおおきくて!」
ドカカカッ、ガリガリッ――!
また杖がとんできた。ほそくて曲がるから、折れたりはしねえだろうが、大事なもんじゃねーのか?
「切断? おまえの中には刃物も入ってんのか?」
「刃渡り58センチ……シガミーの半分のながさまでなら、どんな形の刃物もつかえます」
ガツガツガツ、カカカンッ――!
おれは杖をつかんで、引っぱってやった。
「きゃー、杖を取られたぁー! 迅雷ー、たぁすぅーけぇーてぇー!」
弱音をはく子供。
「デは、強度計算しながら石垣をひトつズつ抜いテいきまシょう」
§
ゴゴ、ゴゴゴ、ゴツンゴツン――ゴワラララッ、ゴゴン!
散乱する石をどけてすすむと、外の光が差し込んできた。
「「はぁはぁはぁ……やっと、出られた」」
そこは外ではなく、壁の中にできた、縦穴だった。
「城壁にしみコんだ雨や地下水を、一カ所にまとメて水路へ逃がす構造のようです。年代――文化水準を考えルと、なかなかの名工によるすぐれた設備かと」
「すぐれた……この町にはドワーフの鍛冶ギルドがあるから……職人さんが……たくさん集まるって言ってたー」
杖をかかえてへたり込む子供。
「あの……小柄だけど……怪力な連中だろ?」
通路や家だけじゃなく、町中のほとんどが石畳で敷かれてるのは、そういう腕が良いやつらが大勢いるかららしい。
そのわりには、女将の店くらいでしか、みかけねえけどな。
………………さぁぁぁぁぁぁ――。
ぼーっと空をみあげていると、みずの音がきこえてきた。
井戸みたいなかたちの、縦穴の中央。
そこには、まるい穴が空いていて、のぞき込むと下の方を水路が流れている。
「なんかいるぞ、かすかに動いてる!」
水路につうじる穴の下の方。
まるい縁がうごいている。
「ありゃあ、貝か!? 何でこんなところに?」
「上を見て。木が城壁を覆ってるでしょう?」
上を見ると、まるい空に木の枝が、すこし飛び出していた。
「森から引いた水路にそって森が、伸びてきてるのよ」
「(森に侵食されてる? 夜盗に侵入されねえか?)」
「(ふと枝は払われているようです。あの枝をつたって城壁に飛び移れるのは、せいぜい栗鼠ていどです)」
もういちど、まる穴にあたまをつっこむ。
「生き物は逃げるって、話だったんじゃ?」
「水路の魔方陣は水が流れてないと、効果が発揮されないのよ」
「(水路内部、水のない天井部分をつたってきているようです)」
「そういうことかー」
だが、こっからどうすりゃいいんだ?
水路のあなに頭は入るが、肩までは入らねえ。
「迅雷、この穴も広げられるか?」
あたまをぬいて、空に浮かぶ独鈷杵に話しかける。
「強度上問題がアり……床が抜けます。そレと魔方陣に隣接する石垣をはずすト、水路全体の魔方陣に影響がでる危険性がアります」
§
レイダの杖のさき、しばりつけた細い糸がたれて、まるい穴に落ちている。
「またつれた!」
レイダの横に詰まれた網ぶくろは迅雷が作り出したもので、木くずや草や石ころなんかから幾らでも作り出せるらしい。
「迅雷、これで何匹目?」
「22匹目でス。レイダ」
おれの網ぶくろには、まだなにも入っちゃいねえ。
便利棒をひきあげた。
小さな針に付けた餌が、またなくなってた。
小半時/15分。
暫/5分から10分程度。または、それ以下の短い時間。




