230:ギルド住まいの聖女(研修中)、寅のとき
ここは、第一回カブキーフェスタメイン会場横。
バトルロイヤルおにぎり杯本戦を控えた、本戦出場者控え室のさらに横。
「おっかしぃですわねぇー、ちゃんと揚げ芋をかじってますのに」
高貴な指先が、上級鑑定結果の末尾をなぞる。
ふぉふぉん♪
『鍵剣セキュア【安物】
攻撃力34。参考価格は2ヘクク。
>セキュリティー重視の試作品。
装備条件/揚げ芋』
黒板を青年に押しつけ、「でわ、もう一度♪」と――
揚げ芋を串ごとかじり、大股開きでかがみ込む、ご令嬢。
「この剣は工房長が、いろいろ試しに打った奴の中の一本でさぁ。持ちあげるのにコツが居るんだよぉ~!」
質素な身なりの青年が、意見を陳情するも――
「うゆにゅにゅぬゅ、ぬぅふぅ――!?」
顔を真っ赤にして、あられもない怒声を発する伯爵令嬢。
「「なにやってるんだ、あの二人は……」」
色んな意味で、リオレイニアが居なくて、よかった。
ちなみに彼女は、とんでもない量の串揚げを――ひたすら箱詰めしてる。
すまん、本当に作りすぎた。
けど、五百乃大角――なんだあの『装備条件/揚げ芋』ってのは?
ふぉん♪
『イオノ>やーね! ちょっと、書き間違っただけじゃんかよ!』
オルコトリアをつれて舞台の、階段よこまで来た。
「それで――天狗殿は、いまどちらにぃ――――!?」
ビキビキビキッ――バキッ!
一本角が、串揚げの串よりながく、伸びている。
「て、天狗のことなら、烏天狗……カラテェーの方がくわしいんじゃないかなぁ?」
「カラテェーには本戦たち会い順の、大事な確認をしてもらってるから、邪魔はできないの・よ!」
ゴッ――痛ぇっ!?
とがった爪で、おでこを突かれた。
ぼくはそう言って逃げてたし、シガミーのときは狸寝入りしてたし、もちろん天狗姿のときは、細心の注意をはらって隠れてたからな。
小突かれるくらいは、我慢する――けど。
烏天狗が、控え室の壁に開けた穴から、〝のぼり〟を立てたりして、遊んでるのが見えた。
「(くそう迅雷、隠れてないで出てきて、オルコの相手をしてくれ!)――ほら、そこ、烏天狗が遊んでるぞ!?」
彼女の背後を指さし、裏烏天狗を青鬼に売りわたす。
「なにぃっ――!?」
ぐりん、ふりむいた鬼の目に映るのは――『ガムラン名物揚げ芋』なんて暖簾を壁に掛ける――前掛けすがたの、フォなんとかさん。
迅雷……裏烏天狗の姿が、どっか行った。
ふぉん♪
『>フォチャカ嬢です、シガミー』
あとで、おぼえてろよ迅雷。
ふぉん♪
『>私いまは烏天狗の身、つまり本戦出場者です。
立ち会い順の確認は、シガミーにお任せします』
なんだと、ほんとおぼえてろ迅雷。
「居ないけど? 嘘つくと、ためにならないからね?」
コッチを向いた二の腕が――ごきりっ♪
子供相手にすごむのは、どうかとおもうなぁ。
鬼が見てない間に、手早く売り場を完成させていく――裏烏天狗。
「じゃぁもう、五百乃大角に聞いてくれ!」
そもそも、天狗が出る幕は――今日の午後からだ。
しかも基本的には、全員をおにぎりが伸して有耶無耶にしようってのが、五百乃大角の作戦だった。
そうだアイツだ。五百乃大角が全部悪い!
せまい所でやり合いたくないから、飛び出てきたけど――
大皿が乗ったテーブルは、控え室のなかだ。
「控え室の入り口の、テーブルの上。大皿の中に居るから、そっちで聞いてよ!」
もー、すべて五百乃大角に丸投げしてやる。
ヴォヴォヴォヴォォォォォォゥゥゥンッ――突然の轟音。
身がまえる鬼!
つぎからつぎへと、どいつもこいつも、やかましいぞ。
『現在時刻 03:24』
寅の刻……一番鶏にもはやい時間に、こんなに明るい町中で大騒ぎ。
やっぱり、ガムラン町は地獄――極楽なんじゃねぇかと思うときがある。
次回があるとして、この深夜開催イベントは絶対止めさせよう。
クルクルクルクルクルクルルルッ♪
巨大な山菜束が――おれたちと控え室兼揚げ芋屋の間に、落ちてきた!
奥方さまか――!?
「あら、シガミーちゃん♪ ちょっと女神さまを、借りてくわぁよぉうー♪」
大皿ごと五百乃大角を持ち出す――カブキーフェスタ後援会長。
「あら、シガミーちゃん♪ ちょっとルリーロちゃんに、借りられてくるわねぇん♪」
ヴォヴォヴォッヴォッ――――――――――――!
舞台上へ飛んでくふたり。
取りのこされたのは、おれと鬼の娘。
「あー、もうわかった! 天狗の居場所は、わからねぇ――!」
ヴヴッ――ガタガタン♪
コン――ザァァァッ――椅子を二脚だして、ひとつを蹴って差しだした。
あいだに低めの、長机をひとつ。
その上に、リオレイニアがつくった箱詰めをふたつ置いた。
これは夜食用に、勝手にもらっておいたやつ。
せめて、別の腹の虫だけでも、これで収めてもらおう。
「あとは――澄み酒でも出りゃ、言うことがねぇんだけど――」
いま卵酒につかう分すらなくて、困ってる。ましてや飲む分なんてない。
ヴッ――ごとり、たっぷん♪
お? 駄目元で、今日の分を出してみたけど――音が良いかんじだ。
この酒瓶からは、日替わりでいろんな調味料や酒が出ることになってる。
ひょっとして……ことん、とぷとぷとっぷん♪
瓶にくくりつけた、猪口に注いでみる。
ぐびり――――「かぁーっ、おしいな!」
こりゃ、〝みりん〟だ!
色を見りゃわかるが、正月に飲んだりもするから――つい飲んじまったぜ。
「んっ」
鬼娘が寄こせと言わんばかりに、茶器を突きだしてきた。




