23:見習い冒険者(幼女)、水路クエスト開始
さぁぁぁぁぁぁ――。
みずの音がする。
小川から町中に水路が引かれている。
そのはじまりは、裏路地のつきあたりにある食堂の裏手。
「水路なら、女将の店のうらから回った方が早いだろ」
女将のめし処に、ちゃんとした名前はない。
看板がわりの〝木さじ〟から、〝木さじ食堂って呼ぶやつはいたが。
だだ、だだだっ――!
城壁と建物のあいだの単なるスキマ。
たた、すたたた――!
場所によっては子供でも、はさまりそうなところを進んでいく。
「(シガミー。曲がり角のさき、男性が荷物をはこんでいます)」
いけねえ、ぶつかる。目のまえだ。
おれは足をとめず、突きあたりに向かって加速する。
「わっととと!?」
男性がたたらを踏む。
石壁を蹴りあがり、おおきく宙返りを切った。
くるくる、すとん。
よろけて、荷物をおろした男性は、「こらっ、あぶないじゃないか!」と、一喝。
「ってなんだ、シガミーか。おどかすなよ……お友達かい?」
それは知ったかおだった。
食堂の若い衆が「よっこらせ」と、芋のはいった木箱に腰かける。
下ごしらえでもしてたんだろう。
「はぁはぁ、こんにちわ、レイダ……よ」
背おった魔法の杖が、じゃまそうだから持ってやると言っても、頑に「自分でもつ」と言ってきかない。
それはわかるがな、おれだって便利棒をひとに預けたりはしない。
「はい、こんにちわ。ぼくはニゲル、よろしくね……ふむ?」
この先はなにもないけどと、水路につながる路地とも呼べないスキマをのぞき込む。
「水路で、つかまえたい生き物がいるんだよ」
「水路で生き物? そりゃむりだ」
「え、なんでだ?」
「水路には川の水を浄化する魔方陣が刻まれてるから、小さい生き物はまず近寄らない」
「そうなのか、レイダ?」
「うん、けど――」
「こらっ! あぶら売ってるんじゃないよ、芋の下ごしらえがおわったら、店内の掃除にかかっとくれ!」
豪快な声が、開いたドアから顔を出した。
「あ、女将だ。調子はどうでぃ?」
「こら、シガミー。ちゃんとあいさつしなくちゃ――」
「おや、めずらしい組み合わせだね」
「こんにちわ。コッヘル夫人」
「はい、こんにちわ。今日はどうしたんだい? ――しっしっ!」
わけぇのが木さじで、店内に追いやられた。
あの木さじは、得手としてるんだろうな。
LV60越えの手練れが――得物とする木さじ。
獲物は魔物か百鬼夜行か。
あの半径内にだけは、気をつけよう。
「(平時なら約1・5メートル……半丈。戦闘時なら一丈。投擲時には最大100メートル……約一町の攻撃レンジ……間合いと推測されます)」
気をつけても、にげられねえ。
せいぜい獲物にされねえように、立ちまわらねえとな。
「獲物……そうだ! 迅雷、さっきの大根だせ!」
「はイ、シガミー」
ヴヴッ――――どささっ!
「あ、あんたたち――――こんな高級なもの、一体どこで拾ってきたんだい!?」
女将はおどろいた顔で、紫色の大根をうけとった。
「これから〝ムシュル貝〟てのを取りに行くから、そしたら『ムシュル貝の鐃甲羅焼き』つくってくれよ!」
「はぁぁ? これから取りにいくだってぇ? 森に入ることを――ギルド長は許可したのかい?」
大根をしっかり抱えたまま、レイダを見つめる〝木さじ食堂〟店主。
「いいえ、森に入ることは禁止されてます」
「じゃあ、あきらめるんだね。こいつは相場の三割増しで買ってやるから代金はしっかり払いな――」
「いや、貝は森じゃなくて〝ガムラン町でとれるんだよ!」
おれは、店主の意外とほっそりした腕にとびついた。
「この町の? ……どこでだい?」
「す、水路の先です!」
すかさずレイダが、魔法の杖で水路のおくを差ししめす。
「面白いことを言うねぇ――――いーいーだーろーぉう。じゃあ、ムシュル貝を二人分で四匹、耳をそろえて持ってきな。そうしたら、ただで作ってあげようじゃないか」
得手/いちばん得意なこと。
得物/手にする武器。使いこなしている武器や道具。
獲物/ひとが狩りや漁でとる、獣や魚。




