225:ギルド住まいの聖女(研修中)、呪いの神髄
「カラテェーくんさ、さっき壁を直した手際がさ、凄かったじゃんか?」
じりじりじりじり――チャッ!
「〝伝説の職人〟スキルがあれば、大抵の物は直せるけど――そ、それが、どーしたんだい?」
大嘘だ。ほんとは、ソレだけじゃ無理だ。
ほかにも山のようなスキルがあって、初めて出来ることだ。
迅雷かおにぎりが居れば、壊れた所をまるごと収納してから、とりだすことなんかは出来るけど。
「この呪いのローブをさ、真っ二つにしたとしてもさ、元どおりに直せるかなーって思ってさ」
ザリザリザリザリッ――――すっかり錆びついた聖剣(安物)が、抜かれた。
もう最近、こんな手合いばっかりだな。
スグに、段平抜きやがって――
「そりゃ、出来るけど――――!?」
ヴッ――――じゃりぃぃぃん♪
ガタタンッ!
錫杖を構えて、椅子から転げ落ちる。
けど、勇者ニゲルの歩みは、逸れることなくまっすぐに――
「ならさ、このローブを切っちゃってもさ、平気だよね?」
狙いはぼくじゃなくて、呪われたローブだったみたいだ。
「ローブを切る?」
もう袖を通すつもりはないだろうから、文句は言われないと思うけど。
「そうだよ。カラテェーは日本生まれだから――〝ハジャの剣〟って言葉の意味はわかる?」
破邪……?
破邪顕正か?
邪法や邪道を打ち破り、正道を明らかにする行い――完全に坊主の……僧兵猪蟹の領分だ。
「えー!? なんで寿司がわからなくて、破邪顕正の剣なんて言葉はわかるんだ?」
「えー? この世界に来る直前にさ、〝ノラクエ3リマスター版の真のラスボス〟を倒すのに使ったばっかだから、覚えてただけだよ」
わからん。五百乃大角なら、わかるのかもしれない。
「それと、〝箱入りでカラアゲが添えられてる〟お寿司しか――ぼくは認めないっ!」
こっちはわかる。そんな寿司があるかい。
日の本の後の世ってのは――五百乃大角みたいな、大食らいばかりになるのかもしれない。
青年だって、そのうち下っ腹が出てくるんだ。
「まるでわかんないけど、この〝呪い〟ごと切るってこと?」
たしかに、安物でもありゃ聖剣だ。
魔王っていう邪な生き物を、切るための剣だったんだから――
まさに破邪顕正に、うってつけだ。
「そう。じつは央都の宿屋でさ、呪いのアイテムで部屋に閉じ込められたことがあってさ、この剣だと何でか簡単に切れたんだよね」
うん、だからそれ。姫さんが抜けなかった腹いせに、ぶち切った――
聖剣の……半分っていうか〝残り〟っていうか……〝なれの果て〟?
『>工房長が、くず鉄の中から作成したと思われます』
迅雷が、そんなことを言ってた気がする。
「じゃあ、ソレも鑑定してあげようか?」
いまここで、聖剣だって言うのを教えとけば、いろいろ面倒がなくて良い。
ニゲル最強説を唱える度に、馬鹿にされなくて済むし。
「いやそれは、いらない! こんな安物ごときで手を煩わせるくらいなら、貯金をはたいて鉄の剣を買うよ」
なんでここまで、頑に鑑定したがらないんだろう?
「じゃあ、ちょっと離れてて。切ってみるから」
テーブルから離れる。
「でぇいぃ――――!」
シュッカァンッ――――!
相変わらず、凄まじい太刀筋だ。
〝敵の先手を取る〟、姫さんのアレともちがう。
まばたきより早い。
戦いの最中でもなけりゃ、とても見えない。
崩れるテーブル。
テーブルごと横一文字に切られた、真っ青のローブ――
――から鮮血が、ほとばしった!
「うっわぁ――――!?」
返り血で、黄色に染まる青年!
何だ、その色!?
ボゴゥワァァッ!
燃えあがるローブ!
燃えた!?
火を消さないと――「みずのたまっ!」
ばしゃーっと水がかかり、炎は鎮火された。
すると――――ヒュヴォワァァァァァ♪
装備を修理した時みたいに、光るローブ。
その光が、強くなっていく。
「グワァァァァァァァッ――――!」
魔物の叫び声のような――――なんだっ!?
ローブからはい出てきた、〝魔法の神髄〟みたいな光る糸くずが――狂ったようにのたうち回る!
うっわっ、これは――「「気色悪い!」」
「なにごとですのっ――!?」
ばぁん!
飛びこんできたのは――さっきの女性のような姿。
タオルを巻いただけの――リカルル・リ・コントゥル、その人。
さっきは半裸の女性に出くわしたけど、こんどは半裸の意中の相手に出くわしたわけだ。
「っぎゃっ!? なんだい、その気持ち悪いのっ!?」
「ま、魔物っ!?」
ほか二名も、タオルを巻いている。
湯気が出ているから、温泉につかっていた所だったんだろう。
「リさこさっロー呪っみんよ――――!!!」
あー、ニゲルは何言ってんの!?
真っ赤な顔、あわてて首を横に曲げたのは――えらい!
けど、その大口を狙いすましたかのように――――魔法の神髄……いや、呪いの神髄が、わちゃくちゃと絡まりながら飛んでいく!
あれが【吸血の呪い】の正体なら――ニゲルの口に入られるのは、マズい気がする!
くそ、どうする!?
真言を唱えている暇はねぇ!
「その糸くずは――呪いだ! ローブを切ったら出てきた!」
タッ――地を蹴る!
「なんだってぇっ――!?」
にげる女将さん。
「きゃぁぁ――!?」
にげる女性。
ニゲルを突き飛ば――すより先にニゲルの口に飛びこむ、〝のたうち回る糸くず。
「コ――ON♪」
ぼっごぉぉぉぉぉぉぅわっ!
灯りの魔法とも、火炎魔法ともちがう――青白い炎。
青年の頭をつつむ、蒼い陽光!
ゆらゆらぁ――――ふわっさ♪
姫さんの必死な顔!
小さな尻尾が、タオルの端から飛び出ている。
回転する――仄暗い光。
「むぐぐぐぐっ――――ぅ!?」
うめくニゲルの口から〝呪い〟が、しゅるるるるるるるっ――――巻き取られていく。
毛玉になったソレをガシリとつかむ、ガムラン町代表(半裸)。
「――――滅せよ♪」
なぜか――ばちぃーん♪
と閉じられる片目。
きゅぼっがぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!
印を結ぶしなやかな指には、ニゲルがはめてやった指輪が光っている。
やべぇなこりゃ。前世のおれよか、達観してやがる――けど?
「あれ、虫かい? 虫が居るのかい? ぼくが手で、払ってあげようか?」
ねぇ、ねぇ、ねえってばさ。
「やっ、やっかましーですわよっ――――人が折角、かわい格好よく決めてるのにぃ――――!!!!」
ぼわーっ、ぼごぉうわわわぁー!
このあと狐火(小)で、しこたま追いかけられた。




