223:ギルド住まいの聖女(研修中)、黒板と黒手袋と呪いのアイテム
「移す? そんなの指でつまんで張りつけたら、できるんじゃない?」
ニゲル青年が、呪いのアイテムをおおきくよけて、回りこんで来た。
「指でつまむ?」
なに言ってんだろ。
そもそも〝スキルでみえる画面〟と、〝女神像とか黒板がみせる画面〟は別な物だ。
そのふたつを繋ぐには、迅雷か五百乃大角が要る。
「ちょっと借りるよ?」
そういって、ニゲルが手にしたのは――なんでか、黒筆。
そして「鑑定結果は――このへん?」と、何もない空中を筆で指ししめした。
「コッチだけど――?」
と目の前のあたりを指さして、ぼくにしか見えない鑑定結果の場所を教えてやる。
すると青年は、ちょっと右上あたりの空中と黒板を、交互に突き刺し始めた。
何の真似だろう?
たしかにこの黒板は、ニゲルが五百乃大角にあずけた道具に似てる。
ニゲルがもってた〝ちいさい黒板〟を元に、何個かの道具がつくられた。
それはこうしてお祭りや二号店の運営なんかに、早速使われてる。
そもそもニゲルは、五百乃大角がいた未来の日の本に、近い生まれらしい。
たぶん、ぼくよりよっぽど、神々の道具を上手に使えても不思議じゃない。
「あれー? つかめない?」
ひょいひょいひょひょい――?
奇行にはしる青年を、遠巻きに眺める予選通過者たち。
「アプリ側で対応してないと、つかめないのかなー?」
ひょいひょいひょひょい――?
うーん。居たたまれなくなってきた。
いつも迅雷や五百乃大角に言われるままに、神々の道具を持ちだしてたけど。
シガミーも、こんな風にみられてたのかもしれない。
鑑定結果も見てもらいたいし、なんとか助け船を――
黒筆二本で〝箸〟みたく、つかめないかな。
黒筆は、黒板の縁に差しこんであったヤツで、ぼくの収納魔法板にはこれまで使った道具なんかは、入れっぱなしだから――
ヴッ――ぱさり。
でた――けど黒筆じゃなくて、黒い手袋みたいなのがでた。
まちがえた。こりゃ『再生品』って判子を押すヤツだ。
「あれ? データグラブじゃん。それならつかめるかも……借りても良いかい?」
「コレは、〝再生品〟って判子を押すヤツだけど?」
青年に手渡すと、手につけてキュッと拳を握った。
「判子を押す? それって、テェーングさまが私の仮面に押してくれたのと、おなじものかしらっ――!?」
ぎゅっ♡
しなやかな細指が、青年の手をつかんだ。
「うっわっ――――!?」
姫さんに握られた手を、必死に振りほど――
――こうとしたけど「こらっ、ニゲルんじゃ有りませんわよ。私にも、お見せなさいな!」
と力一杯、引きよせられた。
「ヒーノモトー国の神々につらなる神秘の技術の独占は、ガムラン町代表として見過ごせませんわっ♪」
それは建前で、本音は顔に書いてある。
「面白そうな物はすべて、私にもお見せなさい」と。
ニゲルを胸元に引きよせるリカルル。
見つめあう二人。
ここにリオレイニアが居なくて良かった。
姫さんの目は、手袋を見つめ――。
青年の目は、姫さんの手、胸元、顔をいつまでも――行ったり来たりしてる。
「それでニゲル。その手袋で、何しようってんだい?」
女将さんまで来た。
木さじで呪いのローブを、テーブルの端に追いやってる。
背中には顔色がいくらか良くなった気がしないでもない、ローブの持ち主がひっついてる。
その様子から、彼女も食堂の常連客だとわかる。
「こっ、手袋で、カラテェー君が見た鑑定結果を、みんなで見られるようにするだけだよっ――はなぁーして、はなしてっぇ!」
「なさけないねぇー。リカルル姫、放しておあげ」
開放される青年。
人ってのはここまで〝赤く〟なれるんだな。
「ふぅー、じゃ、じゃあやってみるけど――」
ニゲルが、ぼくの目の前のあたりを、つまみ上げ――
黒板に押し当てる。
すると、パッっと画面が切りかわり――
『真蒼のローブ【吸血の呪い】
防御力60。魔術師向けの一体型防具。
追加効果/DEF+着用時間×0.001%
条件効果/【火炎縛】ローブが吸った血を使い、
無差別に火炎系魔法を放つ』
黒板に上級鑑定結果が、映しだされた。
「お、でたでた。すごいね、ニゲルさん♪」
これで、みんなにも見てもらえる。
「うっわー、便利ね♪ けどこれ……洒落になりませんわよ?」
「むしろ今日この時、暴発してくれて――アンタ、色んな意味で命拾いしたねっ♪」
「まさか、ローブの色って!? いままでMPじゃなくて……血を吸われてたのっ!?」
「吸血の呪い……この世界には、吸血鬼なんて……居るのかい?」
青ざめる女性と、身をすくめる青年。
「大丈夫ですわよ、真祖と呼ばれてたのは、魔王と一緒に切りすてたから――ふふん♪」
「けどその服じゃ、いくらなんでも心許ないねぇ――アタシが女学校のころ使っていたローブを、あげようかい?」
ぶるるるんと絢爛豪華なカラダを振りまわす、女将さん。
いいええええ、遠慮しておきますと突っぱねる、女性。
リオレイニアみたいに薄い胸元を、抱えた魔法杖で隠している。
「そうかい? 魔法攻撃力と命中率に補正がつく、結構なレア物なんだけどねぇ」
ぶるるるるるるん――いーえ、遠慮しておきます。
たしかに体型がちがいすぎて――部分的にぶかぶかで、着られそうもない気がする。
上級鑑定(しめしめフヒヒと品定めするような悪い顔)で、女性を見た。
――――ぽこん♪
『普通の服
ふつうの服。特筆すべき所はない。』
――――ぽこん♪
『普通の靴【ぼろぼろ】
ふつうの革靴。そろそろ壊れる。』
――――ぽこん♪
『普通のベルト【ぼろぼろ】
ふつうの革ベルト。そろそろちぎれる。』
こりゃ、ひどいな。
「それ、いま装備してるオンボロも、一式ぜんぶ、そろそろ壊れそうだよ?」
ぼっと、顔を赤くして、身をかがめる女性。
「こら、カラテェー! 女性に向かって、なんてこと言うの!」
ぼかり――!
「痛った――!」
姫さんに、本気で殴られた。




