219:ギルド住まいの聖女(研修中)、使い捨てシシガニャン
「五百乃大角――?」
光る魔法具をつくるなら、「こっち来い」と言うもんだから。
言われたとおりに、なにもない通路の行きどまりでまってると――スコポン!
乾いた音がして、壁に穴が空いた。
中を見ると、えらく長い階段が下へつづいてる。
ここは二号店が有る地下五階のさらに、ひとつ下。
来てはみたけど――何もないな。
ガランとした少し広めの部屋。
高さも幅や奥行きと同じくらいで、真四角だ。
板張りの床を踏むと、きしきしと鳴る。
とおくの壁に、いつのまにか穴が空いてて。
きしきし――きしきし――ん?
床を鳴らして、なんかが歩いてくる。
「鬼っ娘ちゃんのぉ、ご相談にわぁー、あーんまり乗れてあげられなかったから――せめて間にあわせるわよぉー、予選開始までにわぁ~」
それは――真っ白くて。
「なにをだ?」
それは――目鼻立ちがなくて。
「晴れの舞台に、決まってるでしょ」
それは――五百乃大角声でしゃべる。
「おまえは、五百乃大角か?」
それは――三匹目の強化服だった。
「こぉんなナイスバデーわぁ、美の女神であらせられちゃう、あたくしさまに決まってるでしょうがっ!」
とすんと軽く、四股を踏む三匹目。
みればたしかに、ほんの少し下っぱらが出ている気もする。
「たしかに、五百乃大角だな」
「(美の女神とは――?)」
言ってやるな迅雷。
「そーでしょぉう? わっかればぁー、いーのよっ♪」
どぉすぅこぉぉーい!
大股を開いて膝を床に打ちつける、美の女神。
ぎっしぎしぎしっ♪
床が鳴るだけで、ぽきゅぽきゅとした音が聞こえない。
これなら、色さえ黒かったら――夜営や夜襲にも使えるな。
ふぉん♪
『ヒント>使い捨て汎用作業服試作一号』
「つかいすて?」
真っ白い毛皮をみつめる。
「(はい。シシガニャンの強靱な毛皮を作成するのには、希少素材を使用するので――)」
「――節約ってわけよ。どーぞ、触ってみてちょーだい♪」
すっ――差しだされた白い腕をつかむ。
「こりゃ、紙か?」
「(正解です。プロジェクションBOT……浮かぶ玉や、御神体すがたでは、物をつくるのに支障が出るので、急遽、試作しました)」
「ソレ……紙なら、いくらでも作れるのか?」
「よくぞ聞いてくれましたねぇ。なぁんと、木の椅子一個分の木材でぇぇぇぇー――――何個つくれるのぉ?」
わからねぇのかよ。
きしきしきし――それは。
きしきしきし――とても。
きしきしきし――しずかな音と。
きしきしきし――うごき。
きゅきゅきゅきゅ――ぴしりっ♪
とおくに空いてた穴から――紙製のシシガニャンが。
「(約4体つくれます)」
〝木の椅子一個分〟、出てきた。
こりゃ――沢山だな。
仕事を手伝ってもらえるなら、便利そうだ。
それにしても、ここは、かなり明るい。
「それで、ここはなんだ?」
「ここわねぇ、自動工作機械……無人工房併設のXR対応……作業場みたいなぁ物よ」
なるほど。上の二号店裏じゃ、とても仕事にならないからな。
ここは、ギルドを建てたときには無かった場所だ。
天井をみれば継ぎ目はなく、一面があかるく光ってる。
……きゅぽきゅぽきゅぽきゅ――――♪
他の階の天井には、迅雷がつくった光る魔法具を、いくつも張りつけた。
ぽきゅぽきゅ――――ききききぃぃぃぃぃっ♪
せっかく静かに、仕事ができると思ったのに。
ぼがぁん――――ごろごろろろっ♪
きしきしきしっ――――ぽころろっ♪
おくれて来た一号が勢いあまって、使い捨てたちをなぎ倒した。
「うるせえ」
「にゃみゃうー?」
細かい仕事をするときは、おまえ邪魔じゃね?
たぶん今からする作業は、そうとう細かい。
わらわらと入り乱れる、シシガニャンたち。
「で、改めて聞くが、〝使い捨て〟にはぜんぶ、五百乃大角が入ってるのか?」
「いーえ。この一体だけよ。ぜんぶ動かすことも出来なくもないけどねっ――きゃはぁ♪」
あの、他のをひっくり返して遊んでる下っ腹が、五百乃大角で――
「(私が居なくても指示をだせば、女神像が操作してくれます)」
ほかのは迅雷の指示で、女神像が動かしていると。ふぅん。
きしきしきしきしきしきしきしきし。
真っ白い作業服が、いそがしく走り始めた。
なんか箱とか棒とか布みたいのを、どこかから集めてきている。
「女神像経由で自律させられるのは、この作業場だけだけどねぇーん」
「紙のやつらは、ぽきゅぽきゅ音がしないな?」
それに目も口もない……耳は付いてるけど。
「(はい。AOSによる安全音も解除されますし、プロダクトアームのサーボ音もしませんので」
わからんが、アーティファクトじゃないっぽい。
「機械腕じゃないなら、何で動いてるんだ?」
「それねー、この作業場を取りかこんでる……えっと、ぺらぺらぺら……あった――計409,600,000,000個の振動子を配列した4D超音波フェーズドアレイで……ぺらぺらり……動いてるわね、えへん♪」
わからんが。
悪魔の所業……神々の叡知によるものだろう。
五百乃大角が攻略本をめくって、ちゃんと使えりゃそれでいい。
「さぁ時間がないから急いで作るぅわぁよぉう。まぁるで昼日中のよーに明るく照らすぅ魔法具ちゃんをっさぁー♪」
猫の魔物みたいなのが走りまわる作業場に、ひっくり返った馬車みたいなのが出来上がっていく。
§
「そういやさぁー、シガミーわぁさぁー、いまどんなスキル持ってんの? ぐぅうぇへへっへ♡」
とんてんかんてん、とんてんかんてん♪
ひっくりかえった馬車に、恐ろしく細かい装飾のついた板っぺらを何枚も張りつけていた使い捨てが、そんなことを聞いてきた。
そういや、ぜんぶ迅雷まかせで、まるで確認してなかったな。
ふぉふぉふぉふぉふぉふぉぉぉん♪
『シガミー LV:100 ☆:3
薬草師★★★★★ /状態異常無効/生産数最大/女神に加護/七天抜刀根術免許皆伝/星間陸路開拓者
追加スキル /遅延回収/自動回収/即死回避/自動回復/体力増強/上級鑑定/自爆耐性/上級解体/スキル隠蔽
/LV詐称/人名詐称/石窟加工/炸薬生成/初級造形/木工彫刻/石礫破砕/防具修復/高速修復/上級修復
/頭部防具強化/防具筋力強化付与/防具体力強化付与/防具攻撃力強化付与/防具知恵強化付与/防具防御力付与/幸運効果付与/幸運効果永続/幸運効果増大/幸運倍化
/幸運リミットブレイク/強運行使/防具幸運強化付与/耐性強化付与/耐性強化永続/耐性強化/耐性倍化/伝説の職人/不壊付与/不壊永続
/植物図鑑/武器修復/研ぎ師/切れ味持続/自動修復(小)付与/収穫量倍化/基礎工学/基礎光学/金属加工/合金錬成
/天衣無縫/初級位相幾何学/女神像機能解放/女神像機能呼出/先端工学概論/先端光学概論/撮像転写制限解除/システム猶予/投げ縄/ロープワーク――――――――――――』
一覧が書ききれなくなるたびに、表示枠がどんどん大きくなっていく。
逆に文字は小さくなっていき、いつまでも終わらなくなった。
ふぉふぉふぉふぉぉぉん♪
『――――――/捕縛術/水泳上達/体温維持/遠泳術/肺活量上昇/潜水術/食物転化/分離倍化/急速熟成/超抽出
/高速調理/さじ加減/基礎化学/有機化学/医食同源/かくはん王/生活の知恵/試薬調合/分析術/解析指南
/超味覚/サバイバルLV3/生存確率上昇/濾過術/分離術/高速結晶化/状態変化(大)/調理術
――所属:シガミー御一行様』
「これさぁ冒険者カードさぁ、ちゃぁんと偽装してるんでしょぉねぇー?」
女神さまが、そんな細かな気づかいを見せるほどには、沢山のスキルを持ってた。




