218:ギルド住まいの聖女(研修中)、ギュギュギュィィィィィィィィィン!
『カブキーフェスタのあちこちで話題沸騰中、
緑色の魔物の正体は――!?』
ガムラン町北側に拡張された、温泉施設へとつづく道。
『ヒ-ノモトー国の精霊術を駆使した、
ガムラン町の守り神――その名は
〝おにぎり〟ちゃん!』
そんな張り紙が柱や壁に、ぺたぺたぺたぺた。
その色使いはとても鮮やかで、五百乃大角が無人工房で刷った。
ふぉん♪
『ヒント>自動工作機械/無人の工房。
簡単な冊子や印刷物から、
家具や饅頭まで作成可能。』
うん、自動工作機械はさすがに、おれの手には余る。
迅雷か御神体にしか扱えないけど、とんでもなく便利だ。
オルコトリアに賭けを持ちかけた翌日。
まるまる一日掛けて、どうにかこうにかガムラン町の温然施設をつくりあげた。
もちろん、五百乃大角の神々の采配と、迅雷やおにぎりの奮闘のおかげだ。
シガミーや天狗や烏天狗の三人も、それなりに頑張ったようだが――
はぁぁぁぁぁ、つ、疲れた。
もう寝るぞ、おれぁ。
すぐ寝る、とっとと寝る――「おやぁすみぃー♪」
「あぁーっ! シガミー居たっ!」
「本当ですか――居た!」
かしましいな。
うるさいよ――すやぁ♪
壁と壁のあいだ。
しかも丁寧に木箱で入り口まで、塞いだってのに。
どうしてココに居るってバレた?
ぽきゅぽきゅぽきゅむ――♪
寝入りばなにわぁ、耳ざわりな――足音。
迅雷式隠れ蓑にまで、包まってたってのに。
黄緑色のあたまに乗った子供――見覚えがある。
杖に乗った白い給仕服にも、見覚え――すやぁ♪
「にゃみゃにゃぁぁぁご♪」
おまえは、ほんとうに猫みたいだな。
ソイツは、首に木札を下げていて、
ソコには、こう書かれていた。
『ぼくは、おにぎりちゃん。
ガムラン町の守り神だよ。
みんな、なかよくしてね。
※危険ですので強い衝撃や、
餌を与えないでください』
ふぉん♪
『イオノ>ゴーレムって言うとどうしても語弊が有るから、
守り神としてのキャラクタを確立しました」
五百乃大角、いまどこだ。
おれぁ、もう寝るぞ。
あとは任せ――――すやぁ♪
ふぉふぉん♪
『>シガミー。本日深夜より開催される、
〝バトルロイヤル予選〟のための決戦場が、
まだ土台しか完成していません』
岩場の方に拡張した、温泉施設の数々。
そのなかでも、大きな物はみっつ。
ひとつ目は――天狗がつくった、宿屋だ。
日の本の城のような作り。
ガムラン町にはない佇まい。
ふたつ目は――烏天狗がつくった〝高みやぐら〟と、そこから伸びるバカみたいに長い橋。
橋は〝新ギルド会館〟の展望台に、つながっている。
櫓はやっぱり日の本の建物と似た、五重塔のようなつくり。
みっつ目は――シガミーとおにぎりがつくった、巨大な堀と石垣。
石垣の上には城壁を張りめぐらせ、空飛ぶ魔物を落とせる武器を設置してある。
これをつくるのが一番たいへんで、切りたつ岩場を半分くらい平らにならす必要があった。
そのせいで肝心の決戦場をつくってる時間が、なくなってしまっ――――すぴぃ♪
「シガミー、予定が詰まっているので起きてくださいませ」
ゆさゆさ。
「そうだよ、お昼を食べてから半日もお休みしたでしょう?」
ゆさゆさ。
「にゃんにゃみゃにゃん、みゃぁにゃん。みゃにゃみゃやぁー?」
ふぉん♪
『ヒント>自動翻訳:天狗も烏天狗も頑張りました。シガミーもがんばろ?』
「(それぜーんぶ、おれじゃんか! 昨日から働きづめだ!)」
ぽきゅぽきゅぽきゅぽきゅぽきゅきゅきゅきゅむ――――♪
うるっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――わかったから、ぽきゅぽきゅ叩くな!
「うあ゛ぁーもー、しゃあねぇな! 仕事はなにが、のこってんだいっ?」
「ええと、決戦場の客席と、舞台。そして深夜でも試合を観戦可能な、広範囲にわたって照らせる街灯の作成と設置になります」
うん。リオレイニアは今日も、そつがないけど――
「結構たくさん、のこってるな?」
リオと、しばし見つめあう。
「ふぅ、じつは、街灯に使えそうな魔法具を、ルコルさまたちに頼んでおいたのですが――」
城塞都市の倉庫からもってきたアーティファクトは、昨夜のウチに饅頭販売所の裏手に置いてきた。
「みゃぁみゃぁにゃ♪」
おにぎりが毛皮のどこかから、チラシを取りだした。
『本日行われるバトルロイヤルへの参加者には、
アテーティファクトが当たる〝ガチャ無料券〟を
進呈しております。ふるってご参加ください。』
「ふわぁぁぁァ――ティファクトが当たる?」
「はい、視察に来られたギルド長とギ術班のアイデアです」
ギルド長とその直接の部下たちは、アーティファクトに並々ならぬ情熱を日々注いでいる。
いやな予感しかない。
§
猪蟹屋二号店つまり、饅頭製造販売所兼アーティファクト仲介所では――
臨時のがらくた市が……開催されていた。
せっかく、大きさごとに収納魔法具に仕舞っといたのに。
人も物もあふれかえり、どこかとおくから責任者の悲鳴も聞こえる。
「ルコルくぅぅぅーん、こ、これは一体どうつかうものなぁのぉかねぇぇぇぇ――!?」
「コッチのハンドルを回すと――なんだったっけコォン?」
「キミィィィィ――か、隠し立てぇするとぉーためにわぁなぁらぁなぁいぃーよぉうー!?」
「それは、手動式自己睡眠装置ニャッ」
ギュギュギュィィィィィィィィィンッ――――――――!
「それは、ずばらしい! 寝付けない夜につかえば――――」
「ごみミャ。ハンドルを回すのを止めると、目が覚めるニャ」
ギュギュギュィィィィィィィィィンッ――――――――!
ギルド長が掛けた眼鏡はアーティファクトだ。
ちいさな摘みが付いていて、何かを調べようとすればするほど、いきおいよく動く。
ギュギュギュィィィィィィィィィンッ――――――――!
眼鏡音が、うるせえ。
ギュギュギュィィィィィィィィィンッ――――――――!
橙色の布をまとったギ術班たちも、それぞれ何かしらのアーティファクトを身につけている。
ギュギュギュィィィィィィィィィンッ――――――――!
「(はぁ――ダメだな)」
ギュギュギュィィィィィィィィィンッ――――――――!
ふぉん♪
『>そのようですね』
しかたねぇな。〝灯り〟の魔法具をつくるぞ。




