21:見習い冒険者(幼女)、VSおやさい
「けっこう、ひろいなあ。あと、草が一本も生えてない!」
ひろがる草原。それでも、ぐるーっと一周するのに、子供の足でも半刻……一時間もかからない。
「おれが薬草といっしょに、刈りまくったからな」
「はい、何モないと、その場所がひろく見えマすね」
意気揚々と、兎を狩りにきたが。
「――まるでいねえ。薬草刈ったときは、まだいたぞ兎とか栗鼠とか、土竜とか」
「モォグラって何――?」
「地面のシたに棲むネズミでス」
「ふーん――ていうか……鳥の一匹も飛んでないね?」
たしかに鳴き声ひとつしねえ。こりゃあ、ようすがへんだ。
とおくの街道をあるく冒険者達たちに、変わったところはない。
「シガミーが草原の草といウ草を、刈り尽くしテしまっタからでは?」
「刈ったのは迅雷だろうが。おれぁ袋に詰めただけでい」
責任は宛鋳符……、宛鋳符悪党さまに、なすりつけておく。
「かくれる場所がなくて、獲物が森から出てこなくなっちゃったのかも」
レイダは薬草や角兎で、こづかいを稼いでいた。
「いろいろ、すまん。けど鳥がいねえのも、見晴らしが良くなったからか?」
「わかんない。鳥をおそう魔物でも出たのかな?」
「(シガミー、西南西……申の方角に何かいます」
§
それは、人のかたちをした……大根だった。
しっかりとした足取りで、まっすぐ歩いて――たちどまる。
「なんだありゃ――――魔物かっ!?」
「ま、マンドラゴーラだ!」
「万鐃甲羅!? ――――魔物かっ!?」
「薬草のなかで、いちばん値段がたかいやつ!」
「――なんだと!?」
くるり――?
おれの声に反応した大根が、うしろをふりかえった。
「ふせてっ!」
レイダの号令で、とっさに伏せるおれたち。
ひょこひょこ――
しばらくじっとしてたら、大根がまえを向いて、また歩きだした。
「ふう、あぶなかった」
「人のなりでうろつこうが大根に違いはねえだろうが。叩きゃつかまえられんだろ」
「ものすごい勢いで地面に潜るから、ぜーったいに無理っ……でいこん?」
「大根です。シガミーの故郷にアる似た野菜のなまエです」
「(イオノファラーの情報によると、高級食材の一種で、魚介類の付け合わせやソース……タレに使用されるのが一般的――)」
「(ほんとうに食い物の話しか出てこえな、あの神さんは……けどまて魚介類?)――――ひょっとしたら、おれぁ食ったことあるぞ、あいつ!」
くるり――?
大根が、またうしろをふりかえった。
伏せるおれたち。
ひょこひょこ――
しばらくじっとしてると、また歩きだした。
「――――なにそれ、おいしいの?」
小声。
「――――おう、死ぬほどうまかった。中皿なのに6ヘククもする……狐耳のおごりでもなきゃ一生食えねえような料理だぜ」
小声。
「わたしもたべたい、たべたい!」
んー。ありゃあ、ばかみてえにうまかったから、迷惑をかけた詫びに、コイツにも食べさせてやりたいところだが。
おれは『ムシュル貝のドラゴーラ焼き』に、思いをはせた。
すりつぶした紫色の野菜が、やたらとかかってた気がする。
ひょこひょこ歩いてる高級薬草だか食材は、紫色に見える。
「ムシュル貝って知ってっか?」
「ムシュル貝? 知ってるけど、それがどうかしたの?」
「あの野菜と、その貝がありゃ、女将にたのめば安くつくってくれるとおもう」
あれ? どこいった?
大根の紫色の葉が、見えなくなった――――地面に潜られたか?
「ぴゃっ――――――――!!!」
ばたり。レイダが急にたおれた。
「(シガミー。背後にまわられています。東と北北西……亥の方角――――――――)」
ヴルルッ――――シュッカン!
迅雷をつかむと、おれの立端に伸びた。
這いつくばったまま、周囲をみわたすと、紫色の野菜が二匹いた。
死角とその正面、おれをはさみこんでいる。
「なまいきな大根め、いまとっ捕まえ――」
おぼおぼおぼぉげぇぇ……。
なんだ? 声がきこえ――――――――――!
「オヴォボヴォヴォゴゴボボボゲゲゲゲボヴォヴォヴォガビャビャビャ――――!!!」
うるっせぇぇぇぇぇ――――ぱしりっ!
おおあわてで、耳をふさいだが――――。
「――――耳をふさいでも、うるせえ!? 迅雷、どういうこったっ?」
「(指向性の超音波通信です。振動により内耳に直接、音像をむすぶため、耳をふさいでも効果はありません)」
指向性/音や電波の伝わるつよさが、方向によって異なること。




