203:神域探訪、VS鍋の具材
「シガミーちゃーん! 落ちたら危ないわよー!?」
「だーいーじょーおーぶーだーぁぁぁぁっ!」
高台から急流へ飛びこんだ。
二号を脱いで、鎧代わりの胸当ても外したから、そこそこ泳げるだろ。
メイドさんの叫び声が、とおくなっていく。
ぽっきゅぅーん♪
「あ、おまえ一号! タターを守ってろって言ったのに!」
一号まで飛びこみやがった。
迅雷、タターを守れっ!
「(了解でス、シガ――)」
どぼーん♪
どぼきゅむーん♪
ごぼがぼごぼがっはぁ――すこし冷てぇなっ!
けど、いっぱい魚が居るぞ?
けど、妙に……普通っつうか、ガムラン町まわりで取れる魚とはちがって、角も牙も生えてないというか。
毒々しいギラギラした色もしてなくて、ふつうの銀ピカで青黒い斑点が有る。
「こりゃぁ河鱒か、ごぼがぼっ……(ココは――日の本か!?)」
「――いイえ、シガミー。現座標ハ神域内でアることを示していまス――」
とおく離れると光の加減とかで、念話が通じないこともあるから――耳栓を使ってる。
耳栓がありゃ、すくなくともガムラン町の端から端くらいまでは、声が途切れない。
ふぉにょり♪
『ゝ頼凹占絅碩脅急鋼朶鰆亞細訢鱔匹貞宵悪匞丕其胥不巨厙辣鱈止臼廾斤自ケ勹並且廿攵秋や午屑』
ごぼごばぁ――――読めん。
水の中じゃ、ゆがんで読めん。
ごぼがぼっ――ざばばばっ――水面へあがる。
「っぷっはぁぁっ――!」
ふぉん♪
『>顎口上綱硬骨魚綱条鰭亜綱新鰭区真骨亜区正真骨下区原棘鰭上目サケ目サケ亜目サケ科サケ属、
学名:Oncorhynchus mykiss』
読める――けどわからん。
「――赤ミがかった一本筋がありますので、虹鱒……シガミーが居た時代から約200年後に外国から持ちこまれた、大変おいしい魚でス――」
なるほど、わからんが。
五百乃大角が言ってた〝鍋〟に、出来るんだな?
「――はイ。ですが――」
ズザザザザザザザザザザァァァァァァァァッ――――!!!
水面から突きでた背びれが、スゴイ勢いで迫ってくる。
なんだ、おれを狙ってるのか?
「生意気な魚だな」
「――スチールヘッドとモ呼ばレ、非常ニ攻撃性ノ高い魚でス。気をつけてくだサい――」
ヴッ――くるくる――じゃりぃん♪
「だれに言ってんだ? 無敵のシガミーさまに任せとけっ――――うぉぅわぁぁぁっ!?」
ドッゴガァァァァッ――――!!!
「ぐはっ――――ぁ!?」
たかが魚如きに、はじき飛ばされた。
「――推定全長2メートル強。日本ノ虹鱒の五倍の大きさがありマす――」
水面を見ると確かに、魚影はおれより大きい――どぼごぼ――ん♪
落ちた勢いで、またふかく潜っちまった。
深い水。ここは魚共の間合いだ。
一旦引く。
ぷっはぁぁっ!
水上に出て、息をととのえる。
「――100メートルほド下流ニ、浅瀬につナがる断崖の切レ目がありまス――」
崖の途切れた先に、砂浜がみえた。
ごぼがぼ――ばっしゃばしゃばしゃ!
あぁ? なかなか進まねぇんだが!?
「――シガミー全長ハ1シガミーに過ぎません。理論上、5ノット以上の速度ハ出せませン――」
わからん、スキル取れスキル!
「――了解しまシた……」
ふぉん♪
『>〝水泳上達〟〝体温維持〟〝遠泳術〟〝肺活量上昇〟〝潜水術〟
消費スキルポイント/33pt』
「なんでもいい、うぉぉぉぉぉぉっ!」
ズザババッバババヴァヴァッヴァヴァァッツ♪
急にすすむようになった。
なんとか、岸まではたどり着けそう――――
ドオッゴガァァンッ!!
「痛ってぇ――!?」
まわり込まれた!?
けど、ザッパパパッパパパパパパパパッ!
立ち泳ぎで、水面に膝まで立てる!
これなら――
「(血怨戒・襲/三秒)ふんぬぉりりりゃやぁぁぁぁぁぁ――――!」
ギャリリィン――――どんっ!
ぼごっ――――ぽっきゅむぉわぁん♪
「だぁぁぁぁぁぁっ、一号!」
オマエ、どっから出てきた!?
水上を沈むでもなく、泳ぐでもなく――ただ漂ってきた黄緑色に、ぶち当たる錫杖!
泳ぎは教えてねぇからなっ――――!
くるくるくるくる――――ぱし、ぽきゅむん♪
落ちてきた錫杖を、つかむ黄緑色。
「やべぇ! やり返されるっ!!!」
岸までは距離がある。
なら水中に――――逃げる!
大きく息を吸いこむ。
「にゃにゃわわぁぁーーー♪」
水面に立ち、血怨戒・襲で投げかえされる――ジンライ鋼製の錫杖。
ギャリリィン――――どんっ!
ごぼがぼ――――ずぱぱざぱぱぱっ――――水中で振りむくと。
ゴヒュリュリュルワァボゴゴォ――――凄まじい速さで泡が、こっちに向かって伸びてくる。
一号の狙いは、はずれないだろう。
体をよじり全力で、ヴ――じゃりぃぃん♪
「二の型!」
ドゴッ、ギュギャリリィィィィン――――――――ゴゴヴァァァァァァァァァァ――――――――――――!!!
咄嗟に出した錫杖で――打ちかえした瞬間。
あたりが明るくなった。
まわりに水はなく、体を突きぬける衝撃が遅れてとどく。
どずぅぅん!
ぽっきゅみゅん♪
デカい魚と一号。
それと近くに居た小さい魚が――――ボタボタボタボタ、バタタタタタタタッ!
山のように積みあがる。
削れた錫杖を投げ捨て、切り裂かれた川を――一刻見つめた。
高さはどれくらいか――切りたつ水面が、波打つ。
水がなくなった道は、砂浜まで続いている。
玉砂利の川底に――がしゃりと着地したおれは叫んだ。
「おい、おにぎり! そのでかい魚持ってついてこい!」
錫杖がぶつかった衝撃で、吹きとばされた濁流が――押しよせる。
ごぼぉぉ――――!
がしゃがしゃ、だだだっ――ずるん。
やべぇ、すっ転んだ!
ぽきゅぽきゅぽきゅぽきゅ、背後から迫る足音。
「おつかまりくださぁーい」
声がする。
長く伸びた迅雷にまたがったメイドさんが、紐を投げてきた。
カシャカシャ、カチャカチャ、カシャラララララァッ――――――!
よく見りゃそれは、迅雷の細腕だった。
腕を巻きとられ、引っ張りあげられる。
「おにぎりっ、つかまれっ!」
腕を伸ばす――――ぽきゅぽきゅぽきゅむん、がしゃがしゃがしゃぁぁっ♪
遠ざかる黄緑色が、濁流に呑みこまれた。
「シガミーちゃん――じゃなくって、おにぎりちゃん!」
涙まで浮かべるやさしい、少女。
引っぱり上げられたおれは――
「大丈夫だ、うまく説明は出来ねぇけど、アイツは五百乃大角が作った服だから、アレくらいじゃ死なない」
――と、気休めを言ってやる。
川の藻屑と消えた一号を探すのは骨だが、首さえ取れてなきゃ放っといても帰ってくるだろ。
ごぽぽこぴゅぎゅりゅぎゅっごぼがぼごぉぉぉぉ――――♪
「ん? 何の音だ?」
う゛ぉぎゅう゛ぉぎゅう゛ぉぎゅう゛ぉぎゅぎゅむむむっ――――――――♪
水底から轟く、うるせぇ音。
水面を見ると――黄緑色と目が合った!
ぼぎゅぼこぴゅぅーん♪
飛びだしてきた頭兜のいきおいは、凄まじく。
「あっぶねえぇぇぇぇぇぇっ――――!」
迅雷を蹴飛ばし――タターを遠ざけた。
「きゃぁぁっ!?」
おれたちの間を、通り抜ける――砲弾!
おれをつかんでいた迅雷の腕が、引きちぎられ――
「みゃにゃぎゃぁーぁぁぁ……ぁぁ……ぁ……ん♪」
一号の鳴き声が遠くなり――キラーン!
やがて空の向こうに、姿を消した。
ぽこん♪
『>特選ニジマス【特大】 ×1』
「(あら、素敵、さい先、良いじゃぁないのよさ♪ あとわぁ茸とぉ、お野菜おーよっろしくねええぇぇぇぇん♪)」
あー、そういや五百乃大角、まだ画面の中に居たんだった。
さい先、良いのか悪いのか。もう、わからん。
「ふぅー」
ひとまずは――一号を回収しないとな。
顎口上綱硬骨魚綱条鰭亜綱新鰭区真骨亜区正真骨下区原棘鰭上目サケ目サケ亜目サケ科サケ属/ニジマス。海を回遊し巨大化した物はサーモントラウトなどと呼ばれる。




