200:神域探訪、ニゲル専用恋愛相談所
「あのー? だれかいますかー?」
ココは、超女神像の地下。
央都からの転移者が、到着する階層だ。
床とやや低めの天井に、全体を見渡せないほど大きな魔方陣が刻まれている。
「来たわね」「来たな」「来ましタね」
朝と午後一の定期便以外は、まだほとんど利用者はいない。
「来るには来たけど、ボクは央都にはいかないよ?」
つまり、ここに居るのは現スーパールーキーと、元スーパールーキーのふたりだけだ。
「ん? ……腰の剣に手をかけるほど、行きたくないの?」
きゅほん♪
『>【腰の剣に手をかけるほど、央都に行きたくないの?】』
文字板に、日本語で書いてあげる。
食堂の見慣れたお品書き以外は、それほど読めないみたいだからな。
「あぁごめん! ちょっと訳があってさ、央都にはあんまり良い思い出がなくて……つい」
まあ、人畜無害なニゲルだって人の子だしな。いろいろあるんだろう。
ガムラン最強の疑いはあるし、日本生まれじゃ――なんか妙なスキルを持ってそうだし……あんまり人畜無害でもないな。
「だいじょうぶよ。今から行くのは本邦初公開の〝神域惑星〟つまり――あたくしさまの星ですからぁ――きゃっきゃうぇっへぇぇぇっ❤」
五百乃大角の素っ頓狂な声が、転移陣の間に木魂する。
「ええっ――あのギルドの上に浮かんでる、地球みたいなヤツに――っていうか、さっきから誰が話してるんだい?」
勇者ニゲルが、あたりを見渡す。
「ああ、それはね。コレよコレ♪」
ヴォヴォン――――ヴォヴォヴォッ!
浮かんでるときの、迅雷みたいな唸りをあげて――――丸い玉が颯爽とあらわれた。
ちょうど御神体本体の、頭みたいな大きさと形。
その表面に――『(Θ_Θ)』
顔が張りついてる。
カシャ――『(迅)』
顔が迅の文字にかわり――
「ニゲル青年が来るマで、暇だったノで作製しマした」
迅雷の落ち着いた、ビリビリする声が聞こえた。
「へー、なんだかスマートスピーカーとかIPフォンみたいだね」
わからん。
「(ちょっと迅雷、聞いた今の?)」
「(はい、イオノファラー。やはりニゲル青年は相当未来の日本から来たと思われます)」
わからん。
きゅふぉん♪
『>【とにかく、おれたちはニゲルの
恋愛相談に乗ることに決めたよ。
くわしい話は、向こうへ行ってからだ】』
カシャ――『(Θ_Θ)』
「じゃあ、いきましょぉう♪」
ヴォン――――おれたちの前。
空中にあらわれる画像。
『現在、白線の内側にいます
しばらくお待ちください。』
書いてある意味は分かるが、わからん。
「これ知ってる! ぼくわぁ、にげるよ! また変な世界に飛ばされたりしたら、かなわないからね!」
逃げ出そうと踵をかえす、勇者ニゲル。
「知ってる? この神域惑星がらみの表示はあたくしさまだって、はじめて見たのに……ぶつぶつ……ぱらぱらり……どこに載ってんのかしら?」
攻略本をめくってやがる。
そうなると、本当にニゲルは……おれよか、五百乃大角に……神々に近いところから来たのかも知れない。
「ニゲル、心配有りマせん。神域惑星にハ、リカルル・リ・コントゥルも一度、訪れていますノで」
「えっ、そーなのかい?」
足を止める勇者。
「そーねー♪ 向こうに行ったのわぁ、まだシガミーとお姫ちゃんだぁけぇだぁくわぁるぁー、帰ってきてぇその話をしたるぁーとぉーってぇもぉー、もりあがるんじゃないくわぁとぉー、お・も・う・のぉー?」
カシャ――『(Θ_<)』
また片目を閉じやがる、だから虫が目に入ったんなら払って……虫じゃねーのか?
生きた物は収納魔法に、入れないからな。
「よし、ボクも男だ。スグ行こう!」
勇者の手に握られたのは――たぶん、件の〝一日なんたら券〟。
『リカルル・リ・コントゥル様との一日デート券
有効期限/カブキーフェスタ開催中のみ有効
【※恋の相談も下記の場所にて、別途受け付けます(但しニゲルに限る)
恋愛受付相談所:お気軽に超女神像転移陣の間まで、お越しください】』
「ポポポォオーーーーン♪ 乙種物理検索終了。異常値は検出されませんでした。論理封鎖態勢は解除。繰りかえします、乙種物理検索終了。異常値は検――ブツッ」
うるせえ!
封僧とかいうわからんのが、またがなり立てやがった。
ほんと、うるせえ。
ふぉん♪
『FATS>女神像端末#778から女神像案末#3313への、
ファストトラベルを開始します 実行しますか? Y/N』
ひかった牡丹がかってに押され――『Y』てのが選ばれた。
プププポプポォォーーン♪
『名称未設定ワールド改め神域惑星(女神像端末#3313)への
ファストトラベル開始まで――――00:00:59』
下と上の魔方陣がやっと光りはじめた。
仕来りがおおくて、かなわねえけど――やっと神域に行けるみたいだ。
ひとまず向こうへ行っちまえば、ニゲルとの内緒話に口を挟むやつがいなくなる。
ヴォン♪
『白線からお出にならないよう、ご注意ねがいます。
ファストトラベル開始まで――――00:00:24』
大女神像のときと違って、へんな節がついた声は聞こえない。
あれ、イラッとするから、無くて助かった。
キラキラキラキラキラキラ――――光の奔流。
「うわぉわひゃ――また、この光っ!?」
ニゲルが驚く。転移陣は初めてじゃないんだろうに。
魔法の神髄が、カラダを幾重にも縁取っていく。
ピロロロロロロロロ――――▼▼♪
けたたましい。今度はなんだぁ!?
全員が、画面が示した▼の方を見る。
とおくの階段口から、何かが物凄い勢いで走ってくる。
ぽっきゅぽっきゅぽっきゅきゅきゅむん――――♪
ぽきゅぽきゅうるさいヤツは、見なくても何だか分かる。
おおかた、終わった仕事を褒めてもらいたくて、来たんだろう。
「っきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――――♪」
けど、もうひとりうるさいヤツがいて――「リオレイニア――!?」
一号の首が簡単には開かないように、応急処置で巻いてやった青色の布。
その止め金具に引っかかった給仕服の袖を、引っ張られているのは――
「――じゃねぇ?」
「シ、シガミィーちゃぁぁぁぁん! 止まってぇぇぇぇぇっ――!!!」
まだ名前も聞いていない、姫さん付きの魔術が得意な侍女だった。
白線が外周からあらわれ、一号たちを追いかけるように迫ってくる。
ヴォン♪
『ファストトラベル開始します』
超女神像の間が――――消えた。




