20:見習い冒険者(幼女)、パーティー結成
「ちきしょうめ、〝火炎魔法〟につづいて〝根術の型〟まで禁止されちまったぜ!」
まったく、世も末だぜ。
「(八方塞がりですね、シガミー)」
「(やかましいぞ、迅雷!)」
まったく、世も末だぜ。
「まあ、そうなるわよねー」
鬼娘の顔が青白くみえるのは、冒険者ギルドの中が暗いせいだ。
なぜかといえば、それは日のひかりを放つ箱が外され、柱の周りを囲むように修理用の足場が組まれているからで。
「でも、取り上げられて封印されなかっただけ、かんだいな処置だと思うわよぉー?」
狐耳が突いたのは、短い棒あらため〝迅雷〟。
「(まさか、衝撃が柱を伝わり、各階の照明器具を破戒することになるとは)」
そうなのだ。おれが放った〝三の型〟は、上階の柱一本を焼き切るだけではあきたらず、ぜんぶで十数個の――〝石で出来た行灯〟を壊すに至った。
〝脇差し〟くらいの長さにした〝発掘神器〟を、おれは腰の革紐にとおした。
まえの現世だったら、まるで竹光で遊んでる子供にしか見えねえが、鉄柱を鉄棒でへし折る子供を――からかうやつは居まい。
そしてたとえ子供でも、あそんでるやつはいねぇ。
この町に子供は、ふたりしかいねえがな。
「柱や行灯石の修理代で10パケタも取られたから、すぐに稼がねえとマジで食い詰める!」
おれはカウンターによじのぼる。
「鬼娘! 狐耳でも良い! おれと徒党を組んでくれねえか?」
「徒党……パーティーのこと?」
のこりの金はざっと――18パケタしかねえ。
「(約45~55日分の生活費になります)」
「それはすてきなお誘いだけど、私たちは勤務外ではクエストに参加できないのよねー」
前の世じゃ〝鬼〟とやりあう気なら、かなりの仕こみが必要だった。
彼女が外出時に背負ってる長刀は、ふつうの女がふりまわせる重さじゃない。
この来世でも鬼は鬼だ。どんなにきれいな顔をしていても、奥にかくれた暴力はまさに武人。味方なら心強かったんだが。
「そっかざんねん……女将に頼むか」
おれはストンと、カウンターから飛び降りた。
「シガミー、どうして女将さんが、〝強い〟って思ったの?」
鬼娘が、薬草の値踏みをしたときみたいな表情をしている。
「そんなもん、ひとめ見りゃわかんじゃねーか。あの木サジの剣筋はおれでも追えねえ」
「あら、フフフン――――♪」
狐の耳が、おれを捉えた。なんだその楽しそうな目。
「さっき聞いた〝免許皆伝〟……S級スキルって、ほんとうなのね――――はい、どうぞ♡」
なんて言いながら狐耳が、足の高い椅子を出してくれた。
これは子供のために、用意されてるわけじゃない。
あのとんでもねえ豪腕の、〝小柄な種族〟向けの椅子なんだろう。
「シガミー、目のつけどころは良かったけど、女将さんはダメよ」
「なんでだ?」
おれは〝きつね耳〟の動きに気をくばりながら、椅子に腰かける。
じーーーーっと見てたら、戦闘狂は「またねー」と仕事にもどっていっちまった。
「パーティーが組めるのは、LV差が20までだからよ」
にこりと鬼が笑う。
「(おい、礼平流)ってなんだっけ?」
「(レベ流ではなく、レベルです。心身の鍛練度合いをあらわすものです)」
「女将さんはたしか――LV60はこえてるわね」
「(シガミーは、薬草伐採ならびに納品によりLV2になりました)」
おれは首からさがった板きれをつかんで書いてある文字をじっと見た。
みたことのねえ字。意味もサッパリわからねえ。
「おれはLV2……しかも薬草師。徒党……パーティーを組んでくれるやつは居ねえってことか」
受付担当のふたりと女将。
おれの見立てどおり、この三人は相当の手練れらしい。内心、当てにしてたんだが……。
「そう気をおとさないで。パーティー募集のはり紙を、出しておいてあげるから」
振り返ればうすぐらい中を、屈強な連中が忙しそうにうろついてる。
こんなやつらが子供のおもりに付き合うとは、とても思えねえ。
前世のおれなら、まず願いさげだ。
「私はLV5。〝魔法つかい〟をやってるわ!」
声のしたほうを見やれば、昨日おれといっしょに、二時間も怒られたあいつが立っていた。
〝魔法つかい〟……〝魔術師〟とは、また違うんだったか?
「(はい、魔術師のような高位の魔法はつかえませんが、すべての属性を扱うことができる、とても有用な職業です)」
§
「いいでしょう。ただし、衛兵がかならずいる南東の草原限定です。もちろん森に入ることは許可できませんからね」
「ありがとう、お父さん!」
「か、かたじけない」
きのうの今日でギルド長に用件をねだる胆力が、半端ねえな。
「(はい。レイダはシガミー以上の大物かもしれません)」
§
「さあ、シガミーどれにする?」
おれたちはE級クエスト掲示板のまえにいた。
「どうするっても……これしか残ってねえだろうが」
おれが飛びついて、壁からむしり取ったのは――
『角ウサギ素材採取クエスト』
角が生えたウサギの、へたな絵が描いてある。




