2:輪廻転生、地獄だった
「ふはぁ、ひぃぃ、ふへぇ……」
いくさ場じゃ悪鬼羅刹と恐れられたおれが、酒瓶ひとつかかえただけで、いまにも倒れそうだった。
ゲタもぞうりもねえから、足のうらも傷だらけだ。
もうじき日が沈む。
目のまえには粗末なつくりの城壁。
城らしい城は見あたらねえが、なかにはいりゃ雨風やオオカミくれえはしのげるだろ。
「そこの子供、とまれ!」
やぐら組みの門にたどり着くと、門番らしい大男にとめられた。
すきまだらけの甲冑が、夕日にギラギラ光ってる。
そんな冗談みてえな装束じゃ、夜襲をしかけることも防ぐこともできんだろうに。
「汚いな。孤児か……ちょっとまってろ!」
大男はどこかへ行ってしまう。
けど、まってろと言うなら、まってやる。
こちとら、ろくな着物も着ちゃいない。
うばわれて困るモノは命だけだ。
「なまりのない、みやこ言葉を話してたな」
話がつうじるなら、いつもの説法をつかうところだが、おれぁいまガキだし袈裟も錫杖もねえ。
いざとなったら酒瓶を投げつけてやる!
と身構えるおれに、大男は外套のような服を着せてくれた。
「この札をもって、あっちのつきあたりに行ってみろ。めしと寝どこぐらいは用意してくれる」
表情はかわわらず厳ついままだが――
「かたじけない」
おれは片手でかるく印をむすび、そうそうに立ちさる。
足のうらがいてえが、石だたみには小石ひとつ落ちてなく、はや足で歩くことができた。
経験上、こういうときは長居しないのがいちばんだ。
がやがやがや。
うす暗い通路のつきあたりでは、たいまつをかかげた町人が、たわいのない話をしながら列に並んでいた。
いっせいに向けられた顔――
「わょぬらひへひぉろえぃーーーーぁ!?」
おれは二度目の奇声を上げ――ガッシャァァァァン!
酒瓶をおとしてしまった!
「あら、割れちゃった? それにしても、かわいらしい子供ね」
と、にこやかに微笑むのは、とがった耳の麗人。
その額から、一本角が突きででやがる。
いわゆる鬼だ。
おれは3年前の大いくさのときに、一度だけ見たことがあった。
こんなに綺麗な顔はしてなかったが。
――ドズズゥゥン!
小柄な男が地面に置いたのは、身の丈よりも大きな金槌。
おれの錫杖も腕くらいの太さがあって、そうとうな目方だったが、あんな鉄塊では無かった。
「フッギャー!?」
地響きにおどろいた、猫のあたまをした一家らしき集団が、路地のかべをとびこえて逃げていく。
「…………」
鳥あたまや……何あたまだかわからない毛むくじゃらは、身じろぎもせずソコに居て、コチラを値踏みするような視線を向けている。
「なんだヒヒィン!?」
「どうしたニョロ?」
腰から下が馬や蛇どもが、手にした槍や剣から雷光や炎をほとばしらせた。
やっぱりここは――地獄だった。