196:龍脈の棟梁(シガミー)、ガムラン温泉
「……なんて言ってるんだアレ?」
「――問題解決、褒めラれる、うレしい――♪……ですネ」
褒められる?
一号はぼくに、褒められたいのか?
「はイ。基本的ニ我々、アーティファクトの行動原理……生キる目的ハ使用者が提示シた問題ヲ解決すルことにあります。そシて、ソの報酬は〝使用者かラの感謝〟と言っても、差しつかえないと思われます」
ん? オマエも褒めて欲しいのか?
「私ハ既に迅雷としテの自我ヲ確立していますノで、必要はありマせん」
そうなのか。まるで悟りに至った坊主みたいだな。
「必要はなくても、感謝はしてるぞ。ニゲルの例もあるし、迅雷が居なかったら、おれはまだ女将の店と草原を行ったり来たりしてただろうからな」
「感謝をシているのは、コチラもデす。シガミーのおかゲで、連日飽きることなく問題解決に勤しめていますノで」
そんなら良いけど、オマエを遣わしてくれた五百乃大角には、感謝の言葉のひとつでも言ってやるべきなんだろうが――
「はイ。間違いナく、〝ムシュル貝のドラゴーラ焼き〟ヲ要求してくルと思われマす」
だよなぁ。ここは心の中で、感謝するにとどめる。
§
「おい迅雷クン」
「なんでシょうシガミー」
危ないから通路をもどり、外に出た。
「温泉は、なんかに使える」
「はイ、大手柄でス」
まだ、誰にも見つかってないのか、辺りに人の気配はない。
「でかした一号、よくやったぞー。ありがとーぉ♪」
褒められたいというのだし、ねぎらいの言葉をかけてやる。
頭をなでてやると、「みゃあ」となで返してきた。
龍脈の流れの一種であり一部でもある、活力に満ちた地下水の流れ。
それを見事、引き当てた一号には、温泉以上の――なんらかの使い道がある。
「はイ。一号もシくは一号ハ、私とはチがう学習効果……知見ヲ収得したよウです」
どうもそうみたいだ。
迅雷とはちがって、頓知に掛かる時間が短い。
しゃべれてもカタコトだから、なんでそうなったかの理屈を聞くことも、むずかしそうだし。
「(一号の頭が開かないように、出来るか?)」
強化服は強い。
けど服なので、頭が開いたり外れたりするようになってる。
そして開けちゃうと中身の、おにぎりみたいな形の小さなアーティファクトをふたつ組み合わせた……美の女神の背中の箱みたいなヤツが、まっさらになっちまう。
まっさらってことは、またイチから歩き方を教える所から、やり直さないといけなくなる。
「はい、可能ですが――――ニゲルの剣が持つ光由来の寸断スキルを防ぐために、イオノファラーの攻略本を参照する必要がありマす」
やっぱ、ニゲルの生まれと能力について、五百乃大角と話をする必要があるな。
けど、あの野郎たぶんつかまらねぇだろうな。
姫さんを掛けた勝負の駒に、おれをつかいやがったことを、怒られると思ってるからな。
実際、怒るつもりだし。
「けど、温泉と新しい献立とルコルの店は関係ないよなぁ?」
筋肉痛には効くかもしれないけど、温泉は食い物……新しい甘いお菓子に関係ねぇーし、ルコルの店にいたっては……まさか蒸し風呂屋でもやれってのか?
「いっやぁー、お手柄お手柄。新メニュー出来るおー♪ この泉質ならっさぁー♪」
あ、出た。こいつはもう、あれか。
おれに怒られるのと、面白そうな出来事を秤に掛けて――重い方に飛びつくんだな。
ふりかえると、がやがやがやがやがや、どやどやどやどやどや。
いつの間にか人垣が出来てて――
「カラテェー。これはまた、とんでもないことに、なりましたわねぇー!」
姫さんまで来た。
頭の上に、御神体をのせている。
「いや、|コレを見つけたのは一号だ《にゃにゃみゃにゃーぅ》。ボクは穴を掘る、手伝いをしただけだよ」
きゅふぉん♪
『>コレを見つけたのは一号だよ。
ぼくは穴をあける手伝いをしただけ』
文字を、みんなに見せる。
猫耳族が居れば、通訳もしてくれるだろうが。
ニャミカもネコアタマ青年もいないし、人混みの中にも居ない。
「みゃにゃ、ゆーにゃ、みゃご――――♪」
小雨のように降りそそぐ温泉を、手のひらで受けようとして走りまわる一号。
「シガミーが、はしゃいでいますわね――かわいらしいこと♪」
そういや、あの中身はシガミーだって事になってるんだった。
「(いろいろ詰めておかないと、些細な綻びからシガミーの一人三役が――バレる可能性があります)」
そうだな……オルコトリアには、一号は〝天狗が使役してる魔物〟ってでまかせを言ったままだしなぁ)」
楽しそうに小躍りして、熱湯をかけられる一号に声を掛ける。
「おーい、ソコに居ると、お湯がかかるよ?」
あれ? 作ってやった文字板がなくなってる!?
どこかで、落としたのか?
あたりを見わたしてたら、地面に小さな影が――
ガゴンッ――――なんだ!?
ガゴンゴゴンゴゴゴゴドガガガッ――――あっぶねぇ!!!
なんか落ちてきて、次々と地面に突き刺さった。
うぎゃーわーと、逃げていく人々。
それは、ムシュル貝だった。
「危っぶ――なっにこれ、おいしそうじゃないよー♪」
熱湯でゆであげられた貝が、うまそうなにおいを立ち登らせた。