194:龍脈の棟梁(シガミー)、聖剣ヴォルト(安物)
「勇ましい者? ニゲルがぁ?」
たしかに豹変した今のニゲルなら、魔王(生物)とだって渡りあえそうだけど。
「(リカルルの不可視の斬撃に匹敵する、危険度です。降参します)」
おう、できるもんならやってくれ。
きゅふぉん♪
『>【ニゲル。この文字がよめますか?
参った。降参します
――シシガニャン二号】』
画面にも表示されている文字は、ときどき読めない字が混ざってるけど、たいていは五百乃大角たちが使う文字だ。
「ありゃ、日本語じゃん? 懐かしいなー。本当に「参った」してくれるんだね?」
「漢に、二言はねぇ♪」
二号は諸手をあげて、錫杖を落とす。
「ふう、よっこいせ――ふわぁー疲っかれたぁ♪ もうやらない。こんな本気の戦いは、一生死ぬまでしない――この工房長が打ってくれた剣に誓うよ――安物だけどね♪」
やっぱり、あんまり勇ましくはない。
まあ、ニゲルだしな。
「その字がでる木の板って、ひょっとしてタブレットPC? あ、いや、そんなわけないよね。迅雷が動かしてる……のかな?」
「(判明している事柄から、彼はルリーロやシガミーひいては天狗や烏天狗の故郷である〝ヒーノモトー国〟が自分の生まれた国と同じだとは、認識していなかったようです)」
それは女将やコントゥル母娘、町のみんなの様子からも間違いない。
きゅふぉん♪
『>まさかニゲルが同じ国、
いや同じ世界の生まれとは、
思わなかったよ』
「まあ、そういうことも有るし、いろいろ納得したよ。くわしい話を聞きたい所だけど、そろそろボクは行くよ――」
がやがやがや。
「シガミーの呪文の爆発で人が集まって来ちゃったから、一刻もはやくココを離れたい」
コッチもだった。いそいで一号をとっ捕まえなきゃ。
折角さびが落ちた聖剣を――ギャギジャギギギィガキン!
鞘にむりやり押しこむ。内側が相当、錆びてるんだと思う。
ふぉん♪
『┤▒▼――――<シシガニャン一号>』
「(シガミー。一号が城壁からうごく気配はありません)」
なら、ちょっと時間があるか。
「こっち来て!」
青年の手をとり裏路地へ。
きゅふぉん♪
『>【刀身は打ち合ってるウチに、さびが落ちたけど。
さびた鞘に入れたら、また錆びちゃうでしょ?】』
剣の柄にも、すこしさびが浮いてるし。
文字板を見せ短くされた腕を、ぽきゅりと差しだす。
「ひょっとして、さびを落としてくれるの?」
ぽきゅりと頷く。
「――じゃあ、お願いしようかな?」
ひょいと手渡された〝聖剣ヴォルト〟が――
凄まじい勢いで――ドズズン!!!
地に落ちた小剣に、押しつぶされる二号。
「んっぎゅぅぅぅ!? どっせぇーい!」
ニゲルの聖剣は、金剛力を使っても持ちあげるのがやっとだった。
な、なるほど? あの踏みこみの異様な速さは、この重さか。
「何してるんだい? あたらしい芸?」
ひょいと指先で、摘まむように持ち上げられる安物の聖剣。
ニゲルが持てば、羽根のように軽い。
きゅふぉん♪
『>そのまま、持っててよ
すぐ綺麗に出来るから』
ヴッヴヴヴヴヴヴァァッツッ――――すぽん♪
聖剣を仕舞った迅雷――二号の後頭部が地面に突き刺さる!
「痛ってぇぇぇぇぇっ――――――――!?」
衝撃は地に落ちた高さ分――せいぜい1シガミーだから屁でもないけど、重みで反らされた体は――とうぜん痛い。
「(まったく、この聖剣ってなぁ一体なんだっ!?)」
コレを作ったヤツは、ふざけてるのか!?
ヴッ――――仕舞うときには時間が掛かったけど、出すのは一瞬で出――!?
「にゃごっ!?」
寝そべり天を仰いでいた、顔の上。
あらわれた聖剣のさびは落ちていて、きらめいてい――――ぎゅぷりゅるん♪
体を回転させ、すんでの所で落ちてきた――――ごどんっ!
ビキバキャッ――――聖剣を躱し、ごろごろドガッぷぎゅるりゅ♪
転がりすすんで壁にぶつかったけど、コッチは全然痛くも痒くもない。
強化服二号はちゃんと、ボクの体を守ってくれている――はぁはぁはぁ。
「だ、だいじょうぶかい?」
さっきまで二号を、なます切りにしようとしていたヤツの言う台詞ではない。
差しだされた手をとる――ぽぎゅむ♪
「これ、ありがとう。研ぎに出すのもお金が掛かるからさ、ずっとほったらかしてたんだぁ、ははは」
頭をかく勇者ニゲル。
きゅふぉん♪
『>【喜んでくれて良かった。
じゃ本当に急いでるから、もう行くね。
一号を追っかけてる途中なんだ】」
一号には誰が入ってるの?
なんて、ややこしいことを聞きそうな、子供も鬼娘も猫耳娘もココに居なくて助かった。
「そっか、悪いことしたね……そんな急いでるときに、重ね重ね悪いんだけどさ――」
§
さっき迅雷のバチバチをされたばかりだ。
ニゲルが、おびえるのも無理はない。
きゅっぽぉん♪
面白い音。
鏡代わりにしようとしたのか、ニゲルが小剣をちょっとだけ抜いたけど――刀身はまだ光ってて物を映さない。
シュカッ――小太刀を抜いて、青年の顔を見せてやる。
「これ、ちゃんと落ちるのかい?」
〝参った〟の証拠に――肉球を額に押し当ててやったのだ。
きゅふぉん♪
『>【大丈夫、風呂で洗えば消えるから】』
シシガニャンの足形……手形は、まるで六つ星紋みたいで、なんだかかわいらしかった。
§
「(なあ、身分ちがいは重々わかっちゃいるけど、ニゲルのことを応援してやりてぇなあ)」
ぽっきゅ――――トトォォン――――♪
こんどこそ、先をいそぐ。
「(そうですね。おそらく、聖剣がらみで色々あったと類推できますし)」
おれにはこうして神(笑)が使わした迅雷が居てくれたけど――ニゲルのまわりにそんなのが居た様子はない。
「(うん、暇が出来たらニゲルと話をして、何でもいいから助けてやろう。フェスタ中にやることが又増えちゃうけど、他ならぬニゲルのためだし、同郷という、重……面白そうな事実を知った五百乃大角がほっとくとは思えない)」
さあ、一号はどこだ!?
ふぉん♪
『┤▒▼――――<シシガニャン一号>』
「(まだ、城壁の突きあたりを、うろついています)」
地図をよく見れば、▼は、レイダとボクの狩り場でも有る、あの貝釣り穴がある辺りだった。
ぽっきゅ――――トトォォン――とっとっとぉん――――くるくるくるるん、すたり♪
たかく飛んで屋根を蹴りすすむこと、わずか五歩。
「居たっ!」
壁の前。
何かを探して、ペタペタペタと壁をまさぐっている一号を見て――
気が抜けた。
「(ありゃ、何してんだ?)」
「(わかりません)」
どうやら、ぼくとレイダが作った隠し通路を探してるっぽい?
六つ星/日本の家紋のひとつ。大きな黒丸を小さな黒丸五つで囲んだかたち。