190:龍脈の棟梁(シガミー)、新メニューとかアーティファクト仲介所とか
「モンゼェーン・ノコォゾォウ……ミャ?」
きゅふぉん♪
『>〝真似してるといつか、習ってもいない魔法や術を、
使えるようになる〟っていう教えだよ』
「カラテェー君は真似してないけど、良いの?」
ぐ、子供め。いつも余計なことを。
きゅふぉん♪
『>ぼくは故郷で一度、この修行を
済ませているから、必要ないんだ』
「じゃあ、なんで〝猫の服〟を着てるミャ?」
ニャミカも時々、余計だよな。
きゅふぉん♪
『>これはシガミーちゃんの修行に、
付き合ってるだけだよ』
ちなみに板に対して念話を使えば、こうして文字が出る。
「ふぅん、カラテェー君わぁー、シガミーちゃぁんにやさしいんだぁー」
ふーん、ふーん、へーぇ。
どうした、レイダがおかしいぞ?
「――怪しまれていまス。おそラくシガミーと烏天狗ノ関係性に、なンらかの疑問ヲ抱いたト思わレ。防諜……ハかりごとには注意してくださイ――」
「――はぁー、もう! あんたたちってば、まったくもう!――」とため息をつきなが
ら、御神体が、手のひらを上に向けた。
雨は降ってないぞ?
ふぉん♪
『イオノ>ヤキモチよヤキモチ」
§
「にゃみゃにゃ、にゃにゃやみゃー」
きゅふぉん♪
『>リカルルさまにまで、
手伝わせてしまって、
まことに、かたじけない』
「「「「かたじけない? シガミーみたい――だよ?」――ですね」――ですわ」――じゃん、ぷげら♪」
五百乃大角まで一緒になって、怪しんでんじゃないやい。
「おんなじ日の本の生まれだからねぇーん♪ ござるござるで、かたじけないのよねぇー♪」
「ござる♪」「ござるですの♪」
子供と給仕服が――からかってくる。
「ござる――コォン?」
「かたじけないですわぁー♪」
ぐ、姫さんまで。
「かたじけない――ミャ?」
きゅふぉん♪
『>かたじけないっていうのは
謝罪や感謝を表す言葉で、
ござるは伯爵や姫様に対して
つかう丁寧な言葉だよ』
「お子様が、そんなことを気にする物でわぁ、ありまーせぇーんわぁー」
なでなでなでなで――なでなでり。
伯爵ご令嬢の、この気さくさは大した物だと思う。
思うけど、いつまでも、わさわさと腹をなでるな。
ガチャガチャガチャン。
板場――台所に食器を。
ごどん、ドゴドンドドン。
倉庫に食料の備蓄を、しまい込む。
これは、万が一に備えての事だ。
いつも迅雷が居るとは限らない。
なんかの手違いで収納魔法や魔法具が、
使えなくならないとも限らない。
「ふぅ、あらかた片付きましたね」
パンパンと手を叩き――シガミー邸の居間を見わたす給仕服。
「さぁ、シガミー! そろそろ待望のオヤツの時間でがんす♪」
「「「「「がんす?」」」――コン?」――ニャ?」
「〝がんす〟はぼくも聞いたことがないよ?」
きゅふぉん♪
『>ガンスはぼくも、
聞いたことがないよ?』
「えーもー、ござるでも、ざますでも、やんすでも、どうでもいーでしょぉぉぉう! そ・ん・な・こ・と・よ・りぃーーーーーーーー、オ・ヤ・ツわぁー?」
さっきのいまだ。
急に言われても、そんな簡単に用意できるかってんだ。
それに、それは烏天狗に言ってどーするんだ。
シガミーは一号の中に、居ることになってるんだぞ。
「もうね、烏天狗君もさぁ、猪蟹屋の関係者みたいな物なんだから、気にしなくてもいいのよー? さぁさぁさぁさぁ、耳を揃えて――甘くてかわいくて、栄養のある……あたらしいメニュー……献立を考えてよっ♪」
やべぇ、何も考えつかねぇ。
揚げた甘いおかしってのは、猪蟹屋の向かいの通りの店に、先取られちゃったし。
五百乃大角がテーブルに広げたままの、冊子を手に取る。
すると一号が、目のまえにあった『テナント募集』の紙を手に取った。
ふむふむと、まるで文字を読んでるように見えるけど、あれは――ぼくの真似をしてるにすぎない。
「あら、そのチラシはなんですの?」
「もともと新しいお店を出す場所を、見に来たニャン!」
「そうコォン!」
「たしか、喫茶店をしていたはずでは?」
「うん、やってるコォン♪ 今日はお休みだけど――」
「ちゃんと、戸締まりしてきたニャン♪」
「今度はアーティファクトの仲介だけじゃなくて、売買をメインにしたお店をやろうと思ったコンけど――」
「まだ女神像が開通してないニャら、海の藻屑と消えたニャン」
うなだれる二人。
ぺらり、チラシをめくり、ふむふむ? なるほど?
という顔をする一号が、コッチを見てる。
なんだその、号令を待つ目。
図面を引くのとは、わけが違うんだぞ?
きゅふぉん♪
『>じゃあ、新しいメニューと、
ルコラコルのお店と、
あと、ついでにシガミーちゃんを
なやませてる筋肉痛に効くお酒。
これ、ぜーんぶの<図面>を頼むよ』
そんな、つごうのよい図面はない。
そんな線は、引けるはずがない。
のに――――にゃぉぉぉぉぉん♪
「へい、がってんでい♪」とでも言うべき確信に満ちた、鳴き声。
どばがぁん!
ドアを蹴飛ばし、一号が飛び出していった!
「「「「「「シ、シガミーが、逃げた!?」」」」」」