19:食いつめ幼女、七天抜刀根術三の型
「じゃあ、こんどは長めの型を……すっすぅー、すっすぅー、すっすぅぅぅぅーーーーっ!」
免許皆伝のおれでも、型のさいちゅうに息を継ぐことはできない。おおめに吸っておく。
「三の構え、大刀から四方暗器まで。」
ヒュヒュヒュヒュッヒュヒュヒヒヒュフォオン!
根がこんだけかるいと、ふつうは末端速度がのらねえとこだが――――小せえ体がかってに重心を大きく旋回させた。
――ゴン!
鉄柱の一点に目印を打つ。
フォヴォォォォォォォォォォォォォォォォン!
重心がえがく円のうごきを、まっすぐなはずの根に伝えていく。
――ガキッ―――ギュキッ!
「きゃっ!? 棒が折れた!?」
なるほど、外からはそうみえるのか。
―――ギャラララッ!
「(曲がってねえよな?)」
「(はい、シガミー。多少しなってますが)」
両端に二カ所ある、打突の先端。
それをまるで、苦無や手裏剣のように四方からとばす。
――――ゴコゴゴッゴゴッゴン!
おれは長い棒を水平にかまえ――――印を結ぶ。
これに真言はのらねえが、あるのとないので威力がなんでか変わる――
「――滅せよ!」
ドッズズズズズズズムン!
白熱した鉄柱が寸断された。
「きゃわぁーー!?」
うしろにいるレイダが、腰をぬかした。
ぜぇ――、はぁ――。
「(いきてるか?)」
「(はい、シガミー。問題ありません)」
がやがやがや。
なんか外っつうか下の階が騒々しくなった。
「すっごい! こんなのみたことない!」
おれもみたことねえよ、こんなの。
まるで鉄砲じゃねーか。
前世のおれよかぁ、からだの切れが良いしよ。
「(この威力は、どういうこった?)」
「(まだ推測の域をでませんが、子供のからだの柔軟性が心身ともに最大限発揮された結果かと)」
「この根術があれば、薬草師でもE級クエスト受けられるよ!」
「そんなことより……これ怒られねえか?」
何本かあるうちの一本とはいえ、屋台骨を切っちまったら――ただではすむまい。
「おこられるわね」
口のはしが、少しゆがんだ。
あの寡黙な父上どのが本気で怒ったら――いや、まさかこんな威力とは思わなかったんだから、しかたがねえ。
「大丈夫、私もいっしょに怒られてあげるから」
まったくもって大丈夫じゃねぇけど、気もちはありがたい。
「やっちまったもんは、仕方がねえ。それよりどうだぁ……おれの、疾風迅雷の早業……むにゃぁ」
――――ばったん!
「シガミー!」
「ご心配ナく。体力ギれです」
くそう、こんなんじゃオオカミ一匹倒すのがせいぜいか。
しかし、おれでも体力さえあれば根術が使えることがわかった。
「決まったわ、あなたのお名前! なんかかっこいいから〝ジンライ〟!」
あれ? いつのまにか棒をひったくられた。
〝迅雷〟は、かっこよすぎねえか?
おれとしちゃ、〝五百乃大角鉄棒〟とかのほうが――――むにゃあ。
鉄砲/初期の火器。マッチロック(火縄)式の遠距離武器。種子島より伝播したため種子島とも呼ばれた。