187:龍脈の棟梁(シガミー)、リオレイニアさんがあらわれた
「――ルコルたチの要望はあくまで、新ギルド屋舎内に店舗を持つことデす――」
そりゃそーだろー?
そういうはなしなんだしー?
「だるいなー♪」
ごろんごろろん♪
「――コォン♪」
ごろんごろろん♪
「――ミャァー♪」
ごろんごろろん♪
ははっ――なんか楽しくなってきた。
ごろんごろろん♪
ごろんごろろん♪
ごろんごろろん♪
ここまでだらけたやつらを、いままで見たことがない。
まあでも、ここんとこずっと働きづめだったし――
「――――アナタたちは、こんな天気の良い日に――何をしておいでですか?」
冷たい冷気。
やべぇ、見つかった。
§
幸い、子供ばかりなので――背筋に冷たい風を、浴びせられただけで済んだ。
「――つイ先日、シガミーは遠慮なシに、凍らされタばかりですが?――」
うるさいよ。
「冷えた体には、ミルクティーをどーぞ♪」
レイダが温かい飲み物を、こぼさないよう――えらく真剣に運んできた。
お盆から、取りだす手つきも慎重だ。
「あ、りがとうミャ――がたがたぶるぶる!」
がたがたと震える手で、器をうけとる猫耳娘。
「カラテェー君も、どーぞ♪」
「ありがとう♪」
ルコルとニャミカには悪いけど、二号を着たぼくは、すこしも寒くなかった。
「(あ、ちょっとまて。おれぁ、二号を着たままで、どーやって飲み食いすんだぁ?)」
「――普通に口ヲ付けテみてください。基本的には着たまま生活できル作りになってイます――」
はあ? そんなの出来るわけが。
目の前には画面があって、外が見えちゃ居るが、頑丈な兜頭に隙間なんてない。
いや――神々の考えが、滅法詰め込まれた服だ。
まずは、言われたとおりにやってみる。
ぽこ♪
ほらみろ、でかい頭にぶつかるに決まってるじゃ――
ふわぁん♪
リオレイニアが入れてくれる、いつもの白い茶。
その香りと、あたたかさを感じるぞ?
よくみれば、猫耳頭の口が開いてる。
「(口から文字板を取りだしたのの、逆なのか?)」
ぐっと引き寄せたら、器の縁が兜頭の中に入ってきた。
なるほどな。コイツを脱がなくても、たしかに生活できそう――って、そんな訳にいくか。
「(廁は、どーすんだ?)」
「――そレも文字板を出荷……取りだしたときと同じです。ふつうにトイレに行って、用を足してくだサい――」
んー? 尻はどーやって、拭くんだ?
「――生活魔法ヲ、〝みずのたま〟、〝ひのたま〟、〝つめたい魔法〟ノ順に使ってくだサい。お湯であらワれて、乾燥されまス――」
そりゃ練習しないと、むずかしいんじゃ?
「――問題ありマせん。そのタめの機構が、シシガニャンには組ミ込まれてイますし、多少汚れテも、入浴モードを使えばカラダごト、綺麗になりますのデ――」
入浴門戸だぁ?
シシガニャンを着たまま風呂ってなぁ、どういう了見だぁ?
まったくもって、わからねぇ。
神々の世界のことは、ほとほとついて行けねぇな。
「ずずずそぉー♪」
ひとまず茶をすする。
三つの生活魔法を混ぜるなら……〝みひつ、ずのめ、のたた、たまい、ままほう〟――じゃ、ダメか?
お湯が先で、乾燥の魔法があとだから……〝お湯のたま、乾燥の魔法〟になんのか?
生活魔法の天才すら知ってるかどうか怪しい、これまでなかった呪文の唱えかただ。
一長一短には、出来ない。
「ぷふふ、カラテェー君も、上手に飲めるんだね?」
いま、〝も〟っていったか?
肩とか腕とか、わさわさと撫でてくる子供。
きゅふぉん♪
『>〝も〟ってどういうこと?』
文字板をテーブルに置いて(くび紐は板の紐穴から、ねじり抜いたら外れるようになってた)、レイダに差しだした。
「もちろんシガミーもソレを着たまま、上手に食べたり飲んだりしてるって意味だ――わっ!? なにそれ便利! リオレイニアさん、コレが有ればシガミーともお話が出来るよ!?」
「あらほんとう、それいいですわねぇ。カラテェー君が、お作りになられたのですか?」
リオの手元には、二つの器がのったお盆。
きゅふぉん♪
『>はい。師で有る天狗に、
ならったスキルで作りました』
湯気を立ち昇らせるカップ。
そーっと手をのばす、ルコラコル少年。
ぺちりと、はたき落とされる。
「レディ、サキラテ。か、顔を見せに来られなかったのには、理由があるコォン♪」
「……お聞き、いたしましょうか?」
§
きゅふぉふぉん♪
『>ルコルが渓谷で二つ首の大鷲に、
さらわれてたのは、本当だよ』
「ふぅ、仮にもコントゥルに名を連ねながら……実に、なさけないですね――――コトリ」
テーブルに置かれた器に、とびつくルコル。
「カラテェー君。ルコラコルを助けてくれて、本当にありがとう。キミには最大限の感謝と、いつか相応のお礼をすることを、ココに誓いますわ」
立ち上がり、腰を落として片足を引く。
最大限の礼節。
裾かつかないように服をつまんだ、しゃらあしゃらした仕草。
やめて、緊張するから。
「あ、それなら、一つ頼みがあるんだけど」
ニャミカ以外の三人が、首をかしげた。
いけない。あせって、つい猫語で喋っちゃったよ。