186:龍脈の棟梁(シガミー)、アンチチート対策たいさく
「ココォォン――――?」
周囲を警戒する、狐耳少年。
「どーしたミャッ?」
同じく周囲を(以下略)。
「――悪いことしたわねぇ……ひそひそ……ごめんごっめぇん♪――」
耳栓越しに〝声〟をひそめても、意味はない。
ルコルが感じ取ってるのは〝アーティファクト迅雷〟と、〝アーティファクトもどき五百乃大角〟が発する――〝念話〟だ。
このコントゥル家への対策も、そのうちやっときたい。
念話を使ったときの……特に〝周囲が遅くなる効果〟は、制限なしに使いたいのだ。
この世で一番強いとされていた〝魔王という生き物〟は、すでに死んでいる。
けど、また第二第三の魔王が出てこない保証もないらしくて。
そういうわけで、刹那の斬り合いの最中に迅雷と相談できるってのは……まさに生死を分ける――如何様だけど、使えるようにしときたい。
「――そレで、イオノファラー。女神像アクセスポイントノ拡充の件でスが、何か問題デも?――」
「――結論から言うとぉー、央都のぉー大女神像を経由した場合ぃー、女神像へのアクセス解除が出来ませぇん(キッパリ)――」
どーいう?
「――FATS……神々の船のぉー仕様でぇーす♪――」
どーいう?
「――ガムラン町かラ徒歩で、女神像へ到達しナいと――版図ヲ広げられナいと言うことでスか?――」
「――そーうーなーるーわーねー♪ 参拝してぇー同期することわぁー可能だけどもぉー、転移陣のロック解除は出来ないって言う謎仕様わぁー、誰得ぅなぁのぉー?――」
どーなの?
「(歩きでってのは、二号も使ったらダメなのか?)」
「――それなら問題ないわよー。けど、あたくしさま謹製の卵酒は、もう在庫ないからぁ注意してねぇーん♪――」
は? そりゃ困る。金剛力で女神像の間をカッ飛んだら、かならず筋肉痛で死ぬ。
「(卵酒は作りゃ良いんじゃ?)」
「――透明なお酒わぁ、シガミーのぉー管轄でしょぉぉう? あたくしさまに聞かれましてもぉー、お答えできかねまぁーすぅ♪ じゃあ、おいしいオヤツ期待してるからねj☆fj∮んkぇb、ッブッツン♪――」
いって、うるせえな!
声をいきなり、切りやがった!
耳が痛ぇ――ぽっきゅ♪
頭が邪魔で、耳を押さえられない。
「どうしたコ――ォン?」
遊びかと思ったのか、自分のこめかみに手のひらを押し当ててる。
「元気だすミ――ャッ?」
おなじく遊びかと(以下略)。
君らの耳は、横に付いてないだろ。
「ココ――ォォン?」
「ミャ――ァァッ?」
途方に暮れるぼくを、二人が心配してくれる……のか?
ふざけてるだけな、気もするけど。
ぽきゅ♪
再びテーブルに、顎を乗せた。
そういや、この所立て込んでて、酒瓶から中身を回収してなかったな。
おれと一緒に〝前世から来た酒瓶〟は、割ると次の日に満杯になって元どおりになる。
但し、中身は醤油やらゴマやらが出ることも多い。
出る物すべてが珍しいから、シガミー邸の台所や、迅雷の収納魔法に溜めてあるけど――
澄んだ酒、濁りのない〝澄み酒〟は出づらい。
そして五百乃大角の卵酒は、ほんとうに五百乃大角が作ってたらしくて、澄んだ酒がないと――
「――連日夜通シ走りつヅけ、女神像へ参拝するこトが、不可能になりマす――」
だよな。あの筋肉痛は酷くて、僧兵のおれ……ぼくですら音をあげる。
ガムラン町で、透明な酒が作れりゃ良いんだが。
「――央都デも果実酒と、麦芽酒シか見かけませんでシた――」
なんか、うまいやり方はないのか?
澄んだ酒の造り方を、攻略本で調べてもらうべきだったか?
けどいま、オヤツ一個と……まえのツケ――『ムシュル貝のドラゴ-ラ焼き(うり切れ)』が二個も溜まってるからなー。
「ふぅぅぃ……」
やることと、考えなきゃいけないことが、どんどん積み重なっていく。
ごろんごろろん♪
頭を左右に、なんとなく転がした。
そういや、シシガニャン一号は考えごとをするときに、頭を振ってたっけなぁ~。
いっそのこと――――一号に丸投げしてやろうか。
ふとあのSDKが、脳裏にうかんだ。
「――ソレは、妙案かもしれませン――」
は?
ふぉふぉぉん♪
『1)オルコトリアVS一号
>負けた場合の、天狗VSオルコトリア
2)新メニュー
>甘くてかわいくて、栄養の有る物
3)ルコラコル新店舗賃貸契約
>女神像転移網拡充
>卵酒増産
4)コントゥル家対策』
画面――頭の裏側に、いま頭を悩ませている一覧が出た。
1)は一号と天狗が、戦ってやれば済むことだ。
一号は、ひょっとしたら、こじ開けられて折角おぼえた事が、お釈迦になるかもしれないけど――また育てりゃすむ。
そして、一号を倒すほどに本気の鬼娘が相手だと、天狗のわしでも相手を殺さないのは骨が折れる。
けど、蘇生薬の在庫は満杯で――ひと呼吸できりゃ、死なせずに済む。
不測の事態に陥ったとしても、姫さんにもらった紐が、まだ切れてないから、天狗が死ぬことはないと思う。
のこる問題は、2と3と4。
「(……大工仕事の図面を引くような、キッチリした正解のない、ややこしいことばかりだぞ?)」
生まれてから日が浅い、黄緑色にそれが出来るわけが――
「――でスが、例えバ甲乙つけがたい、ふたツの新メニューがあルとして――そレを一号に、選ばせることなら可能でハ?――」
ぬ?
それは……「どっちがたくさん売れる?」って聞いたら……事もなげに片方を指さしそうだ。
ごろろんごろろろぉん♪
頭を左右に、おおきく転がした。
じゃあ、女神像参拝はどーするんだ?
ここにない女神像は――並べるわけにはいかないだろ。
「――並べれバ良いのでス――」
は?
どーやって?
「――モニタ画面ヲ経由すルと結果が、画一的になる恐れがあるので……部屋一面の大きな地図ヲ用意しテ、女神像ノ模型ヲ並べまス――」
そーれで?
ごろんごろごろごろろろん♪
頭を左右に、小刻みに転がした。
ごろんごろろん♪
ごろんごろろん♪
なんか、ほかの頭も真似してころがり出した。
おれ……ぼくが遊んでると思ったらしい。
「――一号に筆を持タせ順路問題……一筆書キで女神像をツなぐ順番ヲ、描かせルことが出来まス――」
ふぅん? けど本当に行き来するのには、結局時間が掛かるだろう?
ごごろんごろごごん♪
頭を左右に、乱雑に転がした。
「――コォン♪」
ごごろんごろごごん♪
「――ミャァー♪」
ごごろんごろごごん♪
合いの手が加わった。
「――ソの解法にハ、問題ヲ一度、切りわけます――」
きりわける?
ごろんごろろん♪
「――コォン♪」
ごろんごろごろごろろろん♪
「――ミャァー♪」
ごごろんごろごごん♪
テーブルの上を三つの頭がゴロゴロと行き来して、うるさくなった。