181:龍脈の棟梁(シガミー)、フェスタ一日目
「あれ? シガミーが二匹に増えたっ!? さっきあっちでも見たよ?」
また言われた。
「おはようニゲル」
薄桜色を着て、早二日。
「――「マ、魔物!?」のクだりがなくなっただけ、良しとしマしょう。おおムね好意的ニ受ケ入れられているようデすし――」
「そうだなー。〝1号〟はどうしてる?」
ちなみに薄桜色の腹には、大きく『2』が書かれてる。
色違いだから見分けは付くけど、念のために『印』を書いたのだ。
もともと腹と喉と鼻先が白かったから、その毛皮を染めるように色を変えたら――
見事にやり返された。
〝おにぎり強化服〟に『1』って書いたら、『2』と書き返されたのだ。
かしこくなっては居るけど――基本的には〝やり返す〟か〝真似をする〟だけだから、扱いには気をつけないといけない。
そして、ぼくが2号を着たことによって、同族意識が芽生えたのか――
ぼくに付きまとう癖が、どっか行ってくれた。
この采配は迅雷を作り使役するほどの、神々の知恵ならではで――迅雷にも考えつかなかった。
やっぱり、どんなに腐っても、五百乃大角は神なのだ。
「っぎゃっ!? ま、魔物――じゃない?」
けど結果として、〝数字〟が書かれた魔物なんか居ないってんで、外から来た観光客から「ま、魔物!?」のくだりを省くのに、一役かっている。
「いらっしゃい、ガムラン町へよーこそ♪」
親子連れに、軽く手を振った。
「「かわいいっ!」」
どがんっ――――おうわっ!
子供ふたりに飛びつかれると、痛くはねぇけど〝中〟まで揺れる。
なんせ、五百乃大角が作った〝極所作業用汎用強化服:シシガニャン(薄桜色)〟は、〝廉価版〟らしいからな。
迅雷が居るから、〝若草色〟と同じく使えるけど――多少、脆いところがある。
ふぉん♪
『▼――――<シシガニャン1号>』
「――一号はレイダといっしょにいるので、おそらくは本日の主役で有る
〝ミラノレア嬢〟の付き人にでも、かり出されていると思われます――」
「(そんな大役任せて、危なくねぇか?)」
ふぉふぉん♪
『餌を与えないでください。
強く押したり叩いたり、
魔法や呪いを掛けないでください。
※1・3倍のチカラでやり返されます。
~カブキーフェスタ事務局~』
一号の姿が映し出され、首に提げた軽くて丈夫な薄板が大写しにされた。
「(たしかに、こんだけ書いときゃ、問題ねぇかな?)」
「――はイ。万が一のテロ……辻斬りにも対応できるので……コントゥル母娘が手出しでもしない限りは良い采配かもしれませン――」
兄神さま渾身の妖狐ルリーロを退治した一号は、たぶん二号に並ぶくらいに強ぇ。
事務局には五百乃大角が完備されてるから、丸投げでい一だろ。
ちなみに、看板は若草色だけで、薄桜色には付いていない。
飛びつく子供たちを、ちぎっては頭をなで続けること、約5分。
「つ、つかれたよ♪」
ようやく開放された。
さて、そしたら今日は――何をスルかな。
おれはシガミーとして結婚式に、参加してることになってるし。
客寄せのまねごとでもしながら、猪蟹屋でも手伝わせてもらおうか。
§
「ルコル、ルコル! なんか、おいしそーな色のヤツが、来たミャ♪」
「もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅ、ほはへ、へんへーはへほ、ははほーははんひはひひふ」
あー、来てたのか。
そりゃ、こんな面白げな催し物に、彼らが参加しないわけがない。
「うん、何言ってるかわからないし、そんなにがっつくと又お腹壊すよ?)」
最初から魔物と思われなかったのは、さすがだなと思った。
何がさすがなのかは、わからないけれども。
「んやっ? にゃみゃにゃやーゆ、にゃにゃふぎゃ!?」
あれ? ニャミカが、串揚げの先をこっちに突きつけてきたぞ?
なんて言ってるんだ?
「――「にゃ? オマエ誰にゃ、それにどーして前にも食べ過ぎたルコルが、お腹を壊したことを知ってるにゃ!?」と訝しんでいまス――」
いまは強化服2号だから、烏天狗とは気づかないか。
「にゃみゃにゃや、やーみゃにゃにゃにゃー♪」
おや、店番のネコアタマ青年まで、猫みたいな言葉を喋ってる――?
あ、猫耳族がつかう猫語か!
「ぼくだよ、烏天狗のカラテェーだよ。いらっしゃい♪」
「みゃにゃやっ――!? 中にカラテェーが入ってるミャっ!?」
「コォン――もぎゅり!?」
二人とも驚いてたけど、すぐに二号のお腹をなで始めた。
「あ、ちょっとまって! ぼくのお腹で、手を拭かないでよ!」