18:食いつめ幼女、七天抜刀根術一の型
「なにそれ、根術……? みたいみたい!」
「むりだな、錫杖……長くて堅え棒がねえと」
「長くてかたい棒……私の杖は使えない?」
レイダの身長より長い棒……っていうよか木の枝だ。
長さはあるが、ほそすぎる。とても打突に耐えられねえ。
おれはくびを横にふる。
部屋の真ん中あたりに生えてる、ちょっと邪魔な柱が目についた。
「そこの柱くらいの棒がありゃ、ちょうど良いんだが」
おあつらえ向きに、かたい金属製だ。おれが使ってた錫杖くれえの太さがある。
「シガミーにそんな重いの、持ち上げられないでしょ!」
「シガミーは、かルくて長くて、かタい棒が必要デすか?」
ヴヴルルヴルン!
スダレが震えたとおもったら――――ゴツン!
その音は、スダレが地面に落ちた音だった。
けど柄は、おれがつかんだままだ。
独鈷杵てのは柄があって、両端から杭みたいな尖りがつきでてる。
柄のしたの方から杭ではなく――ながい棒が伸びていた。
おもさはなくて、桐のように軽いまま。
「おまえ――――長さを変えられんのか?」
「はい。マスターの身長までなら、伸縮自在です」
刈った草の山を、ぜんぶ飲み込んだくらいだから、ソレくらいできても不思議はねえやな。
「それ使えそう? やって見せてよ♪」
「(じゃあ、一番ながくなれ)」
「(はい、シガミー)」
ヴル、ヴルルッ――――シュッカン!
なるほど、ちょうど、おれの立端とおなじだ。
クルルルル、クルン――――ゴツン!
振るったぐあいも、地面に立てた感じもわるくねえ?
持ち手になる柄の部分がほとんどで、両端に小さな杭の部分がある。
ながさとかたちは、だいぶ良くなったぞ。
「でも柱を打ち抜いたら、まずくねえーか?」
おれの錫杖は岩でも鉄板でも、なんでも通すことが出来たからな。
ありゃあ、なんだったか白鋼とか言う鉄だったか?
「(アダマンタイトやオリハルコン。魔術特性を付与された特殊鋼は、この世界にも多数存在していますが)――私を傷つけられる金属はありません」
「(わからねえが、わかった。おまえ結構使えそうだな。けど、ほんの少ししなるくらいじゃねーと)」
もう一度軽く振ってみる――――フォオォン!
ちょうど良いしなり具合になった。
「くすくすうふふっ――こんなに硬いんだから、いくら叩いても平気だよ♪」
子供が笑いながら鉄の柱を――ゴコンと靴先で蹴飛ばした。
「ひさしぶりだから、できるかどうかはわからねえが――」
なんせ前世ぶりだからな。
「一の構え。」
しゅっとん。
おれの小さな全身が、しんじられないほど、なめらかにうごいた。
なんだこれ?
酒瓶かついだくれぇで音をあげた子供のからだ。
それが到達できる動きでは、なかった。
――――――――っごわぁぁぁん!
打突された鉄柱が、ずいぶん遅れて悲鳴をあげた。
「え? はやくて何もみえなかったよ!?」
いえの柱とおれを、みくらべる子供。
鉄柱にむかって伸びたおれは、とうの昔に元の位置にもどっている。
白鋼/たたら製鉄による鋼から、選りすぐられた上質な物。後の世では玉鋼と称されることも。
アダマンタイト/超高度金属。磁石やダイヤを意味する、古語アダマントの派生語。
オリハルコン/同じく伝説上の金属。アトランティスに存在した銅系の希少合金。




