175:龍脈の棟梁(シガミー)、シシガニャンがんばる
ヴォヴォォォォォォンッ!
うなる巨大杖。
「はぁはぁはぁはぁ――――あら燃えない?」
息を切らせ、一瞬で戻ってきたルリーロ。
「式神かと思ったらぁ、ちがぁいまぁすぅのぉねぇぇぇぇぇ! 生っ意っ気ぃーーーーーーーーっ!!!」
杖の先端が、また山菜みたいに巻戻ってる。
画面の赤いのも、元に戻った。
「またれよっ! 謀った、わしが悪かった!(わしゃぁ、修験の半ばで命を落とした、ただの老人じゃわい!)」
天狗の正体がシガミーと言うことは、ややこしくなるから伏せておくとしても。
これ以上は、いけねぇ。シガミーもオルコトリアも、前途ある若者だ。
何がどうでも、もう降参!
命を懸けるに値することなんざ、人の世にはひとつもねぇ!
おれ猪蟹は、ソレを前世で学んだ。
そのスグあとに、酔って転んで、おっ死んじまったが。
「なにをおっしゃってますのぉー? 人の身のご老人にぃー、〝護り鬼〟が従うはずがぁーないでしょぉぉうがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ぼっごぉぉぉぉぉ――――!
「(やい、五百乃大角! おまえら仲良いんだろっ、取りなしてくれっ!)」
ふぉん♪
『イオノ>えーやだ、怖い。それにシガミーは現・美の女神であらせられる、このあたくしさまの眷属と言うことを、お忘れかしら?』
あーぁ? 五百乃大角が〝うまい飯を食うためなら、神様だって殺せる〟ってヤツかぁ!?
よせやい狐鍋なんぞ、食えたもんじゃねぇやぁ!
「そぉしぃてぇ~、天狗わぁ、人の身で有りながらぁ不老へと至ったぁ、修験者のなれの果て――――そんなアナタがぁ、〝老体〟などと口にする筈がぁ、ありぃまぁせぇんーでぇしぃーてぇよぉぉぉぉぉぉうっ!!!???」
ガガンッ――――巨大杖に立つ小柄な体躯、その眼光。
おかしい。
おれの真言と同じく、自前の活力を使うはずの、妖狐ルリーロのほとばしり。
双眸から放たれる月光が、何も無いあたりの〝空気〟を染めていく。
それは、止めどなく流れ出る、血のようで――
な――ん――だ――?
五百乃大角の〝ありがたい言葉〟をみてから――なんか。
ヴッ――――じゃりぃぃっぃん♪
直刀ありの、錫杖を取り出す。
なんでか――勝てねぇにしても、負けねぇ気がしてきた。
「(迅雷。ひとまず、オルコトリアが割った、この草原を直せるか?)」
直径は、100メートルいかない位か。
収納魔法箱は、シシガニャンに使っちまったから、一度に全部は無理かもしれんが。
「――シガみー。シガミーのバイタルさインに、ギルド倒壊時とオなじ波形ガ、微弱ながらあらわれていまス――」
んーぅん?
「(どーいうこった?)」
「――加減してくダさい。ガムラン町が壊滅しないトも限らなイ、と言うことデす――」
ん?
仕込み錫杖を?
それとも、草原を?
「――どちラもです――」
「あれぇ、でぇもぉー? ご自身の、お名前おぉー覚えていらっしゃいましたしぃ――やっぱりぃー天狗ぅなのぉー?」
ごきり――――杖の上。
曲がる首。こええな。
よく見れば、今日は巫女装束に身を包んでいる。
魔法の掛かった甲冑や、アーティファクトじゃないなら――――勝てるかもしれねぇ。
ヴヴヴヴヴヴヴヴッ――――――ズズズムンッ!
地面をあらかた、平らに戻した。
下草しか生えてない地面には、鬼娘と天狗(審議中)と猫耳頭。
「いやそれはぁ、五百乃……イオノファラーさまのぉ、お告げでじゃなぁ――――!」
「――――そうよぉーねぇぇ、やっぱりあなたわぁー天狗ぅー♪」
くそう、聞く狐耳はねぇっぽい。
「――――なーにーよーりーぃもぉぉー、その若草色のが動かぬ証拠ですわぁぁぁぁぁぁっ!」
そうだ、あの猫耳頭――――ケンカの仕方は、まだ教えてねぇのに、あの妖狐に一発入れやがった。
ぽきゅぽきゅ♪ と歩いていた猫耳頭。
放たれる狐火――――ごぉわぁ!
若草色の魔物が、ポッキュムン♪ と構えをする。
狐火を例の〝構えひとつ〟で、かき消す。
「よぉーく見んかぁー! ちゃんと、動いとるぞぉー?」
おれのこの減らず口が、決め手になった。
「うふふふっ、くすくすくす、クツクツクツクツ、往生ぉ~しぃまぁしょおぉおぉ――――コォON!」
ぎちり――――――――シュッボゥ!
ごぉぉぉぉぉぉぉっぉぉわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――!!!
燃えあがる、命の炎。
その青白い濁流は天を焦がし――天狗を飲みこむ程にふくれあがる!
っちぃっ――――今度はまやかしじゃねぇ、本当に真言を唱えやがった!
「鬼の娘よー! わしは平気じゃから、この場は逃げろー、守り切れぬっ!」
一瞬の逡巡。
援護のつもりか、長剣以外の剣をぜんぶ置いて、ガムラン町へ逃げていった。
ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ。ぼごぅわ――――神域を開いたときの数倍。
負けない気持ちが、急にしぼんで――――体の芯が冷えていく。
「(じゃから、白状するというのじゃ! わしゃぁ天狗じゃぁ無い!)」
何本もの炎が立ち昇り――――!?
「姿形がぁ、変わっちゃったとぉしてもぉー……ご自分が屠った相手の、お顔くらいわぁぁ――――おぼえていてもぉ、よろしいのでぇわぁなくってぇぇぇぇぇっ――!」
狐火が、草原すべてを覆いつくし――――
ぽこきゃっ♪
黄緑色が拳を突きあげ、巨大杖を叩いた。