170:龍脈の棟梁(シガミー)、恋する(?)オルコトリア
「いただきます」
手をあわせ、三つ叉の一本箸……フォークで寿司を小皿に取る、鬼娘。
「あと同じ皿で三つ作ったから、どんどんオカワリしてくれ♪」
朝飯は終始無言でおこなわれ……迅雷が食後の茶菓子を用意するまで、10分もかからなかった。
なんでこいつら飯を食うのに、こんな全力なんだ。
飯の神であらせられる所の、五百乃大角は……いつものこととしても。
「ぃやぁー、たべたたべた。腹6分目ってとこだけど、まだ朝だしねぇ――ごぉちぃそぉうぅさぁまぁでぇしぃたぁぁ♪」
「おいしかったよ、シガミー」
「「おそまつさまでぇい」」
全部の食器を――すぽん♪
迅雷にしまう。
これだけで、洗い物もせずに片付けが済んじまうのに、最近気づいたんだが――
〝食器専用に調整した収納魔法具〟を作れりゃ便利だって話をしたら、リオが待ったを掛けた。
魔法的なことと、仕事の分担的なことと、あとなんかの兼ねあいで……もめ事の種になるかもしれないらしいのだ。
なので、「みずのたま」――ばしゃしゃ!
からの――「ぼそり……乾燥の魔法」。
ぼっふぁぁ、ぼふむっん♪
乾燥の魔法は、実はまだ、あんまりうまく出来ない。
なぜなら、生活魔法を〝ふたつ同時に唱えはじめる〟のはとてもむずしいからだ。
この新しいやり方は、たぶん生活魔法の天才も知らない。
この高度なやり方は、飯の神に教わった。
虎の巻一回分の教えで――〝ムシュル貝のドラゴーラ焼き(うり切れ中)〟を二皿。
高あがりだったけど、使いこなせれば呪文を唱える……詠唱時間とやらが短くなって、なんでか威力も上がるらしい。
ぽふん――ヴッ――カチャ、カチャン♪
皿を魔法で洗った体裁で、棚に戻した。
魔法の神髄――光の紐の先端は、使えば使っただけ伸びるらしいし、これも修行だ。
「今日もぉ良いお味でしたぁ! それで、何のご用ぉなぁのかしらぁ? なんでも言ってねん、あ、そのワンピ、すっごく似合ってるわよ♡」
「あ、ありがとう。コレは相当まえに、隣町で仕立ててもらった物で、そのなんというか、その――――」
ガタガタと椅子と机を揺らし始める、鬼の娘。
武者ぶるいかな。血の気がおおいな。
「はっはぁぁぁぁん、ズバリ! それっ――勝負服なのぉねぇ?」
なんだ、図針てのわ……勝負服ってのはわかるが。
ふぉん♪
『ヒント>〝ズバリ〟/本質、核心』
「勝負……服? ……あー、ああぁ、そうだ! コレはいつかこんなことのためにと、リカルルにそそのかされるまま購入した……のだろうか?」
なんだか、浮ついてるな。
「勝負ってんなら、鎧が無けりゃ始まらねぇだろ?」
遠征のときみたいな例外。
そうそうでるたぁ思わねぇが、また変異種がでたらいけねぇ。
「ちょっ、バカシガミー! なに言ってくれちゃって――――!?」
「そうか! やはり、ソウだな! では、この上から、いつもの甲冑を着けるとしよう♪」
いそいそと、いつもの胸当てや兜を取りだす鬼娘。
ちなみに、剣の皮紐についてる板状の収納魔法具は、迅雷が〝聖剣切りの閃光〟の面々に作ってやった中のひとつだ。
ちゃんと使えてるな。よしよし。
「えぇーーーーーーーーっ!? 鬼っ娘ちゃんまで、なに言ってんのさっ?」
なんだよ。あわてる御神体。
なんか、話が食いちがってる?
「(いいえ、オルコトリアの生体反応は、まさしく戦や決闘直前の血気や覚悟をあらわしています)」
「勝負の相手わぁ……誰なんでぇい?」
まずはソイツを聞かねぇと。
「ちょっ、バカシガミーッ! そんな聞きづらいことを、こともなげに――――」
「ふう、そうだな。ここへ来たのは、そのためだ――」
シガミー邸へ来たのは――勝負のため?
「(相手は……おれか? いやでも、用事があるのは五百乃大角だろ?)」
ガッチャリン♪
取りだされたのは鏡餅より大きな革袋で、『オルコトリア』って名前が入ってた。
いつだかギルドの長机で、見たおぼえがある。
「この金で、一騎打ちを申し込むっ!」
うむ、じつに勇ましい態度。
女にしておくのが、もったいないくらいだ。
「「「だから、誰にっ?」」」
おれと五百乃大角と迅雷の声が、重なった。
「そ、そんなの――――れ、烈火の如き剣の使い手にして、我々、〝聖剣切りの閃光〟の命の恩人であらせられる――――――――天狗殿しか居らんだローガァー!!!」
耳まで真っ赤。一本角まですこし伸びて、青白い雷光がほとばしった。
鬼だ。鬼が居る。
日の本にも居た、青かったり赤かったりする、すっげー強えヤツ。
一本角に結ばれた、可憐な花の髪飾りが揺れた。