17:食いつめ幼女、アーティファクトに名前をつけよう
「じゃあ留守をたのむよ」
「シガミー君さえよかったら、今夜も我が家に泊まってくれてかまわないからね」
「そしてぜひ、スダレ殿と話のつづきがしたい」
父上殿は、あさはやくから出かけていった。
「スダレ――」
「なンでしょうか、マスター」
マスターってのは、〝主〟のことだ。
じゃあ――
「おまえ、名前は付いてねえのか?」
「(私はインテリジェンス・タレット。形式ナンバーINTTRTT01でス。おわすレですか、マスター?)」
「(それじゃねえ。そりゃ、おれが僧兵とか虎鶫隊弐番隊隊頭なんて呼ばれてたのと一緒だろう?)」
「(そのフォーマット……区分けだと、僧侶がアーティファクト。兵士がインテリジェンス・タレット。虎鶫隊隊頭が形式ナンバーになりますね)」
「(やっぱり、すっげーややこしいな。だから、おれが〝猪蟹〟って名だったように)――おまえに、ちゃんとした名前はねえのかって聞いてんだ」
「え? 〝スダレ〟じゃないの?」
「〝因照減簾〟の略で、〝スダレ〟って呼んでただけだぜ。ほかには〝棒〟とか、〝短い棒〟とか――」
「(インテリジェンス・タレットでス。個体名は未設定ですが、動作に支障ありません)」
〝名前〟に当たる物はないってことか。
なんとなくだが、こいつの言い回しがわかるようになってきた。
「あーもう。シガミーには女の子っぽさが足りない! しかも圧倒的に!」
「そ、そんなに、おこるなって」
女の子っぽさと言われてもなあ。おれぁ、まだいくらもこの姿で生きちゃあいねえからなあ。
「自分の分身のようなアーティファクトに、名前も付けてあげてないなんて!」
「レイダさマ、私は別に棒デも短い棒でも――」
「さまはいらないわ。レイダってよんで」
「はイ。レイダ」
なんでい、すっかりなかよしだな。
§
――――ぼがぁん!
やっぱり、この兵糧丸は、おもしれえ。
火種になる魔法の使い方も教わった。
「上手にできたわね。……わたしなんて三ヶ月もかかったのに」
ぐぬぬ。くやしいって顔に書いてある。
「日常的に使用スる簡単な魔法は、マスターにも使エるようですね」
「あなたも、〝マスター〟なんて言って他人行儀でしょ。シガミーってよびなさい!」
「レイダの提案には必要性を感じませんが、いかがいたしましょうか、マスター?」
「んぁー。どうでもいいが、このしゃらあしゃらした感じもそんなに悪くねえ。好きに呼んで良いぞ」
「ではマスターを以後、〝シガミー〟と呼称します」
「おう。それで、おまえ……レイダは今日はヒマなのか? F級の仕事はおれがぜんぶ取っちまったから、やることもねえのかもしれんが……」
「そうよ。ヒマだから、アナタの名前を考えるのを手伝ってあげる!」
テーブルの上を転がっていたスダレを、ひっつかむレイダ。
「イオノファラーさまの眷属って言うなら、なにか美にまつわる名前の方が良いかしら?」
「いや、だからよう。ありゃあ、そんな大層なもんじゃねーと思うんだよなー。狐耳とかあの鬼娘の方がよっぽど女らしいっつーか」
「それは、イオノファラー様の使いできた、お客さんでしょ?」
「(おい、この誤解は解いたほうが良いのか? 食べ過ぎてしたっ腹が出たことをよろこぶ〝美の女神〟はいねえたあおもうが)」
「(上位権限により非公開です)」
「じゃあ、シガミーのスキルにちなんだ名前なんてどう?」
「隙る? どっかで聞いた……か?」
「冒険者カードに刻印さレているはずです」
おれは首からさげた、板っぺらをみた。
『薬草師★★★★★ /状態異常無効/生産数最大/女神に加護/――』
その最後。
『――七天抜刀根術免許皆伝』
「んむぅ――――?」
なんでか、〝隙る〟がひとつ増えてた。
たしかにおれぁ、武芸百般につうじ、七天抜刀根術免許皆伝の腕前だが、そりゃ、まえの世界の話だ。
兵糧丸/戦国時代の携行食。忍者も愛用。
武芸百般/あらゆる武芸。
武芸/剣術、弓術、槍術、柔術、馬術など、戦うために身につける技術のこと。
免許皆伝/師匠が弟子に武芸や技術の奥義をすべて伝えること。