168:龍脈の棟梁(シガミー)、酢蛸パズル
「(正確にはルリーロの巨大な魂に耐えうる器――〝妖狐のカラダ〟をつくることに、心血を注いだようです)」
ふぃー、そういうことか。いちおうは日の本の神の、眷属だったらしいしな。
シガミーよか、作りこまれてるのはあたりまえだ。
ふぉふぉふぉぉん――――――――♪
『▒▒▒▒▒▒ー▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒
▒▒▒▒▒▒ー▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒
▒▒▒▒▒▒ー▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒
▒▒▒▒▒▒ー▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒』
あー、画面が埋まる。
あふれた〝羅列〟で視界が覆われた。
まえ夜中に女神像に忍びこんだときにも見たコイツが、〝日記〟なんだな?
わかった。けど見せなくて良い。
どうせ、はやすぎて見えないし、そもそも見方がわからん。
ぶるるるっ!
底冷えのする実感はまだ残ってる。
リオレイニアの冷てぇ魔法が、かわいく思えるほどの仄暗い炎。
〝温厚篤実かつ一意専心な人物〟である兄神が満足するほどの――おそらくは、複雑さ。
おれでいうならシガミーの〝カラダのキレ〟みたいな。
ソレが、あの真言にも匹敵する〝狐火の正体〟ってわけだ。
――――ブヒィーッ♪
「……くそっ! うまくいかねぇーっ!」
どうしても、〝反対側がひっきりなしに光る所〟が押せなくて……豚が出る。
「デは私ガ、変わりまシょう」
オマエも、出来なかったんだろうが?
「いエ、シガミーのおぼつかない手つきヲ見ていタら、私ナら出来そうナ気がしてきましたノで」
やかましい――――ブヒィーッ♪
ぽこん♪
「なぁによぉう、へったくそねぇー♪ ちょっと貸してみなさいよ!」
――すぽすぽん♪
梅干しさまが、画面のなかにあらわれ――〝おにぎり×2〟を収納魔法に仕舞っちまった。
「ちっ、起きて来やがったか」
御神体が――シガミー邸の祠から顔を出した。
「そりゃ、これだけ大騒ぎされたら、起きるわよぉう――カチャカチャ」
「やめとけ、そいつぁ迅雷でも外せねぇ鍵だ。御前さまにゃ、荷が重――」
チカチカチカチカ、チカ――ぷぽぷぽぷ、ぼぉんーッ♪
収納魔法の中。
梅干しみたいに小さくて、しかも分け身のうすっぺらいカラダ。
収納魔法にしまわれた物は、やっぱり和菓子か梅干しみたいに小さくなる。
梅干しから見たら、ふた抱えはある大きさの〝おにぎり〟。
それを小さな手で器用に組み合わせ、次々と光った場所を押していく。
くるくるくるくる――チカチカチカ、チカチカ――ぷぽぽん、ぷぴぴっ♪
ふぉん♪
『>評価用女神像キットのプロテクトを解除しました
>未知の女神像端末#ーーーーを検出』
なんかでた。
「パパパァーン♪」
景気が良さそうな音も出た。
「まさかっ――最後まで出来たのか!?」
「イオノふァラーとモあロう者が――意外ナ才能ニ驚きヲ隠せまセん」
「あたくしさまわこう見えても、一応は神ですから。ふふん♪」
祠から出てきた御神体の方が、机の上でふんぞり返った。
ドヤァ――――なんて得意げな面か。
でも、おれたちには解けなかった〝鍵〟を、五百乃大角が解いたのは事実だ。
「さすがは、神だぜ……ちぃと悔しいが助かった」
「イオノふァラー、ありがとウございます。コレでSDKにちかイ機能ガ使用可能になりまス」
「じゃあ、さっさとAOS入れて、ライブラリ同期も済ませちゃいましょ。いざって時に裏天狗――シガミー以外に動けるカラダを用意しておかないとねぇー。」
ヴッ――ころん。
机にころがる、おにぎり二個がくっ付いた酢蛸もどき。
その菱形を持ち上げようとしたら――――ブヒィーッ♪
――カチャッ――バラリ。
また豚が出て、もどきは〝おにぎり〟に分かれちまった!
「どういうこったっ!? いまさっき御前さまが、鍵を解いて使えるようになったんじゃねーのか?」
「あれ? おっかしーわね?」
ぼわん――画面の中の平たい梅干しが消えて、御神体の操作に専念する。
短い手で必死におにぎりを――カチャッ――くっつけるも――バラリ。
ふぉん♪
『>評価用女神像キットの承認が時間内に行われなかったためプロテクトされました
>未知の女神像端末#ーーーーとのリンクが切断されました』
なんかでた。所々文字が赤く光ってるから――なんかが駄目なのがわかる。
「迅雷くーん? どーいうーこーとーぉなのーぉ?」
眷属を呼びつける、美の女神。
「詳細はわかりマせんが、〝廃棄さレた女神像〟ニはFATSにヨる認証ガ必要なヨうです」
「でもさっき収納魔法の中でくっつけたら、ちゃんと認識されたじゃんかぁ?」
なんか、大枚はたいて手に入れたおにぎりが、使えない?
「そウ言われテも、仕方がありマせん。裏天狗とシての使用ハ出来なクても、各種ノ物体生成ヤ形状変化なドの工作は効率的に行えマすので、無駄にハなりません――もウ一度
、組み立テて頂けまスか?」
ふぉふぉふぉふぉふぉぉぉん♪
『ヒント>――――/――
ヒント>――/――、――
ヒント>――/――――――
ヒント>――――/――、――――
ヒント>――/――、――
ヒント>――――/――――
ヒント>――/――、――』
「いそがしい所悪いけど、案内表示を一度切ってくれ」
見た目がせわしなくて、かなわん。
「了解しまシた」
ぽこん――すぽすぽん♪
「――まったくもう、中々うまくいかないわねぇー!――」
梅干しが画面の中に入り、もう一回、おにぎりをくっつけてる。
「とにかく、半分くらいは酢蛸も使えるんだろ?」
「はイ。プロダクとアーム……細腕ノつくり置きモ出来まスし、機能的構造ノ塗布
……ひっツき虫モ使えマす」
ふぉん♪
『>評価用女神像キットのプロテクトを解除しました
>未知の女神像端末#ーーーーを検出』
またでた。
「パパパァーン♪」
景気が良さそうな音も、また出た。
「――ふぅ、できたわよー♪――」
画面の中で菱形を抱える、梅干しさま。
壊れるたびにコレをさせるのも、かわいそうな気もする。
「外に出すとダメなんだな?」
「はイ、外ニ出さなけれバ使えマす。でスが、外に出さなケれば……裏天狗として遠隔操作がかないまセん」
「難儀だな――そいつぁ、空中に出すと氷が〝溶けちまう〟みたいな話か?」
それなら布でくるんで、ぴっちりした箱に詰めりゃ、いくらか長持ちするだろ。
「ぜんぜん違うけど、結果としてはソレであってるわぁ――がくりOrz。」
手のひら大の御神体の方が、両手とひざを突いてうなだれた。
「はイ。女神像ノ通信網につながなケれば使えませンが、外に出シて女神像ト直接無線接続しタ瞬間ニ認証エラーで、シャットだウンしてしまいマす」
「おれにやぁ、荷が重いな……あ、アレ――虎の巻にはなんか書いてねぇのか?」
「虎の巻……攻略本のことぉ?」
ぺらぺらり――短い足で器用に正座。
おれと迅雷には見えない本を、めくり始める。
紙をめくる音にも聞き飽きたころ――――ゴンドゴン♪
誰か来た。
「シガミィー、居るぅー? アタシだけどぉー!」
この声と、この力強さ。
オルコトリアだ。何だ朝っぱらから。
レイダとリオが来るまでは、もう少し時間がある。