167:龍脈の棟梁(シガミー)、ギルド地下をお作りいたしますわぜ
「五百乃大角っ――、このごつい柱わぁ――、ここらでぇいーのかぁ――!?」
「イオノファラー様、コチラの鉄柱に関しておうかがいしたいのですが、設置場所はこの辺りで宜しいでしょうか?」
さんはい――パン♪
ただの手拍きに、冷気を感じる。
「五百乃大角ーさまぁ、こんの鉄柱のぉことでぇーおーかげーしてぇのでげすが、設置場所わぁここらでぇーかまわねぇですかい、ぐへへっ?」
手本のマネをして、愛想良くしてみる。
がたたんっ!
振りかえれば、白い給仕服が図面を乗せた机ごと、ひっくり返っていた。
「細フンドシが見えてますで、ごぜぇますわぜ?」
――――んっばっ!?
あわてて、まくれ上がる裾を手で押さえる――現場行儀作法講師。
仮面越しでもわかる、まっかな顔。
ふぉん♪
『ヒント>細フンドシ/下着、インナー、アンダーウェア』
ガムラン町の物の言い方と、かけ離れてるときには、こうして案内がでる。
ふぉん♪
『ヒント>行儀作法/マナー。行儀作法講師/マナー講師』
そして頭で考えただけでも、より良い〝言い回し方〟が有るときには――ソレが表示されるようになった。
「(戦が無けりゃ僧兵なんざ、ただの穀潰しだ。そんなん出されても、急にわぁ身につかねぇぞ)」
「――いいえ、現在シガミーの言語力は、日の本で言うところの明治程度……〝猪蟹〟の没後約260年同等にまで上達しています――」
「――なのになんで、そんなおバカなことになってんのっ!? ポンコツゥーーっ、ゲラゲラゲラゲラ、ウッケケケケケケケケケケケケケェーッ♪――」
やかましーぞ、妖怪。
妖怪の御神体は子供がかぶった鉄兜の上で、大人しくしている。
「中途半端に、ニゲル語なんかかじっちまったから、もう訳がわからねぇんだぜわよ!」
そもそも田舎坊主に、伯爵令嬢なみの行儀……マナーを要求する方がどうかしてる。
「(迅雷、奔木屑……走る木っ端てのわぁ、どーいう意味でぇい?)」
おれぁ田舎坊主だが、馬鹿にされてるくれぇは、わかるぞ!
ふぉふぉん♪
『ヒント>ポンコツ/木偶の坊、唐変木、朴念仁、落ちこぼれ、無用の長物、能無し、クズ、カス、役立たず』
「やっかましぃやっ、だぁってろぃ!」
「リオレイニアさん、いまシガミーが――〝うるさいから、黙ってろ〟って言ってたよ?」
いけねぇ、ついまた声に出ちまってた。
白い悪魔に告げ口する、小悪魔。
「うふふ、シガミー。まだお仕置きが、足りませんでしたでしょうか?」
たおれた机を元にもどし、給仕服を手ではらう仮面美女。
ちなみにできたての床には、砂粒ひとつ落ちてない。
「いや今のは、リオに言ったんじゃなくてだな――」
ちなみに姫さんは、オルコトリアの回収に行くからって、逃げちまった。
きたない。お貴族さまはきたない。
ジロリ?
まだ顔が赤い。
「他には誰も、いらっしゃらないようですが?」
キッ!
口元が怒ってる。
ふぉん♪
『>ヒント表示を停止します』
「ばかやろう、余計なことすんな。それはそのまま――――」
あ、また声に出――――
「シィガァミィィィィィィッ――――j☆fj∮んkぇb――――、――――――、――!!!」
とんでもなく怒られた。
§
「まったく昨日は、まるで仕事にならなかったぜ」
どうする迅雷。なんかうまい方法はねぇか?
ここはシガミー邸。
低い小屋だが、まわりに建物が無いから、朝から陽が差しこむ。
チチチチッ、ピョピョピョ♪
そして朝から、鳥がうるせえ。
「(ソレに関して、ひとつ朗報が)」
なんだ?
「(昨日購入した、三角形の物体の解析が終了しました)」
うん、一晩中、五百乃大角となんかやってたな。
「(結論から言うと、あの三角形の物体はアーティファクトでした)」
うん、そういう話だったからな。
「どうだ、酢蛸がわりになんのか?」
ふぉん♪
『ヒント>酢蛸/SDK、エスディーケー、ソフトウェア開発キット。神々が使う術具』
えすでぃーけぇーな、エスディーケー。
SDK――おぼえた。
「(はい、ですが使用には、制限が付きます)」
……というと(わからん)?
ヴッ――ヴッ――ごとごとん♪
机のうえ。
置かれる件の、おにぎりがふたつ。
「(組み合わせてみてください)」
はぁ?
カチャリ。手に取る。
このササクレだった所が、ちょうどくっ付きそうな――ガチャリ♪
チピピピッ♪
くっ付いた!
手を放して机に置いた。
チカチカチカ――――ブヒィーッ♪
「豚だ、豚が居るぞっ!?」
小屋の中を見わたすが、豚なんて居ない。
――カチャッ――バラリ。
くっ付いて菱形になってた〝おにぎり〟が、ふたつに分かれてころがった。
「ありゃ? ばらけちまった!」
米粒でもくっつけときゃ――米がねえか。
「菱形に組み合わせたあと、〝光った場所〟を〝指で押していく〟必要があると推測できます」
「何でまた、そんな事をしなきゃなんねぇんだ?」
「ある種の呪術的……いえ、〝鍵〟の一種と思われます」
「なるほどなぁ。ちょっと面白そうだし、五百乃大角が起き出すまえにやっちまうか」
§
「(そういや、アレどうなった?)」
カチャカチャッ♪
「(アレとは?)」
チカチカ――ぷぽーん♪
光にあわせて、光った場所を押していく。
「(五百乃大角に聞いときたい話の――女神像じゃない方)」
「(〝オノハラレン〟に対する疑問点でしたね)」
ふぉん♪
『>疑問点2/オノハラレンの性質についての疑問点』
「(そうそれ。凝り性な兄神さまが〝神域作り〟なんて面白そうなモンを、五百乃大角に丸投げした理由だ)」
あらためて考えたら、やっぱりすこし気になるぞ。
チカチカチカ――ぷぽぷぽーん♪
光ったら押す。簡単簡単。
「(既に解決済みです)」
「(はぁ? 解決してねぇだろ。お・れ・に、説明がねぇじゃねぇか)」
チカチカチカチカ、チカ――ぷぽぷぽぷ、ブヒィーッ♪
くっそ、途中で拍子が変わりやがった。
――カチャッ――バラリ。
「(申しわけありません。あまりにも単純な話でしたので、報告の優先度が閾値以下になり――)」
「(言いわけは良いから、言ってみろ。どうせ、もう少しかかりそうだ)」
カチャカチャ。
「(では簡潔に。オノハラレンは、当初、相当な覚悟を持って神域を作りこむ予定だったようです)」
「どうして――それが――わかった?」
チカチカチカチカ、チカ――ぷぽぷぽぷ、ブヒィーッ♪
くっそ――カチャッ――バラリ。
「(神域の、うごく大地のことは覚えていますか?)」
ああ、おれたちを踏みつけようとした大足だろ。
「(はい、アレは惑星……天地を構成する単位……〝区切り〟のような物です)」
わかるわけがねぇから、先を聞く。
それで?
――――ブヒィーッ♪
ただ押すだけが、マジで難しいな。
「(それが480基放たれていたから、当初完成予定だった〝神域の規模〟を計ることが出来ました)」
わからん――あっ――ブヒィーッ♪
「(いま我々がいる天地である、〝惑星ヒース〟に使われている、うごく大地の数は8です)」
60倍もの、意気込みか。
「(それがなんで、手を引いちまったんだ?)」
ぐぬぬっ――――ブヒィーッ♪
「(どうも別の物づくりに着手し、ソチラに全力を注いだ結果――――凝り性の性
が満足してしまい、放置するに至ったらしいのです」
この大陸の60倍。
それにならぶほどの、満足?
「(別の物たぁ、なんだ?)」
「(「はい。ログファイル……『ヒント>ログファイル/日記、記録』……によれば該当する物がひとつありました)」
だからソレは――なんだ?
「――ルリーロ・イナリィ・コントゥルです)」
「な、なんだと――!?」
――――ブヒィーッ♪
あぁーっ! もうちょいだったのにっ!!