166:龍脈の棟梁(シガミー)、オルコトリアと逆立ち
「鬼娘の魔法は、かなり強力だけど……大丈夫か?」
オルコトリアの角からほとばしる青白い稲光が、強くなってる。
「――だから〝全能バリア〟の〝全能〟わぁ、ダテじゃのわぁいのよ――ん? ひょっとして、町への被害を心配してんの?――」
「――バリアーに接触した魔法の効果が、キャンセルされています。その減衰率は89パーセント――」
ふぉふぉん♪
『ヒント>キャンセル/解除、取り消し
ヒント>減衰率/目減り、そぎ落とされる割合』
「そっか。ならオルコトリアが魔法を外さなけりゃ、危なくねえわけだな……なら少しは放っとくか。へたに近寄って魔法をあさっての方向に飛ばされたら、町が壊滅しかねん」
それで、あの雨樋はどのくらいの高さまで、届いてんだ?
いまだって、相当な高さで……もう首が痛ぇ。
ふぉん♪
『イオノ>ギルドの建物と、その先端に取り付ける〝変異種角ウサギの角〟の長さまでよ』
じゃあ、とんでもねぇ高さの建物になるぞ?
そのほとんどを、シガミーと天狗一門……つまりおれひとりで、建てることになる。
「よいせっ♪」
ごろりん――床に寝っころがった。
すっかり人が居なくなったから、踏まれることもないだろ。
五百乃大角が敷いた、なんとか言う床は硬い割に寝心地が悪くないし――――むぎゅりっ♪
「痛ぇよ、姫さん」
かるく足を踏まれた。
「あら、ごめんなさい。そんな地面とおなじ色の外套を纏っているから、悪いのですわぁ♪」
ごろりん――高貴なご令嬢が床に寝そべるなんて、いつものことだ。
「アレ、どうにかしてくれ」
魔法の出所を、アゴで指ししめす。
「アレは完全にキレてますので、近寄りたくないですわ♪」
「おまえら、同僚で友達で冒険者パーティーの仲間じゃねーのか?」
「だからですわ。もうそろそろ打ち止めになるのでそうしたら、私が回収してあげないとね♪」
ばちーん♪
おうどうした、急に片目を閉じたりして?
いつだかの五百乃大角みてぇに、目に虫でも入ったか?
おれが、払ってやろうか?
顔に手を伸ばしかけると――弾みをつけて足を振り上げた。
「――ふんっ♪」
そのまま、からだをうしろに持ち上げて逆立ち。
「なんだそれ、おもしれぇな」
色々めくれて、細いフンドシが見えてるけど。
「――ぬぉりゃ♪」
見よう見まねで真似したら、出来た。このシガミーのカラダに出来ない動きはない。
しゃらあしゃらしたのは、まだまだだけどまるで出来ないわけじゃねぇしな。
「あ、アレ、オルコトリアが攻撃してる丸い岩は、お、落ちてきたりはしないんですわよね?」
「それは、だ、大丈夫だ。おれたちが飛ばされた〝神域〟の様子を見られるようにしたってだけの――え、絵だ」
「え、絵なんですのね。りょ、りょうかいですわぁ――ぐぬぬ!」
え、まだ続けんの?
おれも、しゃらあしゃらした服が落っこちて、細いフンドシが見えちまってる。
「い、イオノファラーさまは、さっきレーニアが肩に乗せてましたけど――コチラにもい、いらっしゃる?」
「――はぁい、いますよぉー♪ お姫ちゃぁん♪――」
いま、耳栓渡してねぇから、怒鳴っても聞こえんぞ?
「――い、いるぞ?」
頭に血が上ってきた。
「じ、じゃあ、聞いてくださる? お母さま……コントゥル家名代は、い、今どこにいるのかっ」
横目で見たら、姫さんの顔がまっかだ。
ぽこん♪
『▼――――ルリーロ・イナリィ・コントゥル』
ガムラン町の地図、中央に▼が出た。
『◆――――超女神像』
女神像に重なってる。
「そ、それならわかるぞ。女神像の……真上か真下に、い、居るぞっ」
上は大爆発中だから、たぶん下に居るんじゃねぇか?
さっき跳んできた広間に、下に降りる階段は無かった――おい、どこから降りるんだ?
おれも、そろそろ仕事に戻る――――んぎぎぎぎっ!!!
「――転移陣以外は手つかずだから、階段を作りながら降りてもらえる? 入り口は、所々に空いた穴の、どれでもいいわよん♪――」
建設予定地の大穴は、超女神像の土台で綺麗にふさがれてた。
何カ所か入れないように柵が置かれてたから、そこに下に抜けられる穴が空いてるんだろう、たぶん――
「んぎぎぎぎっ――――シ、シガミーは、そ、そろそろ逆立ちが、お~辛くなってきたのではなくってえぇ!?」
は?
なんだ、なんか張り合われてる?
「な、なんでぇい。こんなのぁ、まだまだ~平気だっぜぇっ!!」
腕を曲げ、頭を地面に付きそうなくらいにまで、下げて見せた。
「ふんふんっ、ふんふんっ――――ど、どうでぇい!」
ソレを4回やってみせた。
「な、何てこしゃくな、お子さまなのかしらっ!?」
「お、おうよ。お子さまなめんなよ! そ、そっちこそ、丸見えだけど構わねぇのか!?」
「あ、辺りに人は居ませんし、シ、シガミーだって、お、お可愛いいのが、ぜ、ぜんぶ見えてますわよ!?」
「だ、だから、お子さまなめんなよ! こ、こちとら姫さんの豪華絢爛な乳や尻とちがって、真っ平らだからなっ! い、いくら見られても困りようがねぇ――がははっ!」
ひゅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――急に風が吹いてきた。
な、なんか底冷えが。
「な、な、なんだか寒くなってきましたわ――――ぐぐぬぬつ!」
「お、おい、迅雷――どうなってる!?」
ぽこん♪
『▼――――』
ガムラン町の地図、猪蟹屋がある通りから▼が近づいてきてる。
横に伸びた〝名前表示〟は見なくてもわかる。
ピキパキピキパキョ――――ガキィィン♪
この冷てぇ魔法の、冴えわたり。
「二人とも……私の躾では、足りなかったようですわね? クスクスクスクスクスクスクスクス――――」
「シガミー、リカルルさまぁー逃げてぇー!」
なんか声が聞こえてきたけど分厚い氷越しだから、よく聞き取れなかった。
どごがぁぁん!
――――「オルコトリアの旦那がぁ、落ちたぁぞぉー!?」
だから、聞き取れないんだってぇの。