164:龍脈の棟梁(シガミー)、帰還そして隠し球
「いけね、寝ちまってた?」
おい起きろ、飯神さま。
木箱の上の鏡餅を、拾いあげる。
「――どぉわれがぁっ、美の女神(笑)かっ! ……むにゃ?」
言ってねぇし。御前さまは元から、美の女神(笑)だろうが。
「――おはようございます。シガミー、イオノファラー――」
がやがやがやがや――かすかに聞こえてくる、とおくからの喧噪。
どこだココわぁ?
「――ガムラン町です。シガミー、寝ぼけている場合では……無いかもしれません――」
「あ、そーだ。驚いてやるって、約束したんだっけか……ぽりぽり」
するんっ――うしろ頭を掻いたついでに、迅雷を引っこ抜いた。
ウゥゥ――ン♪
どこかへ漂っていく便利棒。
周りに人は居ない。
いま居る場所は――耳栓を片側だけつける。
目尻が光り、画面があらわれた。
ふぉん♪
『ガムラン町超女神像――――<女神像端末#778>』
地図によれば……ここは女神像の真上だ。
そんなに高くはない天井。
かなりの広さの部屋。
天井の陽光を放つ石で、隅々まで照らされている。
床は石……岩?
「〝ジンライ鋼製ハニカムメッシュ〟と〝超硬質プラスチック〟を使ったから、シガミーが〝滅〟したくらいじゃビクともしないわよっ! えへん♪」
手のうえでふんぞり返る、美の女神(笑)さま。
「そりゃ、マジですげぇなぁ。よくやった、五百乃大角!」
なんだ、おおげさに驚いてやるつもりだったのに、そんな必要は無かったじゃねーか。
えらいえらいと、頭をなでて褒めてやる。
一面の床は、央都の大女神像の間の、〝継ぎ目がない石〟と似てた。
木箱を――仕舞う♪
よっこらせと立ちあがり、ゴツゴツと踏みしめる。
まるで枯れ木のような、感触。
それなのに、おれの真言に耐える硬さだって?
五百乃大角は迅雷を通して、真言の威力を知ってる。
ウゥゥ――ン♪
「――四カ所アる階段ノどれもが、地表へ通じているようでス――」
便利棒が戻ってきた。
「さっ、はやく! どの階段でも良いから、上いきましょぉう♪」
じゃあ、ここは、地面の下……
「ここはギルド再建予定地の、大穴の底か?」
「いーえ、ここはシガミーが空けた穴の、ずっと上の方よ。超女神像を設置するのに、大まかな土台と柱を、まず作りました! えへん♪」
えらいえらい。
おれがやるハズだった所を、御神体が進めてくれたようだ。
もともと、基本的な設計は〝神々の知恵〟を元に考えられている。
神、自らの大工仕事だ、間違いはあるまい。
「よし、来い迅雷」
便利棒をひっつかんで、巻いてあるうしろ髪に突き刺した。
金剛力……パワーアシストをつかう。
ふぉん♪
『▲▲▲』
金剛力を〝纏う〟ため、飛び跳ねろ――という迅雷からの指示に従う。
高くない天井に、頭がぶつかるかと思ったけど、ぜんぜん平気だった。
ブブブブッキャチャカチャキャチャ--ぱしゃん!
細腕が、おれに巻きつく。
ボロの外套を羽織れば、細腕はみえない。
「ほれ、御前さまは肩にでも乗ってろ」
小鳥みたいな大きさの御神体を、肩に乗せてやった。
「よし、こっちだ!」
ストォーン!
目のまえにみえていた階段へ、一歩でたどり着く。
スタタトトォォォォォォ――――ン!
ソコソコ長い階段の、踊り場だけを踏んで登っていく。
「出口だ――――」
「ふっふぅぅぅぅぅん、おっどろくわぁよぉぉぉう?」
は? まだなんか驚くものがあんのか?
床とか壁が、隠し球じゃ無かったらしい。
シュヒュゥン――――すたり!
地上に出たおれたちを、待ちうけていたのは――――超女神像だ。
「こりゃ、たしかに驚くな……央都の奴の何倍ある?」
「ふっふぅぅん、それほどでも有るのだけど……ざっと――どれくらいだろ? 目分量でマナ宝石が収まるサイズにしちゃったからなぁ――――」
ふぉん♪
『>全長13・7メートル、約1・5倍です』
下から見ると、三倍くらい有りそうに見えたけど、そこまでじゃなかった。
「そりゃ、でけぇなあ。うんうん、てぇしたもんじゃねぇーか」
正直、どんなとんでもねえのが出てくんのかと、ヒヤヒヤしてたけど。
コレから建てるギルドの大きさを考えたら、ちょうど良いくらいだった。
「ひと安心したら、どっと疲れが……ふぅーぃ」
木箱をまた出して、腰掛ける。
「どう? 驚いた!? ねぇぇっ? おどぉろぉいぃとわぁぁっ?」
はしゃぐな、はしゃぐな。
「おどろいた、おどろいたぜ……わよぅ」
「あっれぇー? なんか、反応が薄くなぁーい?」
てっきりガムラン町が、ひっくり返るくらいの大騒動になってるんじゃねえかと、肝を冷やしてたからな。
「十分、驚いたよ」
「あっれぇー? おっかしーなぁー。腰を抜かして、ぐうの音も出ないと思ってたのに――――」
そのとき――――「居たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――――――――――――――!?」
とおくから轟く声。
ずどどどどどどどどどどどどどっどどどどどどおっどどおっ――――ずざざざざぁぁぁぁっ――――!!
目のまえに駆け込んできたのはっ――一陣の白い風。
いつもの小さいのじゃなくて、空を飛んで行くときの、本気の魔法杖。
それに子供を乗せ、自分は走ってきた女性。
風に追いつかれた――給仕服が――――ぶわっさぁぁ!
盛大にはためいた裾を、押さえながら――――
魔法杖から、飛びおりながら――――
「「シガミィィィィィ――――――――!!!」」
数日ぶりのその声に、懐かしさすら感じる。
そう、土埃を巻きあげ、颯爽とあらわれたのは――
猪蟹屋従業員もとい、冒険者パーティー〝シガミー御一行様〟の仲間たちだった。
無事の帰還を歓迎してくれる、仲間が居るってのは良いもんだ。
両手をあげて、立ちあがる。
照れくさいけど、たまには素直に抱きつかれてやっても良い。
そう思えるほどの、四日間だった。
がしっ!
がしっ!
ずどどどどどどどどどどっどどぉ――――あれ?
なんでおれは二人に、引きずられてるんだ?
「シガミー――!」
「アレは一体、なんですかぁ――!?」
回れ右をさせられ、あたまをガシリとつかまれ、おもいきり上を向かされる。
女神像の首――を見てたら、もっと上を向かされた。
何もない空。
いや、さがせば昼日中でも気のはやい、星とか月が見える。
けどアレは、そんな〝探さないと見つからないような物〟ではなかった。
雲にまじって、浮かんでるヤツが居る。
「なっなんだぁぁっぁぁぁありゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁっ――――――――――――――――――――――――――!!!!????」
「「それを聞いてるのは、こっちっ」ですよっ!?」
数日ぶりのパーティーメンバーの顔に、驚愕とか恐怖とかの表情が張りついている。
「でけぇ岩……いや、ひょっとして……星なのか?」
そう、女神像の真上。
そうとうな高さに、そうとうな大きさの〝丸岩〟が浮かんでいたのだ!
「なにおどろいてんのよ。あんなのタダの〝自室用拠点ホログラム〟じゃん」
五百乃大角がなんか言ってるけど――ありゃ、落ちて来ねぇのかぁぁぁぁっ!?
「みなサま、ご安心くださイ。アレは神域惑星ノ状態をリアルタイムに視覚化したもノです。実体はなク、エネルギー消費しませンので、24時間空間投影可能でス」
実体がねぇだぁ?
アソコに浮かんでるじゃねぇーかよっ!?
「ほのぉのたまぁ――――――――――!」
ほらみろっ、誰かが撃ち落とそうとして、魔法をぶっ放しやがった!