163:龍脈の棟梁(シガミー)、女神像の謎と隠し球
「さっきいってた、驚くってのは、何だ?」
「言っちゃったら、おどかせないでしょ? バカなのシガミー?」
バカは御前さまだろう。
木箱のうえ。口を手で隠す御神体。
「ふーっ! 話す気がないなら、それはそれで静かでいいや」
とにかく戻ったら――一気にギルドを、完成させちまわねぇとなんねぇし。
「――んむぐぅ」
御神体が、なにか言いそうになって、やっぱり口を手で隠した。
「――シガミー、ソレとハ別にイオノファラーニ確認しなけれバならない事項ガ、二件残っていマす――」
なんだっけ? バタバタしてて、すっかり忘れたぞ。
ふぉん♪
『>疑問点1/女神像の転移などの機能説明』
それか! 〝転移〟の行き先とか、いまいちわからんとこがあるから聞いときたかったんだっけ。
うまく使えりゃソレだけで、立派な商売になる。
このビードロの文字は、辺りの時間を遅くすることは出来なくても、一目で言ってることがわかる。
短い文ならつかい所によっては、武器になる。
ふぉん♪
『>疑問点2/オノハラレンの性質についての疑問点』
そうだった。それも聞いときたかったんだ。
〝温厚篤実かつ一意専心な人物〟って言ってた割に、国作りをほったらかして五百乃大角に丸投げってのが、どうも腑に落ちん。
わざわざ始めたものを、誠実で凝り性な奴が、ほっぽり出す道理がねぇ。
「――というわけデすが、イオノファラー?――」
迅雷がわかるなら、オマエが教えてくれ。
迅雷と御神体の作りは似てて、長く一緒に居るだけでいろんな事がわかり合えるらしいからな。
――ぽこん♪
「――ふふんっ! とうとう、あたくしさまの出番というわけですか、そうですかそーうでーすーかー♪――」
ビードロの中に、しゃしゃり出て来やがったぞ。
黙ってるのに飽きて、しゃべりたいのかもしれん。
「ルリーロが手ぐすね引いて待ち構えてるってんなら、また〝猪蟹屋ん〟で返り討ちにするだけだぞ?」
「――ちがうも……んぅんむぐっ!」
ちっ、いまスルっと白状しそうだったなー。
「――惜しかったでスね――」
§
「まるで天使だな」
「そうよねー、これでおじさんみたいなしゃべり方さえ、直せたら」
「うーん」「うむぅ」
「央都のアカデミーにでも、入れたら立派な淑女に――」
「だめっ! レイダとシガミーは、ガムラン町の良心なんだから」
「そうだな。子供二人が居なくなったら……」
「たぶん、ガムラン町は三日と持たずに……やさぐれる」
「けどさ、あのリオレイニアがそばに居るんでしょ?」
ずざざっ!
「……な、なんですのその、〝調教済みの猛獣を見るような目〟わぁっ!?」
木箱の周りに、人が集まってる気配。
他にすることもねぇし、暇なんだろな。
このまま寝たふりをしとく。
ZZZ
「(ガムラン町じゃなくて、〝央都の大女神像まえ〟に出たのは、なんでだ?」
「――そりゃガムラン町に、〝女神像が無かったから〟に決まってるじゃない――」
うん。たしかにガムラン町の女神像は、一式、倉庫にしまったままだったけど。
目を閉じても、耳栓から五百乃大角……梅干しみたいに小さな分け身の声が、ちゃんと聞こえる。
「――我々が神域デ立ち往生してイた際、イオノファラーとルリーロハ、急ピッチデ女神像ヲ再建していたのではないノですか?――」
「――女神像の土台に巨大なマナ宝石をつないでも、スグ使えるわけじゃなーいのよ――」
神域の女神像は、お下がりの神力結晶をはめたら、すぐ動いたじゃねーか。
「――この世界が終わるまでは大事に使いたいからぁ、初期フォーマットを念入りにしーたのよん――」
「――たシかに、量子フォーマットとD言語規格のセッティングにハ時間がかかりますネ――」
わからん。サッパリわからん。
けど五百乃大角、この世界が終わるまで食い道楽するつもりなのか?
「(じゃあ、ガムラン町の女神像は、ちゃんと建て直したんだな?)」
仮置きでもなんでも、動いてるなら――町の……冒険者の生活に支障はない。
「――はぁい、つつがなく――最っ強の女神像を建立したわっ! ふっふぅーん♪――」
まてまて、〝最強の〟って何だぜわぜ?
「――それは、見てからのぉー、おっ楽しみで――――――――ああああっ!? 隠し球だったのに、言っちゃったじゃんか!――」
ゴッチン――――木箱からすごい音。
おろそかになった御神体が、頭をぶつけた。
カコォーン♪
ポコォーン♪
カキカカカッ――ン♪
やかましい。いつまでもビードロの中を転げて、跳ね回るんじゃない。
「(わかった! 御前さまが建てた女神像をみたら、ちゃんと驚いてやるから)」
「――ほんとーぉ? ほんとーに、おどろいてくれるーっ?――」
ああ、おれに二言はねぇ。
ふぉん♪
『――ファストとラベル中――
――転送完了まデ 03:00――』
けっこう時間をくっちまったな。
文字は迅雷が、声に出してくれている。
「(さっさと確認を済ませるぞ。央都の大女神像からは、どの女神像にでも、飛べるんだな?」
「――はイ、飛べマす。どコでも一律10パケタでス――」
「――神域に建てたイオノファラー像、以外ならだけどねー♪――」
「(じゃあ……五百乃大角像には、どこから飛べるんだ?)」
「――ガムラン町の超女神像からしか、行けないわぁ♪――」
「(なんだよ、超ってのわ!)」
次から次へと不吉な言葉を並べやがって、惡神め。
「――〝DEMOワールドで、一度だけ使えるキャラコンバーターを悪用……もといハッキングしたから、神域のイオノファラー像からは、央都とガムラン町のおっきな女神像に飛べるわ! すっごい便利でしょうゥフフフ♪――」
わからん。寝るまえにでも説明してくれ。
「――了解しましタ――」
五百乃大角なりに色々(大方、うまい飯を食うためだろうが)、頑張ったのだろう。
連絡が途絶えていた時に、そういうややこしいことをしていたんだな。
「(女神像については、最後の質問だ。ガムラン超女神像は――どこに飛べる?」
「――なんたって、〝大〟よりスゴイ〝超〟女神像だからぁ――すべての女神像に飛べるわよ♪」
そりゃすげぇ!
「――ただ、シガミーたちが訪れたことのない女神像には、アクセス権がないから飛べないんだけどね――」
そりゃ、〝一度でも訪れた場所なら、どこにでも飛べる〟ことに変わりはない。
「(十分だ。それなら、でかい商売にもうまい珍味にも、いくらでもありつけるぞ!)」
「(――それ、ほんと!? ひょっとして、あたくしさまが頑張った甲斐あった?――)」
「(大有りだ。これで城塞都市にも、顔が出しやすくなるし――)」
「――面白くなってキましたね、シガミー――」
§
「ぐぅへへへへへっ、何を買って、何を売ってろうかぁぁ……すやぁ♪」
神域脱出からの、モサモサ戦と宴会だ。
疲れも、たまってたんだと思う。
「ねぇちょと……ひそひそ……天使どこ行った?」
「なんでこんな悪そうな顔して……ひそひそ……寝てやがんだシガミーは?」
「寝言いってる? ……ひそ」
「グフェグフェフェってまるで、スライムーが跳ねる音みたいよ……ひそひそ」
いつの間にか、寝ちまってたらしい。
「女神様も、なんか……オカワリーって寝言言ってるんだけど――くすくすくす、かわいい♪」
「まもナく~、ガムラン町~でス。オ降りのノさいは段差にゴ注意くだ~サい♪」