157:龍脈の棟梁(シガミー)、ギ術開発部へようこそ
「ザザザザッ――――まぁさぁかぁー、あたしのぉー魔法杖の中がぁー、そぉんなぁー、霧の世界になってるだなぁんてぇー、しらなかったんだものぉー。ごぉめぇんーねぇー♪」
相変わらず要領を得ないけど、ルリーロ的には〝強敵シガミー〟を最大最強の封印魔術で一時的に拘束したつもりだったらしい。
ふぉん♪
『>解析はすでに終了しています。術式としては基本的なものでした。
>真言を唱え、標的の身体感覚をハックする、
>リカルルを撃破した際の我々と、同様の手口を試みたと思われます』
命を削る狐火。
星の布陣が日の本のソレだったのも、何かに関係してるんだろうが。
よし――五百乃大角、呼び出しとけ。
ふぉんふぉふぉん♪
『>FATSシステム内線#10286を呼び出しています
>呼び出しています』
「楽しそうに言うな。あと、リカルルにもちゃんと謝ったんだろーな?」
たまたま、ウチの五百乃大角に〝女神像の持ち合わせ〟がなかったら、まだ戻って来られなかったはずだ。
「ザザザザッ――――あー、そぉうねぇー、ごっめーんねぇー,リカルルちゃぁぁぁぁん♪ クスクス、ケッタケタケタッ♪」
「ひぃぃっ、と、とんでもございませんわ。だ、大丈夫ですので、お気になっさらずっ!」
必死に剣に手を回そうともがく、ご令嬢。
戦闘狂もほどほどにさせねえと、火の粉が毎回コッチに降りかかるし――
領民のおれ……ぼくが、コントゥル家のことに口をはさむ訳にはいかないけど――あとで、リオにでも探りを入れてみてもいいかもな。
「じゃ、ひとまずコレで手打ちってことでいいか?」
どうなんだ迅雷?
ふぉん♪
『>ルリーロの所持する杖が、イオノファラーの兄が作成した、未設定ワールドへと通じていたことへの説明が欲しいですね――イオノファラーから』
ふぉんふぉふぉん♪
『>呼び出しています
>呼び出しています
>通話が出来ませんでした』
「(ちっ、出やがらねぇ。兄神さんは……兄ハラーだっけ?)」
ふぉん♪
『>〝オノハラレン〟です」
「キツイにゃ。ま、まだまだ未解決、未解消の問題が山積みですにゃ……」
「そぉうでぇすわぁー。そろそろ、ほどいて頂けませんこと? もうシガミーを見ても魔物と見間違えませんわよぉっ――」
やかましいな。
ヴッ――ぱしん♪
シュカッン、シュッカァァン!
ばらばらら、ガチャガキィィン!
「いけねっ、錫杖まで切っちまった」
この服は、使いどころを考えねぇと、まずい。
ふぉん♪
『>そうですね。女神像へのアップデートが終了次第、収納してしまいましょう』
§
「ほんとうに、このままで良いのか?」
給仕服に革鎧。
いつもの格好に戻った。
「これでいいにゃ。だって――――」
足を伸ばした白馬椅子で、大女神像の膝に登る――橙布つきの猫頭。
いま、大女神像の姿勢は、五百乃大角が動かした形で止まってる。
膝を抱えるその姿は、思慮深いようにも――暇を持て余しているようにも見えた。
「――すべって――ヒャフォーイ♪ 遊べるにゃぁー♪」
するするするるりぃ――――っ!
子供か。
すっげー、楽しそうだなおい。
レイダなら一日中、やってるぞこりゃ。
大女神像と床石のひび割れは、迅雷とおれが直した。
10回くらいすべって、気が済んだのか、〝白椅子〟を目のまえに呼びよせる〝猫頭〟。
何かに似てると思ってたけど、この白い箱兼、馬椅子はルコルの魔法杖にソックリだった。
空いた女神像に姫さんが手を掛けたとき、しゃらあしゃらした連中がゾロゾロと、〝大女神像の間〟に入ってきた。
「じゃあ別室で、話のつづきをしようかにゃぁ?」
残念そうなご令嬢をひっぺがし、大扉じゃない――何もない壁のまえに立つ。
もう良いのか? 女神像の中身をあたらしくするのは、ちゃんと終わったんだな?
ふぉふぉん♪
『>はい
>女神像端末#1へのアップデートはありません
適応済み 513438/513438』
ヴォゥォワァン♪
重い水音がして、壁に穴が空いた。
「コッチにゃ♪」
白い箱にもどった乗り物に、促されるまま乗った。
「うぉわっ!? けっこう早ぇな♪」
広くはない通路を、音もなく進む。
そしてリカルルは、おれのあたまをうしろから執拗になでるな。
「――こノ数日デ、急速ニ打ち解けましタね――」
よせやい。
さっき耳栓は返してもらったから、この迅雷の声はおれ……ぼくにしか聞こえない。
§
ゴガッチャリン♪
なんだこの、鈍い音。
そしてこの、大きさ。
それは革袋で。
おれのカラダくらい、有るんじゃねーか?
台に乗せてソレを持ってきてくれたのは、全身橙色の制服。
これはあれだな。
姫さんところにも居た、〝宛鋳符悪党〟をよーく調べたりする連中の――スゴイ奴だ。
なんせ上から下まで、橙色だからな。
「この度の〝身代わり札〟耐久試験に対する、規定の報酬と全撃破ボーナスです。ご確認くださいませ」
猫頭でも猫耳族でもない、〝人〟の女性がそんなことを言って、部屋から出ていった。
そして立派な長机のむこうには、白馬椅子に座った……〝猫耳族の猫頭〟。
小さな立て札が、机の上に置いてあった。
『ギ術開発部顧問/Myanilsted Grigori.』
書き方が混ざってると、まだ一息には読めん。
「えっと、ギ……ミャー……?」
「――ミャニラスてッド・グリごリーでス――」
そうだ、ミャなんたら栗石伏魚だ。
「〝ミャッド〟と呼んでくれると、嬉しいニャ」
だいぶ短くなった。
「じゃぁ、ミャッド。神官を倒して、なんで金がもらえるんだ?」
「敵ではにゃく、味方に敗れるにゃら――命も取られず、有効な対策まで安全に練ることが出来るからだにゃーっ♪」
それにしたって、こりゃ。
猪蟹屋の売り上げの、何日分だ?