153:龍脈の棟梁(シガミー)、大女神像うごく
「温然入浴夕凪門戸お麩!」
すぽん――右小太刀をしまう。
ふぉん♪
『>納刀自動化モード、オフになりました』
ぷぷぷっ♪
『【納刀自動化モード/OFF】
━━━━╋:左 右:×××××』
居合刀を鞘に勝手に収める、〝門戸〟とやらも切った。
全部を迅雷まかせにできるけど武器防具に関しては、できるだけ一人でも使えるようにしてる。
それは迅雷になんかあったときに、おれが立ち往生しないためだ。
迅雷がいなけりゃおれはすぐ死んじまいそうだし、おれがいなけりゃ迅雷もその能力のほとんどがつかえねえ。
そして、おれたちが五百乃大角にうまい飯を食わせてやらねぇと――たぶん、世界が滅ぶ。
脇腹のあたりが――ヴ。
服から、毛皮みたいな細腕が生えて――にゅにゅーっ!
「(小太刀を腰に固定しました)」
よし、ほどよく動く。コレで良い。
猪蟹屋んの歩幅にも、モサモサ包囲陣のうごきにも――やっと慣れた。
まばたきの間がありゃ、間を詰められる。
ぽきゅむん――――引き波を追いかけ、張りつく。
「ぅおらぁぁぁぁー♪」
しゅっかぁぁぁぁぁぁぁぁん――――横に一閃!
鉈剣は、いま振りあげられたところだ。
遅ぇ、超遅ぇ。
手加減がいらないなら――――〝踏みこむ速さで〟切りつけられる。
――――バチィバチィバチイィィィ――――ボォボォォン!
やっぱり、切ったところと全然別のところが、はじけ飛んだ。
ブォォォォォンッ――――遅れて振りおろされる鉈剣。
返す刀で――――キィィィィンッ!
くるくるくるっ――――切れた鉈剣の先が、回転する。
返す返す刀――――チッ!
もう一回、切ろうとしたけど――逃げられた。
ぐいぃぃぃぃっ――――また切った奴のとなりの奴が、背中をつかんで引っぱってる。
すぽん♪
小太刀をしまう。
ヴッ――――じゃりぃぃん♪
錫杖の頭をつかんで――――七天抜刀根術二の構え。
二の型は〝なんにでも穴を穿つ〟技だ。
モサモサ包囲陣を破るのに、ちょうど良い。
ソレでも、加減はしておく。
本気で放つと錫杖が起こす風だけで……ゴーブリンみたいに消しとびかねねぇからな。
「(ナイス自重です、シガミー)」
だっろぉー、うるせえ。
「うぉぉりゃっぁぁあぁぁぁっ!」
ぽきゅむむん♪
ぼごぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉん――――踏みこんだ勢いを殺さず、つかんだ鉄輪を押しだした!
ひゅごぉぉぉおぉぉおぉぉ――――突きすすむ錫杖に、猫耳頭のカラダをあずける。
ガッツンッ!
突き刺され、震えるモサモサ。
今度は、さがる速さより、コッチのが速ぇぞ。
フォァァァァァッ――――もがくモサモサの首元。
護符の光が、まぶしい。
バチィバチィヴァリヴァリッヴァチイィィィ――――ボォボゥボォボゥボォボゥボォボゥワァァッ!
次々と呪符が、燃え落ちていく。
――――フゥッ!
護符の光が消えた。
みれば、全身まっくろ焦げで――これがモサモサの限界らしかった。
「(シガミー、これ以上は危険です)」
――――ガキッ!
つかんでいた鉄輪を、引っぱった。
やっぱり、投げつけないで正解だったぜ。
ぽきゅきゅきゅぅ――――ぅん♪
振りかえる。穴が開いた包囲陣。
これまで、包囲陣をかわしても、すぐにまとわりつかれてた。
ここまで距離を取れたのは、初めてだ。
モサモサ神官がつかう、護符と呪符の限界も――わかったな?
「(はい、撃破に必要なエネルギーは一人あたま約10億カロリー必要です)」
わからん。
「(――錫杖による一点集中攻撃が、最適と思われます)」
わかった。
ソコからは、逃げまどうモサモサを端から順に。
錫杖を突っこんで、護符が消えるまで、ドコまでも押した。
バチィバチィヴァリヴァリッヴァチイィィィ――――ボォボゥボォボゥボォボゥボォボゥワァァッ!
バチィバチィヴァリヴァリッヴァチイィィィ――――ボォボゥボォボゥボォボゥボォボゥワァァッ!
――キッチリ人数分。
手間はかかったが、猪蟹屋んまかせの力業でしかない。
悩むことなく淡々と、全員をまっくろ焦げにしてやった。
最後の一人を焦がしたところで――
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ま、ま、まいったぁぁぁぁぁ――――!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
モサモスササァァ――ぷすぷすん。
頭をかかえて降参する、モサモサ神官。
それはまるで、野焼きで焦げた〝ひっつき虫〟か――
「(――黒ごまだらけの、米おこしにもみえます)」
「ぶはっ、そりゃ言い得て妙だぜ!」
周りにはいつくばる〝黒ごまだらけの、米おこし〟どもが、身震いした。
「ぷはははははっ、うわははははっ♪ やめろ、腹痛ぇ――――!?」
ここにレイダ(笑い上戸)が居なくて、よかった。
ふぉぉぉっぉん♪
『FATS>セーフモードで起動しました』
おれは、笑いころげるのに忙しくて、大女神像からひび割れた欠片が落ちてきたことに気づかなかった。
「――シガミー。やっと、セーフモードの入り方を思いだしたわぉよう? あれ、どこいった? 神官程度にやられるアンタじゃな――――シガミーッ!?――」
包囲陣の真ん中。腹を押さえ、のたうち回る猫耳頭。
端から見たら、そりゃ――助けに入りたくも、なるだろうよ。
「ア~ン~タ~た~ち~! ウ~チ~の~シ~ガ~ミィィーに~、何~し~て~く~れ~てぇ~ん~の~ぉぉぉぉぉぉぉぉ~っぉぉぉぉ~っ!!!」
大女神像の巨体が、うごき出した。
逃げまどう、まっくろ焦げたち。
繰りだされた女神の鉄槌が――――石床に突き刺さった!!!!!!!!!
米おこし/炊いて干して揚げた米などを飴で固めた菓子。
ひっつき虫/栴檀草の実など、トゲが生えた実。