151:龍脈の棟梁(シガミー)、ぼくのかんがえた必殺技
「(錫杖で殴っても効かねえなら)――居合で、たたっ切る!」
けど、本当に切れたら死んじまうから――蘇生薬は、おれの分一個のこして、全部使って良いからな!
「(了解しました)」
ぽきゅぽきゅぽきゅむ――――♪
大きな歩幅。
左右にカラダを揺さぶり、包囲の輪を揺さぶる。
一歩で大体……7メートルってトコか?
「(はい、稲妻形の歩幅平均は7・4メートルです。最長時の約160分の1になります)」
こまけえ。わからん。
ぽきゅむ♪
また、モサモサの一人に張りついた。
「おぉのぉれぇぇむわぁものぉめぇぇ――――!」
すげーゆっくりとした剣筋で、鉈刀が振りおろされる。
「(シガミー、私が鞘を保持しますか?)」
これから試すのは、〝二刀流の居合〟。
前世じゃ見世物でも、お目にかかったことはない。
この〝強い服〟を頭までちゃんと着込み、迅雷の内緒話で――カラダもココロも電光石火の今なら……出来るんじゃねえかなと。
ただ、おれの小太刀に太刀緒はねぇから――すこし〝工夫〟する。
「(いや、いらねえ。けど小太刀を打ったあと、すぐ鞘が欲しい。出来るか?)」
「(可能です。刀を引く動作で、小太刀の修復と納刀をおこなうモードを作成しました)」
よし、どーやりゃ使える?
「口頭で技名を唱えてください――どんな技名にしましょうか?」
「(技名だぁ――このいそがしい……いそがしくもねぇか)」
モサモサはまだまだ散けてて、目のまえのコイツひとりだ。
「(じゃあ、〝電光石火〟……じゃねぇな。波が引くわけだから……〝夕凪〟ってとこか?)」
ふぉん♪
『>音声入力:夕凪モード――温泉入浴夕凪門戸を、納刀自動化モードのショートカットとして登録しました』
「では〝温然入浴夕凪門戸〟と唱えてください」
「温然入浴夕凪門戸!」
ふぉん♪
『【納刀自動化モード/ON】
━━━━╋:左 右:╋━━━━』
ビードロの中、小さい地図の横。
鞘に納まった小太刀の絵が、あらわれた。
使ってみりゃ、読み方もわかるだろ。
「すぅばぁぁしっこーぉいぃやぁぁーつぅぅめぇぇぇぇ――――!」
モサモサァァァァ――ブォォォォン!
横薙ぎのモサ鉈を、とんぼを切ってよける。
「ほらもっと、集まってこい♪」
おれが居合を放つには――モサモサの包囲陣が完成してた方が都合が良い。
ぽきゅぽきゅぽきゅぽぉぉ――きゅむん♪
手と足と尻を振って、挑発してやる。
モサモサ、スサササァァァァ――――
あ、モサモサの波が引いていく。
「(ちっ――こういう、人をからかうのは……五百乃大角が得意だろ? なんかねーか?)」
ん? 返事がねぇ。
「どこ行った?」
ビードロの中にも居ねぇ。
「(おそらくガムラン町で何かの作業を、進めていると思われます)」
「(――また忙しいふりして……姫さんのオヤツを盗み食いしてんじゃねーだろーなー)」
そういや、折角の央都だ。
くだんのうまい菓子とやらを、買えるだけ買っていくのも良いな。
この場を切り抜けられたら、の話だけど。
モサモサモサァァァァ――――!
お? やっと包囲陣が完成したっぽい。
カハァ――――!
口をひらく――モサモサども。
またあの呪言が来る――――
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「――こねこがいっぴき♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
低い声で放たれる合唱は――やっぱりとても、うるせえ。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「――こねこがいっぴき♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
また弓を引くように――一斉に、肩口まで引きしぼられる、モサ鉈剣。
やつらは捨て身じゃねぇ。
包囲陣をむしろ、防御のために使ってる。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「――こねこが♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「――こねこが♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「――こねこが♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「――こねこが♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
ヴォヴォオォォォォ――――――――ビリビリと服の中までしみこむような、震え。
「(歌が幾重にも聞こえて――来やがるっ!?)」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「――いっぴき♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
大勢で経文を読むとき、その座り方にはちょっとした工夫がある。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「――いっぴき♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
狭い所と広い所、細長い所に高さがある所。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「――いっぴき♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
その場所によって、音の響きが足されたり引かれたりしないように。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「――いっぴき♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
こいつぁ、その経験で編みだされたもんだ!
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「――キャッツ、ニュー――――――――」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「(シガミー、神官の波のうごきが重ねられるたびに、音量が増しています。危険です)」
「その先わぁ、歌わせねぇっ!」
押しよせる波にあわせて――踏み込む♪
ブォォォォォン――――ッ!
ななめに振りおろされた、モサ鉈剣!
――ガッツン!
ソレを〝鞘に納まったままの小太刀〟で受けた。
ヒュォォォォン――――ッ!
――ゴッツン!
別の神官の薙ぎはらい――も、もう片方の小太刀で受ける。
ギリギリギリ――――ぴぴぴぴぴっ♪
『▼――Unknown』『▼――Unknown』』
背後から迫るモサモサ。
この流れるような連携が、あったればこその――――居合二刀流。
小太刀の鞘は、鉈剣に食いこんでいた。
このまま横に引けば、カタナが抜ける。
しかも、形としちゃぁ――――上段からの打ちおろしだ。
――――シュッカ、カァァァァァンッ!
右うしろの死角から、切りこまれた鉈剣を小太刀が――切り落とした。
あれ?
――――シャッキ、キィィィィンッ!
つぎに――左うしろの鉈剣を小太刀が――やっぱり切り落とした。
なんーだ、この切れ味。おかしい。