15:食いつめ幼女、正体がばれる
「このあいだは、せ、世話になった。おれ……わたしはシ、シガミー、ただのシガミーです」
やい、棒。文句あんのか、だまってろ!
「(……)」
てれかくしに女神の眷属をなじっておく。
あたらしいこの世は、ことばわぁわかるが、礼儀作法がわからねえ。ましてや女子供のしゃらあしゃらしたのは、まえの世界でも見たことも聞いたこともねえってんだぜ。
「そうだ、お父さん、きいてきいて! シガミーはねー、いままでに見たことも聞いたこともないような頭の良いアーティファクトを持ってるのよ!? すごいで――――」
「ぬわぁぬぃー!? それはほんとうかいぃー、シガミー?」
両肩をガシリと、つかまれた。
さっきまでの、少し無愛想だけど精悍な表情はどこにもなかった。
「そんな素敵なアーティファクトが発掘されたなんて情報は、ギルドに入ってないがぁぁぁあああぁん!?」
〝眼鏡〟の横についた〝摘み〟が、ひとりでにグリグリうごいていて、不気味だった。
「なんでぃ? 急にひとが変わっちまったぞ!?」
逃げ場のないおれは、首をまわして娘をみる。
「ごめんなさい。うちのお父さんはアーティファクトに目がなくて」
もうしわけなさそうに、おれのうしろあたまを指さす娘。
「ひととおり見せてもらったら、元にもどるから、みせてあげてくれない?」
両手をあわせ、口もとをひきつらせる。
「さあ、今すぐ見せたまえよ。万が一うそだったら、責任をとってもらうよぉぉぉぉう?」
人の上に立つやつには二種類いて、彼はそのありがちな側の人間でもあるらしかった。
「(よくわからんが棒、〝五百乃大角〟の眷属だとか、おれが関係者だとかってのをバレない程度に、相手できるか?)」
キュキュキュイー。
ギルド長の〝眼鏡〟の横についた〝摘み〟が、おれたちの会話中にもかかわらず、うごいている。
「(……)」
おい、どうした。はやくしろよ?
「(……)」
んあ? どうした、きゅうに黙りかよ。
あ、ひょっとしてさっき黙ってろって、なじった意趣返しか!
「ええい、どうしましたかぁ? さぁぁー、はぁやぁくぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
眼鏡の摘みが――キュキュキキュキュィーーー!
「(まさか、壊れたんじゃねーだろな?)」
おれはうしろあたまに手をのばす。
独鈷杵みてえなかたちの棒は、桐のようにかるく、おもさはない。
おれのちいさな手につかまれたやつが、ヴルリとふるえた。
「(問題ありません。発言の許可をいただけますか、マスター?)」
壊れてねえなら、とっととやれ。おまえ勝手に娘のまえで話してたじゃねーかよ。
もう、つかまれた肩が痛てえ。
「ハじめまして。ギルド長どの。私はインテリジェンス・タレット。形式ナンバーINTTRTT01デす。以後おみしりオきを」
おれから手を放したギルド長の手が、棒を凄まじい早さでひったくった。
「す、す、すすすす、すばらしい! 君は私がいままで見てきた中でも、最高の知性をそなえている!」
キュキュキキュキュキュキキュキュィ――――眼鏡の摘みがこわれそうないきおいで、あばれている。
「(おい、〝眼鏡〟てのが、おれたちの密談中にも動いてたが、どういうコトだ? まわりはとまって見えるはずなのに)」
「(どうやら、あの眼鏡もアーティファクトであると推測……かんがえられます)」
「はぁはぁ、し、死ぬかとおもったぜ……」
解放されたおれは、椅子にたおれこんだ。
「ごめんね。でもシガミーは、あのアーティファクトを、ドコで見つけたの?」
「女将のとこで、来た客にもらったんだよ。詳しいことはおれも知らん。本人……スダレに聞いてくれ」
これは本当のことだ。うそじゃねーし、そもそも五百乃大角から、口止めもされてねえ。
けど、神仏がらみで人と話すと、ろくでもねえ目にあうってのは世のつねだ。
女神の眷属とか関係者だってのは、口が裂けても言わねえようにしねえと。
「じゃ、じゃあ君たちは、美の女神〝イオノファラー〟さまの、け、け、眷属であり、縁者というわけなのだぬぇぇぇぇぇ?」
いくらか元にもどったようすのギルド長が、おれたちの正体をみぬいた。
眷属/血のつながる者。配下。
意趣返し/しかえし。