148:龍脈の棟梁(シガミー)、女神像完成!
「まさか、こんなことになるとわ――にゃ」
「な、何に祈っていますのっ!? 神ともあろうものが!」
土台中央。
膝をつき、首をたれる――美の女神(2・5頭身)。
組んだ両手を鼻に押しあて、涙を流す――その姿。
見たひとに特定の感情を思い起こさせる、随分な姿勢。
「な、なさけねぇ――にゃぁ~」
「――ないですわぁ~」
いまにも斬りかかろうとするリカルルに、許しをこうた瞬間。
女神像の、なんかの手続きが終わって――そのまま固まっちまった。
「し、仕方ないじゃんかー! インストール終了までわぁ、まだまだ時間が合ったはずなのぉに、なんでか女神像が稼働し始めちゃったんだからっさっ!」
本題はソコじゃねーけど、言わないで置いてやろう。
こいつぁ、戦の神じゃねーし、中身が子供だしなぁ。
つまるところ、〝完成した女神像から弾き飛ばされた女神が、またビードロの中に戻った〟ってことだな。
ふぉん♪
『>女神像とのリンク、復旧しました』
その辺を漂ってた、大目玉が――カシャララッ、ドォン――と地に横たわる。
「――イオノファラーが〝女神像〟デ直接、デジタル測量……走り回っタ結果、事象ライブラリ構築……魔方陣ノ書き込ミが、一気に終了しタと思われまス――」
いつもの迅雷の声が聞こえてきた。これでひと安心だ。
「(おれが何かすると迅雷の頓知が、はやく終わるのと一緒か?)」
ふぉん♪
『>そうです』
「ふぅ、冗談ですわよ。神で有るアナタに捧げる剣はあっても、切りつける剣は持ち合わせていませんわ~ぁ」
「――ほぉんとぉ? じゃあ、許してくれるぅ~――ぱくぱくぱくぱく、もぎゅもぎゅもぎゅり♪――」
おまえなぁ、原因をやめ――いや、言うまい。
良い機会だから、リカルルにも五百乃大角の――実態ってヤツを知ってもらおう。
「わかりました。けれど、お母さまに伝言をお願いいたしぃまぁすぅわぁー♪」
うふふふふ?
あ、目が笑ってねえ。
「ばりばり、もぎゅぎゅもっ――なんへ?」
「こほん……〝央都の菓子店から、お取り寄せしていただきます――とうぜん費用は、お母さま持ちで!〟――以上ですわ」
「もぐもぐもぐもぐ、ごくん♪ こっちのやぁーらかいのわぁ、あたくしさまの分とあわせて、10箱頼んでねぇー♪」
おまえ……。イオノファラー……。
「あら、面白いことをおっしゃりますのね、イオノファラーさまったら。10箱なんて、お父さまがこちらに来るときに、頼みでもしなければとても無・理でぇ・すぅ・わぁー!」
「……しけてやがるなぁ……ぼそり……姫さんは、ギルドの仕事もバリバリこなしてるじゃねーか。そんな菓子の10箱や20箱ぐれぇ――」
「央都までの距離が、どれくらい離れていると思いますの?」
ふぉん、ピピ――ッ♪
『央都大女神像――▼…………<809㎞>…………▼――ガムラン町女神像』
わからん。
「――都と江戸ヲ、往復でキる距離デす――」
なら、ずいぶん遠いな。わかった。
「それと〝そんな菓子〟とは、聞き捨てなりませんでしてよ?」
やべえ、怒りの矛先がコッチを向いた。
「――そーよっ! この丸くて黄色くて、ふわふわぽわぁーんなヤツわぁ、デパートの高級お菓子とおなじくらいおいしーんだからねっ!?――」
梅干しは、だまってろ。
「わるかった。それほどうまいもんなら、ぜひウチでも取り扱いたいくらいだぜ!?」
口から出任せを言っておく。
「わかれば、よろしくてよ」
「よくってよぉーん♪」
だからやめろ、ご令嬢の目が笑ってねーから。
フォフォン♪
『>同一エリア内で女神像#778が検出されました
同期を開始しますか? Y/N』
「(こりゃ、なんでぇい? 女神像づくりは終わったのに、まだなにかしてんのか? 菓子を食いながら……)」
ふぉふぉん♪
『>一言で言うなら、この神域とガムラン町の女神像をつなぐ〝龍脈を通す儀式〟とお考え下さい』
それなら、わかる。
『○――ぽこん♪』
梅干しが、短い手刀を放つと――大きな○がビードロの隅に出た。
その○が欠けて、小さくなって消えると――
ふぉん♪
『>女神像#778との同期が完了しました
>天地創造バッチプログラムの整合性チェック終了』
「本日のぉメインイベントお~、はじめるわよぉーん♪」
ふぉふぉん♪
『>天地創造バッチプログラム
☑ SDKユニットのオートフロート機能をオンにする
実行しますか? Y/N』
「こんどわ、なんでえぇい?」
「――シガミーにワかる言葉デ言うト、〝成劫〟でス――」
国作り――天地開闢か。
たしかにココは、天地がわかたれてねえ気がする。
また梅干しが、手刀を放つと――地鳴り。
それは凄まじい、いきおいで。
遠くの方に火山が出来て噴火し、女神像が建ってる場所も波打ちはじめた。
「壊れはしなくても、こんなんじゃ埋まっちまわねぇか、女神像がっ!?」
「きゃぁきゃぁきゃぁきゃぁ――――!?」
「大丈夫ーぅ、この土台は水平を保つし、かならず地面の上に浮かぶようにしたからー♪」
ぷぴぽぽーん♪
『>〝頭部防具:シシガニャン・へっど〟を装備します』
ギュッ――ばくん♪
迅雷が兜頭を閉じ――ヴュパパパパッ♪
耳栓が――すぽっと外され――外の音が自然に聞こえるようにな――――ゴゴゴゴゴゴッズズズズズズズズ――――――――うるせえ!
「――シガミー、リカルルちゃんを抱っこしてあげてぇねぇぇーん」
膝下が――ぎゅ、ぐぅぅうぅーん♪
と持ちあがった。
〝猪蟹屋ん〟につかまる姫さんを、しっかりと抱える。
「――尻尾が女神像端子から、外れないようにしてねぇー♪――」
なんでぇい、いそがしーぜ!
「――もし、ソレ引っこ抜けたら、命が無いわよぉぉぉぉー?――」
尻尾の長さは十分あるけど、少しだけ中腰になった。
ぐらぐらぐらわららぁぁぁ――どごごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
キィンキン――カキャキャキャキャキャッ――――ぽぉん♪
聞いたことの無い――つばぜり合いのような――――ぽぉぽぉん♪
§§§
シュゴォォォォォォォ――――――――ン♪
「なん――にゃ?」
光の奔流。
魔法の神髄。
絡みつく光糸――いや、絡んでたのが逆にほつれてんのか?
わからーん。
ふぉん♪
『>ファストトラベル中
>転送完了まで 00:02』
「あら、この感じ、私、知っていますわぁー」
「あたくしさまも知ってるわよぉー。コレ知らないのは、シガミーだけみたいよ。遅れてるよ君。ねぇー、いまどんな気持ちぃー?」
うるせえ。
シュゴォォォォォォォ――――――――ン♪
§§§
「どこだ、ココわぁ――にゃぁ!?」
城塞都市のギルドみたいに、立派な作り。
ただし、その何倍もひろくて、天井までの高さが、やっぱり何倍も高かった。
「ここわぁ、見覚えがありますわぁ――まさか!?」
「――ふっふっふぅー、そうでぇーす♪」
振りかえり見上げれば、巨大な女神像。
さっき作った、丸っこくて許しを請う情けないヤツじゃなくて――
ガムラン町の、普通の女神像の――3倍はありそうな――
「ココわぁー、なんとぉー、央都のぉー大神殿でぇーす♪ 驚いた? ねぇー、驚いたぁー?」
あたりを見わたせば、まばらな人影。
開いた大扉から駆け込んでくる――――なんかモサモサした連中。
なんとなく、城塞都市で囲まれたときを思いだした。
降りようとしていた、姫さんをもう一度抱える。
「っきゃっ!?」
あたりをすっかり、囲まれたころ。
包囲するモサモサ連中をかきわけ、奥から姿をあらわしたのは――
「お父さま――!?」
まさかの――コントゥル領伯爵だった。