144:龍脈の棟梁(シガミー)、神域惑星ってなぁに?
ふぉふぉん♪
『>惑星造成専用工作機械腕に接続しました』
わからん。
「――じゃぁ、ずぅぅぅぅぅぅぅっと、上に行くわよぉー?――」
梅干しが、平たい体を震わせると――――ブヨブヨした足場が、登りはじめた。
「きゃぁぁぁぁぁぁ、うきゃきゃきゃっ――――!?」
うるせえ。跳ねるな、跳ねるな。
硬いような柔らかいような、不思議な踏み心地。
おれたちは落ちる瞬間、やんわりと受け止められ――足の下には〝シガミー邸別宅〟程度の大きさの目玉。
とんでもなく気色悪いが、この大目玉には――大足と同じくらい長い、首だか腕だかが生えていた。
そしてソレは――なんと、五百乃大角の背中の箱から生える――細腕と同じようなものらしい。
「と、とりあえず助かったが、ここはドコなんだ?」
ビードロ中央に躍りでた梅干しさまが、おれをみあげた。
「ぎゃっ、目が合った!」
姫さん、うるせえ。
「――ココわねぇー……ルリーロちゃんの案をいただいて――――〝神域〟です――」
〝神域〟か。神が用立てた、向こう側の世界のことだ。
三千世界と言うよりは――〝その外〟。
つまり、金輪でも水輪でも風輪でもない。
「なら、この霧の星は……案外、五百乃大角が住んでた場所に作りが近いのか?」
「――んー? なに、難しいこと言ってくれちゃってんの? あれ、曲がんない? んぎぎぎぎっ!?――」
五百乃大角の目が、つり上がる。
なんか、分け身を揺さぶってるぞ?
「――ほ、本当わぁ、βテスト中にー、ウチのバカ兄が作った――なんだろ、お試し……お味見の世界? まぁ、そんな感じでぇー、たいして意味がない場所なんでぇすぅよぉね――本来わぁ!」
うん? いま兄って言ったか――――ぐにゃりっ!
梅干しが丸い体を、くの字に折りまげ――――ぐららららっ!
大目玉の細腕……いや太腕が、急にひんまがった!
「うぅぅぅうぅぅっぉぉぉぉぉぉゎぁぁっ――――――――!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁっ――――――――!!」
やべぇ、おちる。
あぶねえ――いまおれたちは、大目玉に、いきおいよく持ち上げられてる。
ふぉん♪
『>高度288㍍』
一気に上まで登ってきた。
まだ〝強い服〟で耐えられるが、こんな高ぇ所に来るのは初めてで――――とうぜん、怖えぇぇぇぇっ!!!
霧がさえぎるのは、この大目玉の姿だけで――ずっと下の方に、地面らしき物がはっきりと見える。
「バカ女神! それ止めろっ! 落っこっちまうだろがっ!」
「――そ、そんなこと言っても、コレ操作系がシビアで、すっごく難しーんだからねっ!?――」
大きく体をひねり上げる――梅干しさま。
グルングルン、ギュゴゴォォォォォォォォッ――――!!
上下が何度も入れ替わる!
「いーから、スグ止めろ!」
〝機会があったら、たたっ切る〟って、さっき思ったけど。
今がそのときだ――――ヴッ――――じゃりぃぃん♪
「ぎぃぃぃぃぃぃぃゃぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁっ――――!?」
うるせえ! ニゲルには聞かせられねえほどの大声を、出すな!
「――じゃ、シガミーが操縦して! (裏天狗同じだから)――」
やっと、止まった。
「んうう――――?」
ひっくり返りながらも、腰の剣に手を延ばす――コントゥル家ご令嬢。
「なにいってやがる!? まずは迅雷を直してくれ――アイツが居ないと、何もわからん」
それと、コントゥル家の人間のまえで――念話はつかうな……攻撃されてると思って、斬りかかってくるぞ?
「――了解っスー! じゃあ、あたくしちゃん様の像をあたらしく造るから、手伝ってねぇん♪――」
「はぁ? ガムラン町にあった、あの女神像か? そんなのいーから、まず迅雷を直せよ!」
「――だぁかぁらぁー、迅雷を直すために、女神像が必要でぇー、女神像の設置わぁー天辺じゃないと出来ませぇーん。おかわり?――」
おかわりじゃねーよ。
けど、この先が見えない大足を登り切らないといけないのは、確からしいぞ。
ヴヴッ――――がちゃこんっ♪
なんだ?
かってになんか出たぞ――――こりゃ、
「(〝魂徒労裏〟じゃねーか)」
ふぉん♪
『イオノ>そうです♪』
文字がビードロに出た。
ふぉん♪
『イオノ>ぶっちゃけ、シガミーの方がコレ上手でしょ?』
これなら姫さんを、念話で刺激しないで済む。
ふぉん♪
『イオノ>L1でカメラ切り替わるから、好きな見え方でやって♪』
「襟椀だぁ?」
手に持つと、なんか別の光の板がでた。
そこには、どこかの風景が映しだされている。
柱(白っぽい大足)の横に、上から垂れさがる――蔦みたいな(黒っぽい太腕)。
大目玉の上にたたずむ――二人組。
「をぁー? こりゃ、おれと姫さんか?」
筋肉痛で指先くらいしか、動かせなくなったときに作った――〝裏天狗〟。
天狗装束一式を、張りぼての体に着せて――この〝魂徒労裏〟で動かすしくみ。
裏天狗を動かすときには――裏天狗が見た景色が、そのまま見えていた。
じゃあコレは――この大目玉が見ている景色……じゃねぇよな?
斜め上から、飛んでる鳥が見てるような景色は――誰が見てるんだ?
斜め上のあたりを、見わたしたけど――何も居ない。
コレは、いまは妖術の類いだと考えておこう。
迅雷が直ったら、いくらでも話を聞けるしな。
ふぉん♪
『イオノ>左手の人差し指のボタンを、何回か押してみて』
――かちゃかちゃかちゃ。
光の板に映しだされていたおれたちが消えて、別の何かに切りかわった。
今度の景色には、邪魔な物が映りこんでて、前がよく見えない。
「なんかでけぇ……革鎧みてぇなのが陣取ってて、前がよく見えんぞ?」
そんなのを着てるのは姫さんくらいだ――――膝を抱える、その姿。
目のまえの景色と、ビードロの景色が重なる。
「こりゃひょっとして――」
錫杖で、リカルルの豪華絢爛な尻を――突いてやった。
「んっきゃぁあぁふぅんっ――――♪」
ビードロの中の邪魔なのが、居なくなった。
やっぱり、さっきのは――姫さんの尻か。
「シィガァミィーちゃぁぁぁぁぁぁんっ?」
腰の剣に手を掛ける、伯爵令嬢。
「ごめん、あまりにもデカくて、邪魔だったからついよぅ」
スラァリッ――――!
抜き放たれる剣。
「いまのわぁー、シガミーが悪いよねぇー♪」
ププークスクス、ゲラゲラ、ウケケケケケケケッ♪
魔物じみた笑い声が、霧に消えていく。