143:龍脈の棟梁(シガミー)、神域惑星と梅干し
「――ザザザッ――ソコわねぇー、一言で言うなら別の星……つまりガムラン町がある惑星ヒースとは、別の惑星ですぅー……わっかるかなぁー?」
五百乃大角の、すっとぼけた声。
「――ザザザッ――ちょっとまって、イオノファラーちゃん。別の星……惑星ってなぁにぃ? アソコわぁ、結界に閉ざされた神域でしょお?」
こっちはたぶん、伯爵夫人の落ちついた……子供みたいな声。
そうとうややこしいのか、向こうでも話がまとまってないっぽい。
そんな難しいことが、一言でわかるわけねぇ。けど――
「五百乃大角このやろう――馬鹿にされてんのはぁ、わかるからなぁー。夜空にうかぶあんな小さな光に、人や化け物がどうやって乗るってんだっ!」
「星? 央都のアカデミーでそんな、お話をレーニア……リオレイニアが聞いてきたって言ってた記憶がありますわぁー」
姫さんまで、そんなことを言いだした。
霧に覆われた、この白い地面が――夜空にうかぶ……星だってのか?
「――ザザザッ――じゃぁねぇー、間を取ってぇ――〝エリアボス戦専用・戦闘フィールド〟の大きな奴だと思ってぇー」
「あ、お母さまがラスボスってことかしら……それなら、納得ですわぁー♪」
やい、リカルル。納得すんな!
おれぁ、まだサッパリわからねぇんだが――なんかくやしいぞ。
「交わらない別の地面――そりゃ、三千世界のことを言ってんのか?」
「――ザザザッ――三千個? 星の数はそれじゃきかないわよう?」
「三千個だぁ? 個数で言うなら、えっと、ひのふのみの――十億個だろーが!」
「――ザザザッ――さっぱり、要領をえないわねー、ウケケケケッ♪」
その魔物声はやめとけ、面白がってくれるのは、子供くらいのもんだぞ。
「やっぱり、迅雷が居ねぇと――話について行けねぇ」
「――ザザザッ――えっ、迅雷はどこ行ったのぉー?」
「いや、居るけどよ。返事をまったくしやがらなくなっちまったんだよ。少しは手伝ってくれるけど、あ、神力棒があるから、腹が減ってるわけじゃねぇからな?」
「――ザザザッ――そんな大事なことを、なんで先に言わないの? バカなの? シガミーはバカなの?」
うるせえ。
「――ザザザッ――あれ? そしたらアンタたち、迅雷無しで一体どうやって通信してるの? ふっしぎぃー♪」
「――ザザザッ――そぉねぇ、この発掘通信機わぁー、央都とリカルルちゃんの部屋においてある、ふたつしかぁー無いはずぅよぉーねぇぇー?」
ふぉぉん♪
『星間通信機【非売品・雅】
別ワールド(別惑星)との通信が可能になります。
追加効果/アカウント内に別ワールドが存在する場合、
1分につき2ヘククの料金で通話が可能になります。
※データ通信の場合、容量にかかわらず1パケタ/回の、
料金が必要になります』
鑑定結果を見ながら説明する。
読めない文字もあるけど、だいたい読めるからな。
「星間通信機って奴だ。通信が可能になりますってかいてあるが、金がかかるみてぇだな」
「――ザザザッ――星のあいだの通信機ぃー? そんなアイテム、聞いたことないんだけど――ぺらぺらり――あるわね、非売品だってー♪」
虎の巻を見てやがるな。
「――ザザザッ――DEMOワールドとの通信は、一回だけって書いてあるわね……転移陣の設置に失敗したら最悪、戻ってこられないのか……ぶつぶつ……けど、お金かかるって何だろ?」
「(天衣人? 天衣無縫スキルと関係あんのか?)」
「――ザザザッ――うわちょっと! 通信機は片側しか話せないのに、ややこしいでしょっ!」
「(ああ? つい念話を使っちまった。すまん――チャリ-ン♪――あ、しかも金取られるみてぇだ)」
「――ザザザッ――だから使うなって、言ってんでしょーがビビビビビィ――ガガガガガガァー!!!!」
「うるっせぇ!!」「きゃぁ!」
耳を押さえる、姫さんとおれ。
ふぉぉぉぉぉんっ♪
『>マルチカーソル【#I05001】を接続しました』
――――――ぽ――こ――ぉん♪
ころころころころぉぉ。
ビードロの中。
いつもより、派手な登場をした――平たい和菓子みたいな造形。
「――あれ、データ通信用帯域確保できる!? なんで!?――ヴュザザザザッ――――!」
「で、出やがった……今回ばかりは、渡りに船だがな」
「ど、どうしましたのシガミー?」
姫さんのビードロには、見えてねぇのか。
「なんにしても、神さんが来てくれりゃ――ひと安心だ」
張り詰めてたのが――ぷつりと切れた。
すぽーん――――ひゅるるるるるー♪
なーんかフワフワしてて、まるで落っこちてるみてぇで――心地よい。
思ってたより、垂直に登るのは大変だったらしい。
ふぉん♪
『>地表まで3秒』
この赤文字は――目を閉じてても、見えやがんのか。
「ッギャァァァァァッ、出た! 出ましたわ――シガミィィー!!!!」
うるせえ。
もう、せめて3秒くらい、ゆっくりさせてくれ。
「――なにあれ、おっかしー♪ 目玉が飛んできたんだけどぉー、ウケルー♪――」
これは聞き捨てならない。
おちおち、落っこちても居られない。
「ぎゃぁぁっ!!! シガミー起きてっ! 起きなさい! 目が目ガァ――――!!!」
――――ぎょろりっ♪
目を開けたら、たしかに居た。
バカでかい目玉が、落ちるおれたちを追いかけてくる。
「ぎぃやぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――――!?」
ふぉん♪
『イオノ>大丈夫。コレ、あたくしさま配下の、DOZタレットだから』
地面に落ちた瞬間――そんな文字が出たような気が、しないでもない。