141:龍脈の棟梁(シガミー)、遭難二日目
「いけねっ! 寝ちまってた! 起きろ迅雷!」
っと――アイツはまだしゃべれねぇんだった。
「んもぉう~、うるさいですわぁよ~レーニアァ~!」
なんだその、甘えた声わぁ?
猫耳頭の毛皮に、顔を埋めている。
昨日は、妖狐が〝五穀豊穣の神〟の〝眷属〟として奉られてることや、日の本ではそれなりに敬われた存在であることなんかを、話してやって――そのまま寝ちまったらしい。
くそう、もしもおれが寝ちまったら、兜頭だけ閉じてくれって頼んだのに!
ちなみに、妖狐の執念深い一面なんかは、言わないでおいた。
「やばかった、踏まれずに済んでほんっとうに、助かっ――――――――」
〝動く物を見える化する窓〟なしで、真上から踏まれてたら、おれたちも錫杖みたいに〝床の模様〟になってた。
「ぎゃぁぁっぁぁぁっ――――!?」
だから、そんな声を出すな。
とてもニゲルには、聞かせられねぇ。
たかが〝馬鹿でかい目玉に、戸口から見つめられた程度〟で――――正体をなくすな――
「ぅぉわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――――――――――――――――!?!?!?」
うるせえ。おれがうるせえ。
こりゃ、おれの声だ。
姫さんの叫び声よか大きかった。
§
「いけねっ! 寝ちまってた! 起きろ迅雷!」
っと――アイツはまだしゃべれねぇんだった。
「んもぉう~、うるさいですわぁよ~レーニアァ~!」
なんだその、甘えた声わぁ?
まてぃ――――こりゃさっきも、やっただろ!?
おれたちは、あまりの光景に、たぶん――気絶した――んだと思う。
「どこいった、あの目ん玉わぁーーーーーーーーっ!」
ヴッ――――予備の錫杖を――――じゃりぃぃん♪
「あたまを閉じてくれっ! たたっ切ってくる」
リカルルに背中を向け――たら、首のうしろにくっ付いた〝兜頭〟を押さえこまれた。
どさり――寝床に引き戻された。
「なにしてる!? いそがねぇと逃げられちまうだろっ!?」
「まず落ちついて。私たちが生きのこることが、先決でしょ? それに闇雲に敵を刺激するのは得策ではないわ」
たまに、まともなことを言うから困る。
「わるかった、気が動転してた。よし、じゃあ――たたっ切ってくる!」
どさり――また寝床に引き戻された。
「全然、落ちついてないじゃありませんの……さては迅雷が居ないと、シガミーはポンコツですわね?」
「ばーれーたーかー――いや、ふざけてる場合じゃなくてな?」
「よく聞いて。私たちが、気を失ってた時間は……5分ちょっと。そのあいだ向こうは手を出してこなかったのだから、攻撃の意思はないと思いますのよ」
耳栓の小さなビードロの読み方を、もう理解してる。
頭が悪くないとは思ってたけど、おれが時間の数字を読めるようになったのより、ずっとはやい。
「じゃ、ひとまず〝シシガニャン〟の頭は閉じてあげるけど、外に飛び出さないこと。いーい?」
「わかったぜっ!」
ギューッ――ばくん♪
ぷぴぽぽーん♪
「ハッチ閉鎖を確認、ハッチ閉鎖を確認――気密保持開始します」
五百乃大角の声がして一瞬の暗闇――――ヴュパパパパッ――――ビードロがでて、冒険者カードと同じ紋章が出た。
チチチピピッ♪。
小鳥の鳴き声がして――「うふふ、かわいいぃ」――外の音が、よく聞こえるようになった。
猫耳頭を着てるときは、耳栓ビードロがいつもの大きさになる。
そして、兜頭もつけたときには、ビードロ(大)が使えるようになる。
「迅雷、耳栓はずせるか?」
本当なら迅雷が勝手に外してくれるんだけど、いまはダメだ。
耳栓したままだけど、ビードロ(大)がつかえてるから――このまま行く。
「あら、シガミーの声がちゃんと聞こえますわよ? どういうコトかしら、さっきは頭をつけたら、猫語になってしまって、まったく聞き取れませんでしたのに――――」
「ほんとかっ!? そりゃ、いーや♪ このまま話が出来るなら、だいぶ楽になる♪」
「けど、同時に猫語も聞こえてくるから――とってもかわいいぃぃ♪」
だから、執拗に腹をなでるなってんだ。
小屋の戸口から、そっと外をみる。
目玉が隠れてたら、切りつけられるように――すぽん、ヴッ、ぱしん♪
小太刀に持ちかえたけど、なにもいなかった。
ずっと遠くの方に大足が何本か居るけど、コッチに来るまでは大分かかりそうだ。
「何をするにしても、まずは迅雷だ――にゃ」
猫語とまざって、ニャミカみたいになった。
「直せるんですの? あ、まさか神力切れなんていう、つまらない原因だったり――」
「違う――にゃ。昨日、猫耳頭を走らせたりしてた――にゃ? それに予備の神力棒が、この服には入れてある――にゃ」
「なんだか、猫耳族みたいなしゃべり方になっていますわよ? かわいい」
な、なんでぇい。にじり寄ってくんな。
「い、五百乃大角と話ができれば、たぶんなんとかしてくれると思う――にゃ。アイツは頭が良いから――にゃぁん」
ひゅひゅひゅ――ひゅおぉぉん♪
遠閒から手刀を、おみまいしてやる。
金剛力で放った素振りは結構な風圧で、十分、姫さんへの牽制になった。
「ふぅー。じゃあ、やっぱり、イオノファラーさま達からの連絡を待つしか、ありませんわねぇー」
うん。そのためには、この場所を死守しねぇと。
そして、さっきの目玉がまた来たら――是非とも、たたっ切ってやりたい。
ことり――戸口に一本、小太刀を立てかけた。