14:食いつめ幼女、はじめての友達
「この菓子、ピリッとしててうめえ……酒でも欲しくなるな……もぐもぎゅ!」
「もーっほんとうに中身が男の子って言うより、おじいさんよあなた」
ジトリとした目を向ける、生意気な子供。
ここは冒険者ギルドの三階。
ほそい階段をクネクネとのぼり、着いたのはこじんまりとした生活空間。
「こんなに意識のはっきりしたアーティファクトは、はじめて見たよ。うちのお父さんですら見た事ないんじゃないかな」
フォフォフォ――フォォン。
上下左右に揺れてみせる、短い棒。
「おまえの親父は、〝宛鋳符悪党〟にくわしいのか?」
「わたしは〝おまえ〟じゃないし、おとうさんは〝親父〟じゃないし、〝アテイフアクトウ〟じゃなくてアーティファクトよ」
「(棒、宛鋳符悪党ってのは一体なんだ?)」
「(神々がつくり使役したとされる、自律型工作機械群……式神や使役獣とお考え下さい)」
「さっぱりわからん……このお茶、あまくてうめえな」
式鬼神ってのは目には見えなかったが、みやこでなんどか感じたことがあるぞ。
使役獣は……鷹、狗、猿か?
「(――それら全てで構成……なりたっている、からくり仕掛とお考えください)」
つまるところ、五百乃大角の眷属にちがいはねえんだろ?
「(はい。〝イオノファラー〟です、マスター)」
「わたしはレイダ・クエーサー。ここのギルド長の娘よ」
名乗りを上げる生意気な、〝冒険者ギルト長の娘〟。
「へー、えらいんだなぁ」
「(先日の眼鏡男と姓が同じです)」
「(あいつか。商売相手となりゃ、その娘にも、ちぃーとばかし愛想よくしておいても、バチはあたらねえか……よし)」
おれは雄々しく立ちあがり、こえを張る!
「拙僧わぁ妙竹林山朧月寺がぁ虎鶫衆弐番隊、し――――」
眼鏡男の娘や狐耳がやってたみたいに、腰を落としたまではよかったが。
「……じゃなかった、おれぁ……いや、わたぁしわぁ……なにものでもねえ、ただのシガミーだわ、ぜ?」
口上がまるでのらなかった。
そりゃそうだ。おれぁもう坊主でもなけりゃ、いくさ人でもねえ。
「うふうふうふ、ぷふふっ!」
おい、かおを押さえてわらうなってんだ!
「狐耳やおまえみたいな、こういうしゃらあしゃらしたのには、なれてねえんだ! しかたねえだろう!」
「ひめさんって リカルルさま?」
「それがどうした? じろじろ見んなってんだ」
「えー、コホン――――〝ちょっとまってぇ!? 金髪ぅさらさらのぉ、ほっぺたぷにぷにのぉ、小なまいきそうなお子さまがぁ、はぁはぁ、なんかちょっとスネたかんじでぇ、私をキッてニラみつけてくるのですけれどぉ、はぁはぁ、あーもういったいぜんたいどうしたらいいのかしらぁー?〟――――っていって飛びつかれなかった?」
「おう。一字一句おなじに飛びつかれて、すっげー怖かったな」
ギルド長の娘の狐耳の声色が、迫真すぎた。
息を切らせてまでやることじゃねーけど、死ぬほど面白かった。
§
「おや、楽しそうですね。お客さまですか?」
扉がかるく叩かれ、部屋に入ってきたのは――
「きょう友達になったの! 今日はもうお仕事おわり?」
眼鏡男にかけよる娘。
「また出るけど三時間くらいあるから、晩ごはんを食べていきますよ」
「(〝一時間〟は〝半刻〟だったか?)」
「(はい。ですので彼は〝一刻半〟ほど、時間があるようです)」
「あ、じゃあ。おれ……わたしはそろそろ……」
「おや、お嬢さん。この間、お会いしましたがあらためて、ご挨拶させてください」
ギルドの役人があたまにのせてる小さい兜みてえな帽子をとり、かるくあたまを下げる。
「わたしはレムゾー・クエーサー。当ギルドの長を務めております。娘ともどもよろしくお願いいたしますよ」
人の上に立つやつには二種類いて、彼はそのかず少ない側の人間だった。
式鬼神/陰陽師(おんみょうじ)が使役する鬼神のこと。
虎鶫/不気味な声で鳴く得体の知れないもののたとえ。鵼(ぬえ)とよばれる古来の幻獣。
一刻/日の出から日没、もしくは日の入りから日の出までを、それぞれ六分割した時間の単位。