136:龍脈の棟梁(シガミー)、女神像とのリンクが切断されました
「(なんかやべぇ――〝再現付き〟で出せっ!)」
ヴヴッ――じゃりぃん♪
直刀は威力がやべぇけど――足のすぐ下で、ひらかれようとしているものは、たぶん、もっとやべぇ!
地鳴りは一切止んだ。
「迅雷も、なんか出せ!」
もう、魔法杖の先が足にとどく。
うねる妖狐の尻尾が、別の生き物のように――かま首をもたげている。
――ぽこん♪
なんだ? 何を出した!?
「――なんか着信履歴ついてるんだけどさぁ、ひょっとしてぇ呼・ん・だぁ?――」
――――呼んでねぇよ!
よし、だめだなこりゃあ――あきらめた。
妖狐と梅干しを――同時に相手できるとは、とても思えない。
命までは取られねぇだろう――たぶん。
それでも、折角出したから――一太刀でも食らわせてやる。
さっき、生まれて初めて到達した――手習いの境地で。
おのずと手は、錫杖の頭をつかむ。
ぎゃりりりぃぃぃぃぃん♪
鳴る鉄輪。
ふぉん♪
『>着用者の生体反応に、顕著な【滅反応(仮)】を検出』
「――ねー、いまどーなってんのぉ?――」
うるせえ。
しゅっかぁ――――ん♪
しずかな剣筋――――――――かちん!
おさめた仕込み直刀。
あれ? こんどは視界が――ズレない。
おれぁ、いま何を切った?
切った感触は、かすかにあったぞ。
ごぉっぉぉぉぉぉぉぉぉゎぁっぁぁぁぁぁぁぁっ――――吹きあがる突風。
「――――――――っきゃっぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁっ!!!!!!!!」
うるせえ。
ふぉん♪
『>女神像とのリンクが切断されました
>再接続を試みています』
文字が出たけど、わからん。
気づけば――霧に覆われている。
耳を劈くほどの――静寂。
「おい、五百乃大角、どうなってる?」
こっちも返事がねぇ。
そして、足下に迫っていた、地の底が――なくなってる。
伯爵夫人も、いなくなった。
大穴も、鍵星のひかりも何も無い。
ふぉん♪
『>地表まで1秒』
なにっ、真っ白で何も見えねえけど――――
ひゅるるる――ごずん!
とっさに錫杖を地に突き刺し、着地する。
あたりには、何も無い。
地面は雪山か、白い石材を敷き詰めたように――ただ白かった。
あたりの空中も、濃い霧が漂っていて――やっぱり白かった。
人影が蠢いているようにも見えるし、ただの湯気のようにも見えた。
「おい、迅雷――」
返事がねぇ。
ビードロにも、何も出ない。
さっきは、地面が迫ってるのを知らせたから、壊れたわけじゃないだろうけど。
ぽきゅぽきゅむ♪
真っ白な足下を、踏みしめる。
硬い。
あたりには、何も見えない。
ただ白かった。
うごめく白い影が、延々とつづいている。
錫杖を地面に刺したまま――ぽきゅん♪
一歩あるいてみた。
がくがく、ずどん。
痛ぇ。
なんか、膝をついちまった。
また金剛力を、使い切っちまったか?
つくり置きをしとくって言ってたから、まだまだ残ってるはずだけど。
四つんばいのまま――ぽくぽくぽきゅり♪
錫杖から、すこし離れて見る。
湯気は漂ってるけど、視界は妨げられない。
「ココわぁ、いったいドコだぁー!?」
立ち上がり――――ぽきゅぽきゅぽきゅきゅむ♪
走り出しても――がくがくがく――またすぐ膝をついちまう。
なんか重い荷物でも、背負ってるみたいに……背負ってた。
姫さんを背中に、張りつけたままだったよ。
「迅雷――なんか忙しいんだろうけど――姫さんをおろしてやってくれねぇか?」
ビードロの中が、いろいろ無くなってスッキリしてる。
いつもは見方がわからない、絵や文字が邪魔なほどだけど――ここまで何も出ないと、すこし、さみしく思える。
ぷぴぽぽーん♪
『>〝狐耳族:リカルル・リ・コントゥル〟を携帯装備1から外しました。
「携帯装備1をドロップします、携帯装備1をドロップします」
五百乃大角の声。
ヤツは居ねぇけど、声がする。
いろんな意味で、ぞっとした。
がしり――おろした途端に、肩をつかまれた。
「――――――――、――――!?」
おろした荷物のすごい剣幕に――後ずさる。
ぽきゅぽきゅむ♪
「――、――――! ――――――!?」
外の声が聞こえねぇのか。
服の脱ぎ方が……わからねぇ。
頭の取り方は……おぼえてる。
「温泉入浴八町分!」
ぷぴぽぽーん♪
『>〝頭部防具:シシガニャン・へっど〟を装備から外しました。
「ハッチ開放します、ハッチ開放します」
また五百乃大角の声だ。
「いるのかー?」
念のため、ビードロの中をもう一回、見わたしたけど、居なかった。
ぶっつん――ビードロが消えて真っ暗になる。
ぷっしゅしゅしゅぅぅぅぅっ――――ごっぱぁ♪
おおきな頭防具が、もちあがる。
目のまえが開け、姫さんの怒鳴り声が聞こえてきた。
こんなのでも、静かすぎて耳が痛ぇよかマシだ――と思ったのは最初だけで。
あらためて、ニゲルのヤツは――筋金入りの物好き……もとい、大物かもしれないと思った。
§
「じゃーソコに居てくれ、スグもどる!」
ぽきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅむぅん!
霧の中を一気に走り抜ける。
振り返れば、リカルルが居る。
どれだけ離れても、霧に邪魔されることは無いみたいだ。
ふぉん♪
『>レア度7、伝説級以上の可能性を秘めた、未鑑定アイテムの反応があります』
なんかでた。
この矢印のずっと先に、ものが落ちてるらしい。
「えーっと、姫さんの居場所を、ずーっとわかるように出来るか?」
ふぉん♪
『▼――――リカルル・リ・コントゥル』
ふぉん♪
『↓――――未鑑定アイテム』
出来たっぽい。
矢印を追いかけると――――本当に、なんか落ちてた。
それは手で持つには、ちょおと大きすぎるくらいの長い箱。
長い箱が割れたところから、細かいものが、こぼれ落ちている。
それは、柄のようなものや、棒や石や、板や球や紐とかで。
「つまり、こいつは、壊れてるってワケだな?」
上級鑑定をつかう。
ふぉん♪
『星間通信機【非売品】
別ワールド(別惑星)との通信が可能になります。
追加効果/オープンβ期間中に作成されたDEMOワールドが存在する場合に、
一度だけ、そちらとも通信が可能になります』
わからん。
とりあえず、壊れてるなら直そう。
この長い箱がどういうものでも、修復出来るスキルを、ぼくは持っている。
最悪、完璧には直せなかったとしても、伝説の職人スキルで強力な機能を書き込めば、ちゃんと使えるようになる――と思う、たぶん。
§
「――きゃっ、まってまって、私、食べられてしまいますぅわぁー!」
食べられない、食べられない。
背中に付いた小さな金具を引っ張りあげると、脱ぐときに開いた穴が閉じられる――そうだ。
普通の収納魔法具では仕舞えなくて、脱ぎ方がわからなかったけど。
姫さんが背中に付いた金具を見つけて、脱がせてくれたのだ。
そしていま、〝よほど大柄じゃ無ければ誰にでも着られる〟っていう迅雷の言葉を信じて――姫さんに着せてみてる。
コッチの声が聞こえなくなるけど――ビードロが使えなきゃ、意味がない。
迅雷は強い服と兜頭をつなぐ蝶番みたいになってて、取り出せない。
もうこれしか、方法がない。
ぼくは、うしろから兜頭にとびつき――ちから一杯、押し込んだ。
ムギュッ――ばくん♪
ぷぴぽぽーん♪
閉じる音が聞こえ――――
「ふぎゃ、にゃみゃみゃにゃにゃっ――――!?」
猫耳頭が叫ぶ。なるほど、こうなんのか。
たぶん、〝私、食べられてしまいましたわー〟だ。
「いーから落ちつけ。まずコレを見てくれ。たぶん上級鑑定結果が、目のまえに出るから――」
これは、聞こえてねえとは思うけど――指を指し、身振り手振りで〝鑑定結果を見ろ〟と訴えた。
チーン♪
自分の上級鑑定スキルで、ソレをもういちど見る。
串揚げが出来る、串揚げ一式がそろった収納魔法具。
その中から椅子と机を出し、そのうえに置いたのは――
さっき見つけた、長い箱には〝手で持つ所〟がある。
「見方によっちゃ、迅雷みたいにも見える……かな?」
柄や板や石や、なんかの摘みがやたらと付いてるから、迅雷か飯の神が居ないとまるでわからない。
目のまえの、ひかる板っぺら。
『星間通信機【非売品・雅】
別ワールド(別惑星)との通信が可能になります。
追加効果/アカウント内に別ワールドが存在する場合、
1分につき2ヘククの料金で通話が可能になります。
※データ通信の場合、容量にかかわらず1パケタ/回の、
料金が必要になります』
これは、ぼくにしか見えない上級鑑定結果だけど、〝猪蟹屋ん〟のビードロ(大)にも、おなじ物が見えてるはず。