131:龍脈の棟梁(シガミー)、姫さんがおちてきた
すたたたぁぁん――すとととととぉぉぉぉぉぉぉん――――――――!
ところどころ、出っ張った円形。
巨大穴(建設予定地)の外周を、ザッと見てまわる。
すたたたぁぁん――すとととととぉぉぉぉぉぉぉん――――――――!
「こりゃ、快適だね♪」
大きな頭が邪魔をするかと思ったけど、風にあおられることもなく――時速120㎞が出せている。
この広いビードロは見やすいだけじゃなくて、いろんなことがひと目でわかった。
温度は26℃。たしか、ちょうど良い範囲だ。
方角は南南西から南西へ。
あたりに動く物はない。。
ふぉん♪
『>空中での姿勢制御に〝FATS〟のサブシステム、〝ジャイロマスター™〟が使用されています』
わからん。
けど、このでかい頭で、コレだけの速度を出しても、まるでふらつかないのは便利だ。
どこまでも加速していける。
――ぴっ♪
『▼』
ちいさな三角がでた。
遠くの方に、崖から剥がれ落ちたらしい、切り立った大岩が生えてた。
「うぉりゃぁ――!」
籠手についた手袋みたいな、指のない手。
つよく握って――――ぼっきゅむぅぅぅぅぅん♪
ばがぁん――事もなく粉砕される大岩。
強い服の速度は落ちず、殴った面白い音が――うしろに流れていく。
手先を見た。土汚れひとつ付いてない。
全身に、魔法か迅雷のなんかがほどこされてて汚れない。
しかも、とても頑丈で、とても動きやすい。
「この服越しだと、魔法とか魔法具は使えないよね?」
「――使用可能でス――」
う゛――――じゃりりぃん♪
「お? 長ぇし、太ぇぞ?」
錫杖を出したら、いつもとくらべて、すこしだけ長くて太い。
天狗装束のときも、すこしだけ長くなったけど、強い服は太さもあった。
すったぁぁぁぁぁんっ――――ぐるんっ!
空中でカラダをねじり、反動をつける。
そして――――ひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅっん!
長くて太くて、ちょっとだけ重い――得物をチカラのかぎりに振りまわした!
「うぅうぅうぅぅぅぅぅうぅぅぅうううぅぅぅうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉゎぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっりゃぁ――――――――――――――――――!!!」
ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ――――反動で強化服が一回転。
「なっ、なっ、なんだこの、カラダのキレわぁっ――――!?」
それは、いままで感じたことのない――――心と体の動き。
未知の体現。
前世で培った、太く重く長大な錫杖のあつかい。
今世で手に入れた、子供の一切癖のない、柔軟で整いきったカラダ。
ぶぉぶぉぶぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ――――――――――――――――!
なんでか、わからないけど……いつまでも、地面が近づいてこない。
カラダが、もう一回転する。
目のまえを崖と空と地面が、ながれていく。
このあいだの、烏天狗のときにも思ったけどコレは――度を超えてる。
かんがえた動きを〝体現すること〟において、毛程のズレも無いこのカラダは――異常だ。
一生をついやした、修行。
真新しく活力にあふれる、あたらしい手足。
そのふたつを勝手につなぐ――強い服(猫耳族)。
「これで――」
これで錫杖の中に直刀でも、仕込んであったら。
〝僧兵・猪蟹〟として、とうとう到達できなかった領域へ、たどり着けただろう。
ふぉん♪
『>その太さですと、仕込み杖が再現可能なので、再現してありますが?』
一行の文字。迅雷の返事。
『再現してありますが?』『再現可能』『仕込み杖』『再現してあります』
体現できるということは、頭がそう考えられるということ。
ぶぉぶぉぉん――――くるくるるるっ――――――――――――――手の甲を経由し、回転速度を落とした。
おのずと手は、錫杖の頭をつかむ。
ぎゃりりりぃぃぃぃぃん♪
鳴る鉄輪。
技の名は無ぇ。
零の太刀よか、下は無ぇからだ。
なにもねえ――さしずめ、あれだ〝滅〟の太刀。
「――シガみー、バイタルにギルド倒壊時とオなじ波形ガ――」
しゅっかぁ――――ん♪
しずかな剣筋。
修行のさなか、目のまえを通りかかった鳥を切ったのは――一度きりだ。
大道芸にしかならなかった、手習いの剣。
その境地――――――――かちん!
おさめた刀。
あれ?
大穴の反対側。
ズ――レる視――界。
おれぁ、いま何を切った?
とおくの崖が、横一文字に切りつけられ――――地を揺らした!
どごごごごごごごごずずずずずずずずずずずずずずずずががががっががががががががががっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっどごごごごずずずぅむむん!
遅れてとどく、轟音。
「――シガみー、自重とイう言葉ヲ覚えル必要があるのでワ?――」
崖にできた横穴は、地上から離れてたから、陥没したりする心配はない。
けど一歩間違ったら、ガムラン町に居られなくなる所だった。
――――――――――――。
1分くらい続いた揺れが、収まったころ――
――ぴっ♪
『▼』
すごく、ちいさな三角がでた。
相当、上から岩かなんか――落ちてきたぞ?
ヴュゥゥゥゥ――♪
広くなったビードロの、すこし横の方。
遠くを近くにする板がでた。
「っきゃっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、今日はフル装備じゃありませぇんのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
あちゃぁ、ありゃ姫さんだ。
「やべぇ、間にあうかっ!?」
やっちまった。助けられなきゃ、何もかも終わりだ。
「――〝自重〟……しなければ――」
おれは、全力で駆け抜けた!
§
ぽきゅぽきゅぽきゅむ♪
すとん。
どうにかこうにかひっつかんだ姫さんを、近くに転がってた岩に座らせてやった。
「だめだ、白目むいちまってる」
「――脈拍、呼吸とモに正常。じキに目ヲ覚ますかト――」
あぶなかったー。
今後、錫杖に仕込み杖を〝再現〟するなよ?
いつまた、つい何かを切っちまわねえとも限らねえから。
「――了解しましタ――」
「ふぅ、暑いぃー!」
死ぬほど、急いだので全身汗だくだ。
走ってきた方をふりかえった。
向こうの崖まで、地面が大きく割れてる。
全力疾走だけで並みの魔物なら、余裕で倒せるな。
「――でハ3秒ノ換気、並ビに4秒ノ空気温度調節をおこなイます――」
ばっふわぁぁぁぁぁぁぁ――カシャン、ぼごぼごぼごぉぉぉぉっぅわっ!
〝頭の中〟にこもってた温さが、涼しい風に吹かれて消えた。
「――いやぁ、あぶなかったわねー……って、なんで地面とか崖とか割ってんのさっ!?――」
まだ、いたのか御神体。
「マジわるい、なんか体をうごかすのが楽しくなって――どうかしてた!」
ビードロ隅にわらわれた和菓子に、片手をあげて謝罪する。
「――無事だったんだし、あたくしさまは、べつにいーけどー、ちゃんとあやまんのよ、お姫さまにぃー!――」
もちろんだ。
「――ぎゃぁぁぁっ!?」
突然の叫び声。
「――うぉわっ、お、おどかすなよっ!」
「――えっあら、あれっわたくしっ――生きてますの?」
みたら姫さんが、気がついてた。
おれ……いやぼくは……もうどっちでもいいや。
荒く息をし、放心する姫さんのまえに、ひざまつく。
「姫さん! 本当にすまねぇ! ちょっとした手ちがいで、やり過ぎちまった。あやまるっ!」
「え、猫耳族――じゃない!? ま、魔物っ!?」
――――ィィィィィィィィィッィィィンッ!
ぅあっぶね!
いきなり〝聖剣切り〟で、切りつけてきやがった!