130:龍脈の棟梁(シガミー)、極所作業用汎用強化服
ふぉふぉん♪
迅雷が〝ビードロ(大)〟に映しだしてくれたのは、〝強い服〟の全身……らしい。
頭をまるごとおおう大きな獅子頭と、カラダをすっぽり包む装束。
それはまるで、御神体の逆さ鏡餅。
「――女神粘土でス、シガみー――」
そうそう、女神粘土だ。
神々の世界で流行してる……木彫りの人形の名前を、いつも言い間違える。
「しかし、これは――御神体そっくりだね」
まるい頭に、ちいさな体がくっ付いてる。
かわいいって評判の、ウチの飯の神みたいな輪郭。
子供や姫さんが見たら――すごい勢いで飛びついてきそうな。
「――やだー! ジガミ゛ー、超ガワ゛イイィィー♪ j☆fj∮んkぇb、ッブッツン♪――」
五百乃大角が奇声を発して、どこかにすっ飛んでいった。
まあ、放っとこう。
ひまな御神体に言われるままに作ったのは――〝強い〟らしい服だった。
「――極所作業用汎用強化服でス――」
長いよ?
「下に着てる、姫さんのお下がりに似てるかな?」
上下がつながってて、土埃が服の中に入ってこない所とかが。
「――どちラも作業着なノで、機能ヲ追求すルと似た構造になりマす――」
ふきゅ♪
自分の手を見ると、ビードロ(大)の中の強化服も、服の手をじっと見てる。
ぽきゅぽきゅぽきゅきゅむ――何もないまっさらな地面を、かるく走ってみた。
金剛力は、たしかに使えた。
ぼきゅむ――すととぉん!
崖に向かって跳びあがる。
ぽきゅむ――すたたたたたっ♪
普通に断崖絶壁を、どこまでも蹴あがれた。
――――ととぉぉぉん――――――くるくるくるるるっ――――――ぽっきゅん♪
崖を蹴って、華麗に着地。
「こいつぁ、面白いねっ♪」
金剛力より、自然に動ける。
「――パワーろス……緩急ノ付イた動きヲ、自動的ニ〝繋グ〟のデ、神力は従来ノ金剛力とくラべ、倍程度、長持ちしマす――」
獅子神楽みたいな物かと思ったけど、〝強化服〟は着てるだけで、自分のカラダのように動かせた。
なにせ、頭の上の獣耳まで、〝思った通りに〟動くのだ。
とおくの風の音や大工仕事の物音を、右耳と左耳で――別々に聞きわけることまで出来た。
「――16ch立体音響ト、脳波連動ノ指向性外部マイクが使用可能でス――」
わからん――けど、よく聞こえて、良く聞き分けられて――こうして念話がわりの耳栓声まで、耳栓無しで聞こえてくる。
もういちど、ビードロ(大)に映し出されている、強化服の姿をよーく見た。
コレを生き物とみるなら、猫耳族の猫頭のヤツだ。
ウチに、いつも手伝いに来てくれてる猫頭と同じ……すこし、目と口と鼻と耳が大きい気がするけど。
「それにしても、今度のビードロは大きくていいね。ものすごく見やすい♪」
ためしに、迅雷の収納魔法の中にある物を、引っ張りだして並べてみる。
ぽこぽこぽこぽこん♪
出てきた〝ただの土〟の和菓子を重ねて――大きな和菓子にする。
その斜め下に、あらわれた〝ただの土〟の数は――『17⁸』
「178個になっちゃったよ? まちがって消しちゃったか?」
「――いいエ、操作は間違っていませンよ――」
よーくみると、『17』の横に小さな『8』が、くっ付いてた。
むむむぅ?
ぼくは首をかしげた。
猫耳頭の中はひろくなってるから、首を自由に曲げられる。
つられた猫耳頭も、すこし曲がった。
「――アイコンの枠内に表示しキれない、大キな数字ハ適宜省略されマす――」
わからん。
「じゃ、省略しない数字は、どうやって見るんだい?」
「――かルく目力ヲ込めてくダさい――」
くっ――ふぉん♪
『土の塊【コモン】
6,975,757,441個』
すっ――目力をゆるめると、飛び出してた板がひっこんだ。
「そういうのか。わかった」
コレだけ沢山あったら、砦ちかくの大穴も結構埋まるだろ。
折角だから、土とか木とか岩とかを、〝おなじ板〟に振りわけておく。
念話の要領で――(板作成/名前は『土と木と岩』で)――新しい板をつくる。
ひょいひょいひょい♪
目でまとめてつかんで動かして、いま作った板に放りこむ。
こまかい操作をするときは――(指先指定)――で直接手でつかめばやりやすい。
迅雷の収納魔法の中のものを、便利に使うヤツ――〝符合倫具なんとか〟の操作は、さんざん取ってきたスキルのおかげか、もう困ることはなくなった。
「――物理空間ストれージ・ファイリンぐシステムでス――」
そう、ソレな。
そして〝符合倫具死捨無〟の、いちばん上にある『≡』ってやつを、目でつよく押すと――
「――メニューアいコンでス――」
そう、〝目に言う〟だ、〝目に言う和菓子〟」
ふぉふぉ――ぽん♪
ビードロの中に、別のビードロがあらわれる。
まえに女神粘土を作ったときの、〝絵で板〟っていう光の格子。
強化服をつくるのにさっき、また使ったけど、これはほんとうに面白くてこまる。
〝強化服〟を着れば、いつでも呼び出せるようになったけど、時間がいくら合っても足りなくなるに決まってる。
けど一度くらいなら――またレイダにも見せてやりたい。
「――強化服はフリーサイズなノで、よホど大柄でなケれば、誰にデも着せられマす――」
じゃあ本当に一度くらい、レイダやリオにも見せてや――
ヴュウワァ、かちゃかちゃかちゃ、ぷぽん、ぽこん――なにもない〝絵で板〟の格子の中に、ひとりでに形作られていく――タラーン♪
完成した輪郭。見なれた形。
となりに、映しだされている強化服とおなじ――まるくてでかい頭に、小さいからだ。
ぐぐぐっ――すぽん♪
すたりと、格子からとびおりる御神体。
「――〝キャラメイク・エディタ〟を普段の工作に使えるようにするのに、あたくしさまの虎の子のSPを使ってあげたんだからぁ、大事にしてよねー?――」
二歩もあるくと、いつもの小さな〝和菓子〟になった。
いや平たいから、〝火鼠る〟ってヤツか?
まあとにかく、下っ腹に違いはない。
「――イオノふァラー。物理空間ストレージ・ファイリンぐシステムに、内部から侵入するのハお控えくダさい。事象ライブラリの保全ニ支障が出なイとも限りませンので――」
ほんとうに自由だな、この梅干しさまは。
御神体っていう〝肉体〟にしばられたら、すこしは大人しくなるかと思ったんだけどなー。
「あれ、まだ強化服に、名前つけてないの?」
名前? 強化服の和菓子に、目力をかける――
ふぉん♪
『防具セット:名称未設定』
さっきのなんとかいう長いのが、服の名前じゃないらしい。
「もー、そんなの一択に決まってるじゃない! シガミーも迅雷もグズが過ぎるわよっ(キリッ)! じゃあ、あたくしさまがつけてあげる。報酬わぁー、お寿司ぃでいーい-わぁ、感謝なさいっ! どかーんっ♪」
ふぉふぉん♪
『防具セット:シシガニャン』
服の名前が、〝猪蟹屋〟みたいになった。
極所作業服/人が耐えられない極所環境に、耐えるための防護服。
強化服/パワーアシスト機能や、工作機械などを取り付けた人用の外骨格。パワードスーツ。