13:食いつめ幼女、インテリジェンス・タレットがばれる
『F級クエスト薬草採取』の依頼は、今日もない。
つぎに依頼書が張り出されるのは一年後だ。
30パケタの大金をもらったときに鬼娘が、『そう簡単な話ではないのよねー』なんて言ってたのは、こういうことか。
「(1キーヌが一文。1パケタが100文になります)」
三千文てぇこたぁ、三貫文だろ。
寺社札もつかえねえ見知らぬ土地で、一年くらすのは、かなり心許ねえ。
「(一年は360日。収入は一日あたり8キーヌ。一日に必要な金額が3ヘククだから、毎日1ヘククと2キーヌ足りない計算になります)」
ふつうなら20日かかる仕事を半日でこなしたが、つまるところ大赤字だった。
「なれてきたこの町に定住できないのは残念だが、しかたねぇなぁ」
一年を通して食べていけないのなら、他の町に出向けばよいのだ。
§
『F級クエスト掲示板』のまえに立つやつがいた。
その子供はおれより少し背が高く、自分より長い細杖を背負っている。
「ねー、最近、F級クエストがなくなったのはどーして?」
「薬草採取のお仕事は、しばらくないのよ。ごめんねー」
鬼娘でも狐耳でもない受付係に、あしらわれてる。
「(おい。この町にも、おれ以外の子供がいるんだな)」
「(はい、マスター。そのようですね)」
とぼとぼと帰ってく子供。
身なりは綺麗だから、食うに困るわけではないと思うが、おれがひとり占めしたことに変わりはない。
『そう簡単な話ではないのよねー』という鬼娘の言葉には、
さらにもう一つ別の意味も含まれていたらしい。
これじゃあ、どこの町に行っても、同じ事だ。
全部のF級採取クエストをおれがこなしてしまえば、そのギルドにF級の仕事がなくなる。
「あ、あのよぅ……」
「なによ? ……あら、めずらしー。この町で子供の冒険者なんて」
杖を背負う子供は、そとに通じるおおきな扉――ではなく掲示板よこの細身の扉にてをかけた。
「そういうおめえも、ぼうけんしゃじゃねーか!」
「んなっ! な、なんて口が悪いのかしらっ!」
なまいきなガキだな。これだからガキは。
「(マスター……いえ、なんでも)」
「なんでい、文句あんのかっ!?」
あ、いけねぇ。つい声に出ちまった。
「あなた、そんなに可憐なのに、なかみは男の子みたいね!」
「ちがう、今のはおめえに言ったんじゃなくてな……!」
「ほかに誰がいるって言うのよ!? ……え、ちょっとまって?」
おれの〝後ろあたま〟に興味を持ったのか、生意気なガキがおれのあたまを――がしりとつかんだ。
「あなた、これひょっとしてアーティファクト!?」
おれのうしろ髪をクルクルと巻いていた、短い棒。
「ハじめまして。オ嬢さん。私はインテリジェンス・タレット。形式ナンバーINTTRTT01デす。以後おみしりオきを」
「おまえ、しゃべれたのか!?」
空飛ぶ棒、又の名を秘伝書、独鈷杵、短い棒。
その声は、あたまの中で聞くよりも、ずっと変な声だった。
三貫文(さんかんもん)=約360000円
※諸説有ります