124:カブキ者(シガミー)、カブキーフェスタ前哨戦
「いいわ! けど、おチビちゃんに勝ったらテェーングさまと、お手合わせしてもらうわよ?」
ぺろり――その綺麗な顔で、舌なめずりをするな。
「えっ――ズルいっ! なら私も是ぇ非――」
やめろ、混ざろうとすんな。
姫さん相手じゃ――金剛力が使えなきゃ、簡単にふたつにされちまう。
「カラステェー? 服装は、たしかにテェーングさまそっくりですが……シガミーは、あの少年を、ご存じで――あら、いない?」
「シガミーなら、さっきトイレに行くって、一階にあがっていったよ」
白いのと若ぇのが、ぼくのウワサをしている。
一気にケリをつけて、さっさと会議にもどらないと――
「クカカカカッ――――師より受け継ぎし修験の技、うけてみろ!」
階段の手すりの上から、鬼娘を見下ろす。
本調子なら、余裕で圧倒できる立位置。
けど、いまは非力な体で戦うしかない。
それでもこの世界に〝落ちてきた〟時からみたら、LV100の底上げで随分と頑丈になった。
この子供の柔軟さ――自在にうごく手足も武器になる。
剣速は達人の域をとうに超え、前世のおれより早ぇ。
ふらりっ――からだを倒し、落ちていく。
金剛力のない、長手甲でもない――ただの籠手。
おおきく伸ばして、姿勢を安定させる。
ギャギィィィィ――――!!!
階段の下では――火花を散らす剣先が――床に埋まってる。
むこうは、自前の金剛力をつかう。
鬼の怪力は――倉庫の硬い床に食い込んでも――お構いなしに、切りつけられる。
「コラッ――オルコトリア! 修理にいくらかかると思ってんの!?」
職員のだれかが、怒ってる。
ィンッ――――火花が途切れ、剣先が放たれた!
コッチの武器は、短い小太刀だ。
居合の剣速の遠閒から――到達する長大な剣。
あれに真っ向からぶつかれば――小太刀も、ぼくのからだも折られちまう。
「(迅雷――〝ゲタスベール〟は使えるな?)」
「――はイ。可能でス――」
「(じゃ、合図したら使ってくれ――)」
「――はイ。オンオフは自在でスが、積層構造ノ切り替エは一方向だけデす、順序に気をつケて――――」
ブォォォォォォォンッ――――!
斜め上空に向かって、突き上げられた長大な鉄板。
アレは工房長に頼んで、作り直された――特別製だ。
コッチの小太刀と、おなじ手順で作られてる。
つまり、ただの鉄だが――切れ味が段違いに鋭い。
「(刀で)――流す!」
シュッカン――――!
黒鞘から撃たれた、最速の居合。
――――リィィィィィィィィッン!
天上まで振り抜かれた、鬼の金剛力。
コッ――切結ぶ刃と刃。
火は散らず、上剣と下刀の重さがぶつかる。
そしてその衝撃がすべて、〝烏天狗の軽さ〟になった。
「何この手応え――羽根みたいっ!?」
慄く、綺麗な顔の鬼。
――――――――ブォォン!
烏天狗の小さな体が、吹き飛ばされる。
「「カラテェー!?」」
影天狗が叫ぶ。
一階の階段横に隠れた、ルコルの声まで聞こえた。
スゥゥゥゥッ――チャキン♪
小太刀を収め、もういちど籠手を大きくひろげる。
階段を飛びこえ――天井の角にぶち当たる直前!
「(下駄で)――受ける!」
片足を振り上げ、天井の角に下駄を突き込んだ!
ガゴコオォン!
下駄が突き刺さり、天井を支える石材に――ギャキギュコギギッ――ヒビが入った。
「痛ってっ!」
「――大丈夫でスか、シガみー?――」
「(かまうなっ……つぎは下駄で)――流す!」
両足をそろえ、下駄の歯を横向きにして――壁伝いに落ちる。
――――シャシャァッ!
階段の天井なんて、高さはほとんど無い。
すぐぶつかる!
「(昨夜、断崖絶壁を駆けおりたのに、くらべたら軽い、軽い!)――ぃよぉっとぉっ!」
壁をおもいきり蹴り――階段に着地――できたっ!
シャシャァッ――おっとぉ――シャシャァァァッ!
ルコルの魔法杖のうしろで、下駄の歯をななめに立てた要領で――ズザザザッシュッ!
よし曲がれる。なれれば、櫂で船を漕ぐようなものだ。
階段の先には柱が有ったから――勢いまかせに柱を蹴った。
どかん――ズシャシャァッ!
空中を飛び――あらよっとぉ――作戦会議室兼、倉庫の壁に着地した。
シャシャァァァァァァァッ――――――――――――!
「か、壁をすべって――る!? た、たしかにテェーングと似た動きをするわね! けど――」
ダダダッ――――鬼娘が、長剣を担いで駆けだす!
見れば壁の先には通路があって、足場が途切れていた。
「うぬぅ――!?」
ぐりん――――ッシャァァァッ――――!
腰をひねり、天上方向へにげる。
「「うふふふ――?」」
耳栓が、コントゥル母娘の声を拾った。
「――ねぇ、リカルルちゃん?」
「――なんですか、お母さま?」
「今日わねぇ、実は〝あの子〟に会いに来たのよぉー♪ 会えて嬉ぇしいぃぃぃぃぃいわぁぁ――――くすくすくすくすくすくす、コォォン♪」
なんか昼日中に、ましてや建物の中で見えたらいけない月影が――爛々としてる気がする。
「ぬぬぅ――!?」
ぐりん――――ッシャァァァッ――――!
すぐに天上が迫り、床方向に舵を切る。
「そうだったんですの? すっごく興味あるので、そのお話、後ほどくわしく――うふふふふふふふふっ♪」
月影が、一人分増したような気がする。
「さぁっ、来いぃぃ――っ!」
やべぇ、オルコトリアが通路まえに陣取った。
逃げ場がねぇ……よし!
ぐりん――――ッシャァァァッ――――!
腰をひねり、もう一度、天上方向へにげる。
「けれど、ガムラン町に子供は、レイダとシガミーしか居ないはずでは?」
ギュギュギュィィィィィン――――!
「さっき、テェーング爺さんの弟子って言ってたよねー?」
お、いいぞ若ぇの。
弟子で関係者って所を、もっと吹聴してくれ。
「うっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっるぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ごきり、びきびき、ぼきり―――!!!」
長剣を振りまわす腕だけじゃなく、両足と首まわりまでが、倍化する!
さすがは鬼だ。相手にとって不足はねぇ!