123:カブキ者(シガミー)、影武者ニャミカ推参!
「……コンコン、入ってますコン?」
ん? かんがえ事に忙しいって言うのに、誰か来た。
「……まったく、あんニャに食べるから、おなかを壊すミャ?」
ドア越しで声がとおいけど、この声には聞き覚えがある。
「――シガみー――」
「(ああ、まったく何やってんのかな、アイツらは――)」
ギルドの一階には廁が、何カ所かにある。
けど隣町のギルドとは作りがちがうので、彼等は気がつかないかもしれない。
「(かわいそうだから、ひとまず出るか)――はい、出ますよー」
ガチャリッ――キィィ。
「すまないコン。助かったコォン」
バタンッ――ガチャリッ!
入れかわりに、廁にかけこむルコル。
「あニャん? その帽子――どっかで見たニャ」
「ぼくだよ、ニャミカ」
店に出る格好だと、後々シガミーと同一人物だとバレそうだから――カラテェの格好にした。
ルコルにもらった獣耳の帽子に黒い覆面。
その下は森で採取するときに、時々着てた袖長と山袴にした。
普段はやらないけど迅雷を使えば、こんな風に早着替えができる。
「あらっ、カラテェじゃニャいの! ひさしぶりニャッ♪」
「まだ半日も、過ぎてないよ?」
「……えっ――カラテェコォン?」
扉の中から覇気のない、あわて声が聞こえた。
「そうだよ。おなか大丈夫?」
この時間がないときに――けど、せっかく出来た友達だ。
困ってるなら助けてやりたい――本当に時間ないけど。
「――そうでスね。仮にモ雇い主と同僚でモ、あるわけでスし――」
本当に〝仮〟だけど、そうなるなー。
ぼくは仮にも、ルコルの喫茶店『ノーナノルン』の専属鍛冶職人だ。
「ちょっと、食べ過ぎただけだから――大丈夫コォォン」
いつにも増して、覇気がなかった。
「じゃあコレ――毒消し草から作った、おなかの薬をあげるよ――あと水も」
ヴ――小さな杯につくり置きの丸薬――ころん。
生活魔法を――ちょろり――注いでやる。
ガチャリッ――キィィ。
「ありがとうコン。恩にきるコォォン」
あいた扉からのびる手に、渡してあげる。
さっ――バタンッ――ガチャリッ!
再び閉じられる扉。
「(食べ過ぎ、飲み過ぎ、下痢に便秘となんにでも効くから、たぶんコレで大丈夫――だよね?)」
「――はイ。ありとあらユる毒物中和に整腸作用もあるのデ、5分モ休めバ回復すると思われまス――)」
「ふぅ――それで、お目当ての物は――おいしく食べられた?」
「それはそれは、おいしかったニャン♪」
「……それはそれは、食べ過ぎるほどコォォォォォォン――――!?」
ドアの向こうから、覇気の無い雄叫びが聞こえてきたので――ぼくとニャミカは広間までもどった。
§
「ふぅん。町の人への、お師匠さまからの言づてを頼まれたコォン?」
あのあとすぐ、ルコルはスッキリとした顔で、廁から出てきた。
「けど、お弟子さんだって証拠になる手紙を無くしたのニャ?」
ぼくたちは階段下の長椅子に座って、話をしている。
「そうなんだよ。どうしようかなって」
考えごとが顔に出てたみたいで、ものすごく心配されたから、そういうことにしておいた。
覆面越しによくわかるなと思うけど、獣人族の相手の気もちを推しはかる能力はとても高い。
…………獣人族のリカルルの傍若無人な行動は、相手の気もちを推しはかった上で行われているので――
「――タチが悪いでスね――」
まあ、そういうな。アレはアレでなかなか出来ることじゃない。
ぼくに、コントゥル家の家宝である『死んでも生きかえる結び紐』をタダでくれたりしたし、弱い者に対しての責任感みたいなものがちゃんとある。
「――そうですネ。中世程度……戦国時代の文化水準で、これホど子供や女性やオ年寄りへの配慮が行き届いテいるというのは賞賛に値しまス――」
『現在時刻 15:46:58』
そろそろ、御神体の説明がおわる頃だ。
「――どうしましょウか、シガみー?――」
もうお手上げだ。天狗か烏天狗の装束を、なんとかしてSDKなしで、でっち上げ――
「ニャむむぅ……そのお師匠さまは、どれくらいの背丈ミャ?」
なんだろ、背丈?
「ちょうどニャミカくらいだけど……?」
「ニャら、なんとかなるミャ。実は私は――人まねが得意ニャァン♪」
§
「カカカカッカカッ――――我こそは、テェーングなりミャ!」
「――シガみー……――」
「(なにも言うな……もう、押しとおす)」
「クカカカカッ――――その弟子、カラテェ――見参!」
ギルドの階段から、姿をあらわした二人組。
ぽかーんとコチラを見上げる、会議参加者&見物客たち。
ヴュゥゥゥ――ッ♪
迅雷が、五百乃大角の動きを拡大――御神体の小さな口も、開いたまま閉じなくなった。
「何でも、わしを探していたそうじゃな――ミャ?」
語尾が冴えわたる!
「(おい、五百乃大角。助っ人を連れてきた。この場は、これで切り抜け……よう?)」
ごちん――ひっくりかえり、頭を長机に打ちつける御神体。
さかさまの鏡餅みたいな全身が、ぷるぷる震えてる――アイツ、笑ってやがるな!
「あら、て、テェーングのお爺さま! せ、せせせせせ、先日はどうも――――あれ、なんか?」
オルコトリアが立ち上がり、天狗をみつめる。
なにその、あかい顔。風邪でもひいたのか?
「ちょっと、まって。なんか――違う?」
おい、なんで今日は、その長剣持ち歩いてんだ?
ふだんはギルドの中では、帯剣しないはず。
「(さすがに、あんな大根役者じゃ……無理があったな)――待たれい、我が師は誠の天狗なり!」
ニャミカとぼくの声は、覆面でさえぎるように迅雷がうまい事やってくれてる。
コレは、覆面が持つ機能だってことにした。
大声のしわがれ声は、老獪な老人の天狗声に。
カラテェの声は、少年の声に変えてもらった。
そのワケは、あとで話すことにしたんだけど、二人とも「「生きてれば隠し事なんて、100や200あって当たりまえコォン」――ミャ」と気にしないでくれた。
掛け値なしに、気の良い奴らだ。
「――はイ。ですが騙されやすそうで、喫茶店ノ経営が少し心配になりまス――」
「うん。アイツらには近いウチに、シガミーとカラテェが同じだって話すよ。迅雷は、店のことで何かあれば助けてやっ――――」
スラァァァァァリッ――――!
いま念話が使えるのは、ぼく側だけだから――すこし話しこむと、こうしてどんどんと状況が進んでいく。
「本物かどうかなんて、一回、剣を交えれば――すぐにわかるわよねぇー?」
長剣を抜いた、鬼娘の腕が――ごきり――ふくれあがる!
「ば、ばれたミャッ――――どうするミャ?」
ヴ――ぱしん♪
黒い小太刀を取りだし――カカン♪
階段の手すりに、一本下駄で立つ。
「あいやぁ、待たれぇい! 我わぁ一番弟子のぉ烏天狗なぁりぃ――師への侮辱はソコまでにしてもらおーか!」
「切結べばわかる」って言うなら、ソウさせてもらう。