122:カブキ者(シガミー)、バリアント対策講座
「えーっと、こっちの方が、見やすくてイーでしょ♪」
ヴューッ、パァァァン。
おれ、いや……ぼくの顔を覆う透明な板と同じような光の壁が――黒い壁板に張りついた。
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉ――――!?」」」」」」」」」」
まわりの連中が全員、驚いてやが……驚いてるね。
それはそうだな、ぼくだって最初はたまげた……びっくりしたからね。
「こ、これは――ひょっとして女神像のまえにあらわれる、ひかりの啓示ですか?」
「鑑定時に出現する文字盤とおなじ物にも見えます」
ギュギュギュギュィィィィィィィン――――!
「んーまー、そーねー。それでね、見て欲しいのは――こ・れ!」
映しだされたのは――一体なんだ?
枡目に切った豆腐みたいなのに、切り立つ山の形が描かれ、その一番端に……へたくそな角ウサギの絵か?
「――この波形は神力……カミナリの発生頻度です――」
うん。神鳴りで龍脈に龍穴があいて、ソコに魔物が群がって――肥えたヤツが変異種っていう〝化けウサギ〟になる。
魔王って生物がいない今、この世界で一番危険だっていうんで――〝針暗徒〟って言葉と意味は真っ先に覚えた。
「(その説明も大事だけど、解決策なんて、本当にあるのかい?)」
龍脈を無くすことなんて出来ないし、出来たとしても獲物や野菜が取れなくなる。
「――解決策はすでにイオノファラーより、提出されています――」
「(なに!? どこにだい?)」
「――であるからして、コチラの発生分布図との関連を、ご説明する前に……」
指先から伸びていた、魔法の神髄をこっちに向けて――御神体が、振り返った。
ぽこん♪
ビードロの中に現れた、平たい梅干しが、コッチを見上げる。
「――ねぇー、天狗の体をだしてくれない? あたくしさまが出しても良いんだけどさ、慣れない体に乗り移って万が一、戻れなくなったらイヤだぁしー。この〝女神粘土〟の御神体、結構お気にだしさー♪――」
「(天狗だって――?」
そりゃ無理だ。
「(――な、何に使うんだい、あんなもの?)」
おれが夜中に、壊しちまったからな。
「――あれよ、あれ。例の角ウサギの素材から出た〝マナ宝石〟がさ、解決策には必要なのよねぇーん――」
たしか、ギルド長が言ってたなー。
「マナ宝石の使い道を、聞いておいて欲しい」って。
「(いそがないと、ダメなのか? 悪いけど……天狗は、いまは使えないよ)」
「――え!? なんでよ?――」
「――昨夜の、隣町への移動中に大鷲に襲われ、上空から落下した際に、すべての工作用機械腕を消費しました。現在、超過稼働したSDKのインターバルタイム中ですので、天狗ならびに裏天狗、ともに起動できません――」
「――えー!? んじゃ、リキャスト開けはいつ?――」
「――本日深夜、2時頃でス――」
「――ほんっとうに使えないわねぇ、あんたたちはっ!――」
いまっすぐに、欲しいのっ――〝マナ宝石〟がっ!
おかんむりの美の女神兼――和菓子。
この小ささだと、ひとつも怖くなくて、逆に申し訳なくなってくる。
天狗に聞いてきたことにすれば済む気もするけど、天狗は町には滅多に来ない。
下手なことを言うと「危険な岩場に夜中に行ったのですか?」ってリオに怒られかねない。
「(まあ、まて。天狗を使わなくても、天狗の代理でもいりゃ――事は済むだろ?)」
「――天狗の代理……まさか、シガミー。〝カラテェ〟の姿になるつもりですか?――」
仕方がないだろ。高下駄に長手甲が無いんじゃ、天狗にはなれないし。
「――なぁに、カラテェって。カフェラテみたいで、おいしそーなんだけど♪――」
ルコルみたいな事を言ってるな。
なんだ、カフェラテって?
「――あたためた牛乳に珈琲……苦い焼き豆茶を溶かした飲み物でス――」
ふーん。甘い菓子なんかに、合いそうだなあ。
§
「さて、御神体が〝龍脈〟の説明を終わらせるまで、あと精々10分しかない」
ここは、ギルド一階の廁だ。
「――目的遂行のタめに必要なノは、次のふたつデす――」
ふぉふぉん♪
『1:カラテェとシガミーの両立
2:カラテェをテェーングの代理人と思わせる
※但し、SDKが無いため、コントローラーによるリモート操作は不可能。』
「これさー……結構、大変じゃないか?」
「――はイ。でキると大見得ヲ切ったノは、シガミーでス――」
まいったな。
こういうときに頼りになる、仲間が欲しいとこだけど。
リオもレイダも、女神がらみの厄介ごとに――これ以上、巻きこむわけにはいかない。
リキャスト/リキャスト・タイム。RPGゲームで魔法や奥義を発動後、再使用可能になるまでの時間の事。